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11.なんのことだ!?
しおりを挟む俺は、殿下を探して走った。
もしかして、俺、すごく殿下を傷つけたのかもしれない。殿下と話すのは緊張するし、ドキドキして、何もうまく話せないけど……このままなんて、嫌だ!!
殿下を探して走る。だけど、見つからない。空から探した方が早いかもしれない。
俺は、羽を広げた。
もう夜だ。日が沈んだ。力が戻る。魔力が溢れるようだ。
羽を広げて猛スピードで飛びながら、殿下の魔力を探した。
夜の暗がりが広がって、いくつも街灯が順についていく中、見つけた。寮の方に向かって歩く殿下の姿を。
「殿下っ……!」
呼んでも、殿下は振り向かない。気づいていないんだろう。
こんな上空から声をかけても気づいてもらえない。もっと近くまで行かなきゃ。
「殿下!」
殿下の周りの地面が、微かに光るのが見えた。地面から、光が漏れている。
魔物だ。
殿下の周りの地面から、強い光を放つ骸骨が飛び出してくる。
俺はすぐに、魔力の槍を作り出した。
殿下を害するものは、何であっても許さない。
魔力を帯びたまま、殿下の背後に降りる。勝手にまた背後に立ってしまった俺に、殿下は振り向いた。
「ヴァンフィ!?」
「……お叱りは後で受けます。今はどうか、俺から離れないでください」
魔力を込めた槍を振る。その刃先から生まれた闇が飛び散り、周りにいた骸骨を食い潰す。骸骨はあっさり、光の粒を撒き散らして消えた。
これでもう大丈夫。
敵は消えた。
俺は、殿下に振り向いて、その場に跪いた。
「……ご無事ですか?」
「……」
殿下は何も言わない。
やはり、また怒らせてしまったのだろうと思ったが、殿下は、俺の頭にそっと触れた。
見上げたら、殿下はわざわざしゃがんで、俺と目を合わせている。
「お前は?」
「へ?!」
「お前は大丈夫かって聞いてんだ!! ちゃんと話せ!!」
「あ、はい……だ、だ、だだだだだ大丈夫です……」
「そっか」
殿下は微笑んで、俺の手を取ると、俺を立たせてくれた。そして、俺の好きな顔で微笑んでくれる。
「相変わらず、お前はすげーな。一瞬だったじゃねーか」
「へっっ!? あ、よ、よ、夜だからっ……です。俺は……夜の方が力が出るので…………」
「いいじゃねえか、べつに。俺が夜の魔法使えるんだから、俺のそばにいればっ……」
「え?」
殿下は、慌てた様子で口元に手を当てている。
ど、どうしたんだろう……
そうだ。俺は嫌われていたんだ。こんな風にそばにいたりしたら、不愉快だろう。殿下を苦しめるために来たんじゃないんだ。
俺は、殿下の手を振り払おうとしたけど、殿下はますます俺の手をぎゅっと握ってくる。
「で、殿下!??」
「さっきは悪かったっっ!! さいてーな態度とって!!!」
突然大声を上げた殿下が謝ってくるけど、俺はなんのことかわからない。
最低な態度? 殿下が? 俺に? したか?
それより、そんな風に力を入れてぎゅっと手を握られると、俺はもう真っ赤になってしまう。
「あ、ああああああああのっ……! で、殿下っ……!??」
「お前が俺のことっ……なんとも思ってないって知って……ムカついて…………それでつい……悪かった!! 許してくれ!!」
「うええええええっっ!!?? え!? え? ゆ、許す?? な、なななななな何をっ……!? え? え?? うええ??」
焦るだけの俺に、殿下は、俺が持っている紙袋を見下ろして言った。
「……それも……好きにしていいから……」
「へ!?? あ、これ?? え、で、で、でも、で…………いた……舌噛んだ……じゃなくて、こ、こんにゃっ……婚約者に渡さないと……」
焦るだけの俺の俺の手を、殿下は、またぎゅっと握る。
だから、手を握るのは無理っ……!! ますます顔が赤くなって、心臓壊れそう!!
「い、いいんだよ! もうその話は……お前の気持ちは分かった!! あの求婚はなしだ! 婚約もなしだ!!」
「うえええええええっっ!!?? な、なんでですか!?? ダメです!! なんで婚約がなしになるんですか!」
「今お前に断られたからだろっ!!」
殿下は、俺を見下ろしている。
「え? おれ?」
「お前だよ!! お前!! 今俺の求婚断っただろ!! 俺が求婚したのはお前だけだ! 断られたら婚約もなしだ!」
「へ……えええ!?? な、なんで!? 求婚!?? い、いつ!?」
「いつうぅっ!? お前っ……俺の求婚忘れてんのか!?」
ついに、殿下は俺に掴みかかってきた。
だけど、俺はおろおろするだけ。だって、求婚? そんな話、初耳だ。
「い、いいいいいいえ!! だ、だって……わ、忘れるも何も……お、俺……求婚? されてない……」
「はあーー!? 言っただろ!? 一年前! 指輪だって渡して……お前、受け取ったじゃないか!!」
「な、なんのこと……?」
指輪なんて、受け取った覚えがない。求婚だって。
俺はもう、パニックだった。
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