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34.殺せるものなら、やってみろ!
しおりを挟むディラロンテたちも、突然僕に馴れ馴れしい傭兵姿の男を睨みつけている。
「なんですか……? あなたは……」
「魔物調査のバイト募集の張り紙を見て来た傭兵のロウィスでーす」
……殿下……それはもういい。
場にそぐわない、奇妙なくらいに明るい声で言われて、ディラロンテは怪訝な顔をする。
アフィトシオが魔物調査に傭兵を雇うことはよくあるけど、彼らは大体、僕の状況を知っていて、悪徳領主のクソ息子をぞんざいに扱う。だから、こんな風に僕に馴れ馴れしいパターンは初めてだろう。
アフィトシオはいつもいい加減だから、雇った傭兵のことなんて、次の日には忘れている。多分、ディラロンテにも何も伝えていない。
「……傭兵? こんなふざけたものが……? また父上が雇ったものか……」
「そうです。それより、どうしたんですか? この街の魔物退治なら、俺がやると言ったじゃないですか。それなのに、どうしました? みんなで仲良く城から出てきて」
「あなただけに任せるわけにはいかないのです。何しろ、最近はひどく魔物が増えていますから」
「そうみたいですね……昨日から見ていて分かりましたが、街にも、非常に魔物が多いようです。あなたたちも見たのですか?」
「もちろんです。街の中の魔物を退治しながらここに来ましたから」
「頼もしい限りですね……魔物の泥はどうしました? 素材は回収しないのですか?」
「…………見つけた素材は、使用人たちに持ち帰らせています」
「そうですか! それだけ魔物を退治できるなら、俺たちとも魔物退治に行ってくれますか? 強力な毒の魔物の話を聞いて、正直、ちょっと恐れていたんです。俺は魔法が苦手ですから」
「……魔物は退治しに行きます。それより、まずはそこの男の処刑が先です」
「えっっ!!?? なぜですかっっ!!?? 民が襲われ怪我をしているのに!!?? 処刑より、魔物が先じゃないんですかっっ!!??」
殿下……声が大きい……
僕を抱きしめたまま大きな声を出すのはやめてほしい。多分わざとなんだろうけど……
街のそばに強力な毒の魔物がいて、それに傷付けられた人がいることは、街の人たちも知っている。みんな、怯えながら傭兵ロウィスの方を見ているし。
ついさっき期待した反応が全く得られなかったディラロンテも、周囲でこっちの話を恐々聞いている街の人たちを見渡していた。
けれど、そんなものには全く気づかないブラットルが喚き出す。
「ディラロンテ様!! あのムカつく傭兵、なんとかしてください!! あいつ、さっき俺にも酷い無礼を働いたんです!! きっとコンクフォージ様のことだって、あいつがあの悪徳令息と組んで襲ったんですよ!!!」
ブラットルが僕を指差している。
今度は「コンクフォージ様をいじめたー!」が始まった……いつものことだけど。これ、ブラットルが僕を悪者にするときの手口なんだ。
昨日だって、僕はあいつが魔物に襲われそうになっているところを助けたのに、言いがかりはやめてほしい。
「あの……何度も言ってますけど、僕、何もしてません……」
「嘘をつけ!! 聞きましたか!? 悪徳令息がまた嘘をついています!! 嘘つきですよ! あいつ!!」
「……嘘じゃありません……」
「コンクフォージ様は昨日お前を追って行ったのにまだ帰ってこないんだぞ! 悪徳令息が何かしたに決まってる!!」
「……どうせまたいつもみたいに部屋で寝てるんじゃないんですか?」
「そんなわけないだろっ!!!! お前がまたコンクフォージ様をいじめたに決まってる!!!! なんてひどいことをっ……! ディラロンテ様!! 聞きましたか!? あいつ、あんな極悪なこと言ってます!」
「……もう訳がわからないです」
どれだけ訳がわからなくても、ブラットルはディラロンテに泣きつければそれでいいんだろうけど……
口を開きかけた僕だけど、それより先に、殿下がブラットルを睨みつけて言った。
「コンクフォージなら、トルフィレを路地裏まで追って来て、魔物に襲われていた。俺たちはあいつを助けただけだ。そもそも、普段街のために魔物とも戦えるくらい強いお前たちを、トルフィレが一人で襲えるのか? また言いがかりじゃないか」
「ぐっ…………こ、このっ……!」
何か言いかけて、ブラットルは口を閉じた。店であったことをまた繰り返すのは嫌なんだろう。代わりにそいつはディラロンテを見上げた。
「ディラロンテ様……」
「あなたは黙っていなさい……平民の剣士など、いつでも切り捨てることができることを忘れないように」
「……っ!」
どうやら、ブラットルが言い出したことをロウィスが軽くあしらい、恥をかかされたと思ったらしい。ディラロンテはすこぶる機嫌が悪い。ロティンウィース様を睨んで言った。
「……わかりました。まずは魔物を退治しに行きましょう!! その男の処刑は、それからです……」
ディラロンテに睨まれて、僕は身震いした。
いつかディラロンテたちに殺されるような気はしていた。だけど、それが反吐が出るほど嫌だと思ったのは、初めてかもしれない。何度か殿下には処刑されてもいいと言ったけど、ディラロンテたちに殺されるのだけは、絶対に嫌だ。誰がこんな奴らに。
「……僕、絶対に……殺されませんから…………」
「なに?」
反抗を続ける僕を、ディラロンテが睨みつける。そんな視線を向けられて、僕よりも、僕の背後にいたラグウーフさんたちの方が怯えていた。
「…………処刑なんて……でっ、できるものならっ……やってみろっっ!!!!」
「……っ!!」
怒鳴りつけた僕に、ディラロンテが怒りに満ちた顔を向けるけど、僕はそれを無視してそいつらを睨みつけたまま、背後にいるラグウーフさんたちに小声で言った。
「僕は絶対に大丈夫ですから、店の中にいてください……」
「でもっ……!!」
キャドッデさんが、僕の手を引き止めるように握る。それだけで僕は嬉しい。そんなことをしてもらえるなんて、思ってなかったから。
「本当に、大丈夫です。僕、絶対に殺されませんから!」
言うと、彼らは迷いながらも、作業場の方へ戻っていく。最後にパーロルットさんが、僕に「応援してます」と、耳打ちしてくれた。
僕は、ロティンウィース様に振り向いた。
「さあ! 行きましょう! 魔物退治です!」
「そうだな!」
「あっ……あ、あんまり抱きしめないで……」
「なぜだ?」
殿下は不思議そうだけど、そんなの、ドキドキして力が抜けるからに決まってるじゃないか……
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