全ての悪評を押し付けられた僕は人が怖くなった。それなのに、僕を嫌っているはずの王子が迫ってくる。溺愛ってなんですか?! 僕には無理です!

迷路を跳ぶ狐

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番外編3.隣の領地で会議

79.その人のおかげで

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「だ、だいたい!! お前こそ偽物だなんて決めつけるなよ!! 見たわけじゃないくせに!!」

 テアティリルさんが叫んで、僕はますます焦ってしまう。

「た、確かに見てはいないんですけど……本物とも言い切れないと思います……」

 だけど、ここでこうやって本物だ偽物だって言ったって、どちらにも証明できるものなんてないし、水掛論だ。

 テアティリルさんも、彼の仲間たちも、コーインクルリズ様が自分達を討伐しようとしていると、信じて疑っていなかったんだろう。
 突然領主の書簡を持った奴らが来て、「領主の命令でお前たちを討伐する!」なんて言われたらびっくりするだろうし、怖がるのも分かる。

 すると、殿下がテアティリルさんに振り向いて言った。

「お前たちに悪人の汚名を着せて討伐しようとしている者が、他にいるのかもしれないぞ? 心当たりはないのか?」
「……こ、心当たり…………?? そんなの…………ない…………ない! あるわけないだろっ……」

 彼はそう言うけど、ついさっきまで、「クソ領主が!!」って言っていた勢いがない。

 すると、殿下がさらに尋ねた。

「さっき豪商と揉めたと話していたが、それじゃないのか?」
「それはっ…………その……」

 そのとき、どんっと、大きな音がした。

 何かと思って音が聞こえた方に振り向けば、巨大な羽を持つ、虫のような姿の魔物が、周りの背の高い木々に留まっている。

「あ、あれっ……魔物!?? あんなにたくさんっ……!?」

 驚く僕の隣で、テアティリルさんがそれを見上げながら言った。

「……最近、この辺りに多いんだ…………だから俺たちはここに逃げ込んだんだよ」
「どういうことですか?」
「討伐隊も、ここまでくれば俺たちより魔物に手を焼くからな!! あの領主の手先がいるところより、魔物の方が安全なんだよ!!」
「ま、待ってくださいっっ!! まだコーインクルリズ様があなた方を本当に討伐しようとしていると決まったわけではありません!!」
「決まったんだよ!! 絶対にそうだ……そうに決まってるんだ!!」

 また言い合いになっちゃった……

 フーウォトッグ様が「来ますよ」と言って、僕も殿下も構えた。

「アーソ! お前はトルを守れ!」

 殿下に言われて、アンソルラ様は分かってるって答えてる。だけど、僕は一人で平気だ。

「ぼ、僕は大丈夫です! アーソは皆さんをっ……守ってください!!」

 僕が振り向いた先には、テアティリルさんと彼の仲間たち。

 まだ、コーインクルリズ様が彼らを殺そうとしているって決まったわけじゃない。今は早く魔物を退けて、彼らの力になりたい。彼らだって、この地に住む民たちだ。このまま、訳もわからずそこを治める領主に命を狙われていると思いながら怯えているなんて、絶対にダメだ。

 テアティリルさんが、僕に向かって言った。

「一緒に戦ってくれるのか!?」
「はい!! あの程度の魔物にはっ……負けません!!」
「そうかっ…………心強い……近くに村があるんだっ……そこにもぐりこまれたら、一巻の終わりだ!!」

 すると殿下が「そうなる前に抑えるぞ!!」言って、僕は短剣を構えた。

 武器は全部、キャドッデさんが整備してくれている。魔物と戦う準備ならできているんだ。

 僕は短剣に魔力を込めて、魔物に切り掛かった。
 数は多いけど、個々の魔力は大したことない。あっさり魔物は消えていき、僕は、次の魔物を切り裂いた。

 周りの人達と協力して魔物を倒していく僕に向かって、アンソルラ様が叫ぶ。

「トル、気を付けろ! 空にもいる!」
「え?」

 アンソルラ様は、空に向かって魔法の照明を投げる。
 すると夜空には、羽だけが大きい虫のような姿の魔物が溢れていた。

 嘘だろっ……すごい数だっ……!!

 一瞬、そっちの方にばかり注意が向いてしまう。

 そして、背後から悲鳴が聞こえた。

「うわあああああっっ……!!」

 慌てて振り向けば、叫ぶテアティリルさんに、魔物が襲いかかっている。そばには、彼の魔法の杖が折れて落ちていた。しかも、折れた杖の切り口から、魔力がドロドロと泥のように流れている。それを、アンソルラ様が魔法で抑えようとしていた。
 あの杖……不良品か? でも、不良品にしても、様子がおかしい。随分粗悪なものだ。

 僕は魔法の弾で、彼に襲い掛かる魔物を撃ち抜いた。

 アンソルラ様が僕に向かって叫んだ。

「大丈夫か!? トル!!」
「は、はい!! でもっ……その杖っ……!」
「少し魔力を受けただけで破壊されるようになってる! このままじゃ危ない! 俺が処分してやる!! お前はテアティリルを頼む!」
「はい!!」

 まとわりついてくる魔物を切り裂いて、倒れたテアティリルさんに駆け寄る。

「大丈夫ですか!?」
「あ、ああ…………おい!! 背後だ!!」

 叫ぶ彼が指差す方に振り向けば、空から巨大な魔物が降りてくる。
 僕は、咄嗟に彼を抱きしめて、自分の周りに結界を張った。

 結界を魔物の腕が叩く激しい音がする。

 すごい力だ……あんなもので体を打たれたら、僕の体なんて、簡単に折れてしまうだろう。結界を維持するだけでも必死だ。

 テアティリルさんが叫んだ。

「お、おいっ……!! あぶねえっ……!! 逃げろよっっ!!」
「いっ……嫌です! あなたには聞きたいことがあります! あ、あの武器のことだって……! あれ、なんだかおかしいです! 普通の武器じゃないですよね!? あなたが持っている魔法の道具も……通常のものには見えません!」
「は!? 武器!? 知らねーよ! なんでそんなに詳しいんだ!?」
「く、詳しいわけではありませんが……」

 魔物と戦うなら、そういうものに詳しい方がいいし、整備を頼む際に、キャドッデさんやレグラエトさんたちも教えてくれるから、彼らのおかげでいつのまにかこうなっていたんだ。

 このまま結界を張ってても、いつか押し負ける。かと言って、僕が逃げればテアティリルさんが襲われる。だったらこのまま、僕じゃないものに魔物を倒してもらうか!!

 僕は、結界を張ったまま、背後に向かって短剣を投げた。キャドッデさんが整備してくれたものだ。それは、魔物に向かって飛んで、その体を貫いた。

 消えて行く魔物を見上げて、テアティリルさんも、驚いたように言った。

「すっげえ……威力……な、なんだよ、今の……」
「僕の武器、信頼している方々がこまめに整備してくださっているんです。魔力を込めて使えば、使い魔のように操ることも可能で……調法しています」
「へえ……あんなの、初めて見た……あんなものが用意できるなんて……お前、何者だ?」
「へ!? え、えっと……それは…………あ、後で話します!! 今は、魔物を倒さないとっ……!!」

 僕は、木の上で魔物に向かって魔法を放っているフーウォトッグ様に向かって叫んだ。

「フーウォ……フーグ!! 彼らを頼みます!! 結界を!!」

 それだけで彼は分かってくれたらしく、僕らのところに降りてくる。

「こちらは任せてください」

 彼の周りに、強い結界が生まれる。その周りに、テアティリルさんが仲間を呼び寄せる。

 長期戦になれば、魔物を逃す可能性がある。急がなきゃ!

 僕は魔法で、ロティンウィース様のところまで飛んだ。彼はちょうど魔物を倒したところで、僕に振り向いた。

「トル! テアティリルはっ……」
「向こうは大丈夫です!! フーグが結界で守ってくれています!」
「そうか……よくやった!」

 彼はそう言って、次々魔物を倒していく。僕もその隣で魔法の弾を飛ばした。
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