全ての悪評を押し付けられた僕は人が怖くなった。それなのに、僕を嫌っているはずの王子が迫ってくる。溺愛ってなんですか?! 僕には無理です!

迷路を跳ぶ狐

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32.張り合いがない……

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 こうして、魔物退治をすることが決まった僕らは、装備を整えて、出発の用意をした。

 殿下にいただいたローブを身につけると、なんだかいつもとは違う緊張が湧いてくる。
 回復のおかげで、体もこれまでよりずっと軽いし、装備も揃えて、いつもより戦えそうだ。

「トルフィレ様……これ…………」

 そう言って、キャドッデさんが僕に、魔法のかかった短剣を渡してくれる。

「……ありがとうございます……」

 これが、僕が魔物を倒す時に使うもの。小さな魔物くらいなら、簡単に切り裂くことができる。

「魔力……込めておきましたが、毒の魔物と戦うなら、注意してください。魔法くらいなら、これで打ち払えますが、魔物の毒を切り裂くことはできませんから」
「は、はい……毒の方は、大丈夫です……」
「……本当ですか? 解毒のための回復の薬、渡しておくので、重々注意してくださいね!」
「わっ、分かりました!! すみませんっっ!!」
「……いや、謝らなくていいんですけど……」

 困ったように言いながら、キャドッデさんは、僕に回復の薬を渡してくれた。

「これと、これも……レグラエトが準備したんです。持っていってください!」

 次々いろんな種類の回復の薬を渡されて、僕は焦ってきた。彼らだって魔物に襲われて怪我をするかもしれないのに、僕だけがこんなにたくさん貰って行くわけにはいかない。

「あっ……あの! で、でもっ……僕、本当にっ……!」
「代わりにっっ……」
「はい!!」
「街のこと、頼みましたよ……」
「……キャドッデさん……」

 僕は頷いた。もとより、そのつもりだ。

 背後では、回復の薬の出どころを明らかにされたレグラエトさんが「キャドッデ! 余計なこと言うんじゃねえっっ!!」って叫んでいた。

「トルフィレーー!! 似合ってるぞー!!」

 そう言って、ロティンウィース様が背後から僕を抱きしめてくる。そろそろ殿下のこれにも慣れてきた。だけど慣れたのは突然ぎゅうっと抱きしめられることだけで、やっぱり殿下にこうされた時に心臓が高鳴ることには慣れないっ……!! 殿下にこうされるの……こんなに嬉しいんだから……

 だけど、ここにはみんなもいる。
 キャドッデさんとレグラエトさんとラグウーフさんは顔をそむけて気付いてないふりしてくれてるけど、パーロルットさんは、パチパチ手を叩きながら、「本当に仲がいいですねー」なんて言ってて、やっぱり恥ずかしいっ……!

「で、殿下……あの………………」

 殿下の方に振り向くと、窓の外を、こっちに向かって飛んでくる小さな竜が見えた。アンソルラ様だ。

 殿下もすぐに気づいたみたいで、僕の頭を撫でてくれてから、窓を開いて竜を招き入れた。

「アーソ、そっちは終わったのか?」

 聞かれて、アンソルラ様はベッドに降りて、あくびをしながら答える。

「終わった。すげー弱え……あんなんじゃ戦った気がしねぇ……もっと潰しがいがある奴とやらせろよ……」
「じきにもっと楽しい奴らとやらせてやる。ご苦労だったな」
「……じきっていつだよ……」

 ぶつぶつ言いながら、またあくびをするアンソルラ様。

 すると、それを見たラグウーフさんが、恐る恐るといった様子で言った。

「あの……殿下……そ、そちらの竜の方は……」
「アーソだよ」

 答えたのは、殿下じゃなくてアンソルラ様。彼は、ラグウーフさんがロウィスを「殿下」と呼んだのを聞いて、ロティンウィース様を見上げて言った。

「……バレてんじゃねーか」
「さっき話した。話しておいた方がいいと思ってな」
「……だったら先に言えよ……俺だって隠してんの、めんどくせーんだから」

 どうやら、アンソルラ様はだいぶ機嫌が悪いみたい。ベッドの上で転がりながら言う。

「隣街までの道にいた魔物は倒したよ。隣の領主にも報告した。俺にこんなめんどくせーことさせんなよ……俺、あいつ苦手なのに……」
「魔物退治の件……ヴォーヤジュ様にも伝えてくださったのですか?」

 僕が聞くと、殿下は「アーソがな」と言って笑っていた。
 ヴォーヤジュ様は隣の領地の領主様。僕は父上が話しているのを遠目に見たことがあるくらいだけど、大柄な精霊族の男の人で、ちょっと気難しい人らしい。
 この領地は、この小さな町とそれを取り囲むようにしてある周辺の森で構成されていて、隣町に行くには、かなり長い道のりになるはずだ。それなのに、もう帰ってくるなんて……竜って、すごい……

「あ、ありがとうございました……アンソルラ様……隣町との道が閉鎖されて、ヴォーヤジュ様にもご心配をかけていることは分かっていたのですが…………何もできなくて……申し訳ございません……」
「……」

 僕が言うと、アンソルラ様はベッドから起き上がり、僕を手招きする。

「え……? な、なんですか?」

 そっと顔を近づけたら、尻尾でペンっとおでこを叩かれた。全く痛くはなかったけど、殿下が僕を抱きしめてアンソルラ様から遠ざけて言う。

「アーソ!! 何をする!!」

 だけど、アンソルラ様はどこ吹く風。僕の前まで飛んできて、顔を近づけて言う。

「……お前がそんなこと言ってんじゃねーよ」
「え……?」

 キョトンとしていると、アンソルラ様は、今度は僕の頭の上に降りてくる。そして「お前が謝るなって言ってるんだ」って言いながら、尻尾で僕の頭を撫でていた。

 するとロティンウィース様が「トルフィレを撫でるのは俺の役目だ」と言ってアンソルラ様を僕の頭から下ろして、二人で睨み合いになってしまった。
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