全ての悪評を押し付けられた僕は人が怖くなった。それなのに、僕を嫌っているはずの王子が迫ってくる。溺愛ってなんですか?! 僕には無理です!

迷路を跳ぶ狐

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番外編3.隣の領地で会議

94.誤解だ!


 キスを離したのに、殿下は体を離すことはなくて、僕を抱き寄せたまま、またすぐキスできそうな距離で言う。

「……泣くな……嫌だったのか?」
「……ロウィス…………い、嫌なんかじゃ……なくて…………嬉しくてっ……あっ……! な、泣いているのはっ……し、信じられなくて…………ごめん……なさい…………」

 せっかくキスできたのに、泣き顔なんか見せちゃった。
 謝る僕に、ロティンウィース様が微笑む。

「ははっ……何がだ……? 謝るなら、俺の方じゃないか?」
「え……??」
「…………俺はこれから……トルフィレの全部をもらうんだ。もう……絶対に離してやれそうにないからな…………」
「ロウィス…………」

 ちゃんと嬉しいって言わなきゃならないのに…………
 泣いてるのは嬉しいからで、本当は嬉しいって言わなきゃ、誤解されちゃいそうなのに。
 涙ばっかり溢れていく。

 代わりに僕は、殿下に飛びついた。

「全部…………僕は全部、ロティンウィース様のものです……」

 言って、唇を奪いに行ったけど、僕と殿下じゃ身長に差がありすぎて、唇が触れたのは、かすかに一瞬。

 それでも、自分からキスできて嬉しい……

 ロティンウィース様が僕を抱き止める力が強くなる。
 ぎゅっとされて、強い力に驚いたくらいだ。

「いっ…………ロウィスっ……?」
「トルフィレ………………いいのか……?」
「……え?」

 彼の熱が上がって行く気がした。なんだか彼の目がますます凶暴性を増していくようだ。

「トルフィレ…………好きだ……」
「へっ……? ひゃっ…………!」

 彼の手が、僕の服の一番上のボタンを外してしまう。

 着ていた上着が床に落ちる。

 驚く僕に、彼は妖艶に微笑んでいた。その唇が、今度は僕の首まで降りてきそうになる。

 え…………え!!??

 僕は慌てて、彼の体を押し返した。

「ま、まっ…………待ってっ……くださいっ……!」
「どうした? トルフィレ」
「ご、午後の会議がっ…………!! こ、こ、コーインクルリズ様が待っているので…………」
「なんだ……? ……煽っておいて、お預けか?」
「あおる!?? で、でもっ……だっ……だって…………! い、いつでも殿下にあげますけどっ……今はダメですっ…………」
「なぜだ? いつでもあげるのに、今はだめなのか? ここでやめろと言うのは酷いぞ」
「だっ……だって今、大切な会議の途中で………………み、みんな、待ってて…………あ、あげるけど、それはっ…………殿下だけ見ていられる時じゃないと嫌ですっっ!!」
「今だ」
「か、会議がっ……」
「休憩中だ」
「会議中です!! みんな待ってるからっ……!!」
「もう、会議なんてやめだ! 俺はトルフィレが欲しい!!」
「だ、だめっ…………二人きりでいられる時じゃなきゃ嫌です!」

 つい叫んで、ますます赤くなる僕。これじゃ二人っきりでいやらしいことしたいって言ってるみたいじゃないか。

 殿下は嬉しそうにニヤニヤ笑っているし…………

「そうか…………それなら、二人きりになろう。むしろ今も二人きりじゃないか? これは、今したいと言うことか!?」
「何でそうなるんですか!! だ、ダメですっ……だってもうすぐ……」
「もうすぐ?」

 だって会議室を出る時に、フーウォトッグ様に、コーインクルリズ様を案内してほしいって、言っちゃったんだ。

 こんなところでこんなことしてたら、もうじきみんな来ちゃうかもしれないっ……!!

 慌てるばかりの僕の耳に、足音が聞こえてきた。

 遅かった…………みんながこっちに来ちゃったんだ。

 フーウォトッグ様とコーインクルリズ様たちがこっちに向かって歩いてきて、アンソルラ様まで飛んできた。

 僕らが騒いでいた声は、彼らにも聞こえていたらしく、しかも、廊下で二人して立ち止まっている僕と殿下を見て、アンソルラ様が首を傾げていた。

「トルフィレ……? こんなところで、どうした?」
「あ、あのっ…………!!」

 ますます慌てて殿下から離れようとする僕。

 だけど、ロティンウィース様は僕を引き寄せて、離してくれない。その上、僕の耳元で、凄みを感じるような声で囁いた。

「離さないと言っただろう……? 最近、トルフィレの周りに人が増えて、悔しい思いをしている俺の身になるべきだ」
「へっ……!??」
「……気づいていないのか? ……俺はこう見えて、やきもち焼きなんだぞ」
「な、何を言って…………」

 悔しいって何が!??? とにかく離してもらわないと、みんな来る!!

 特にコーインクルリズ様は、僕らに向かって大股で歩いて来る。

「殿下っ……何をなさっているのです!! こんなところでっ……」

 言われるとますます恥ずかしい……今来ないで欲しいのにっ……会議の途中でこんなことしていた僕が悪いのか……向こうからしたら、会議の途中で何してるんだって感じだろう。

「ち、違うんですっ……! こ、コーインクルリズ様!!」

 僕は、慌てて魔法を使って殿下から逃げて、コーインクルリズ様に向き直った。

「こ、コーインクルリズ様っ……!! ち、違うっ……違わないけど……あ、あのっ……! け、決して会議を蔑ろにしていたわけではなくっ……」

 焦る僕だけど、コーインクルリズ様は僕の前を素通りして、僕と殿下の間に立った。すでに腰の剣に手をやろうとしていて、僕は真っ青。

「こ、コーインクルリズ様っ!!!! ど、どうか、責めるなら僕をっ……!! 悪いのは僕で、殿下ではありません!!」

 けれど、コーインクルリズ様は僕の方に背を向け、殿下に向かって怒鳴る。

「殿下っ……!! こんなところで乱暴を働こうなんてっ……!! 王族のすることではないでしょう!」

 乱暴!!?? そんな風に見えたのか??

 だけどそれも違う。殿下を追ったのも抱きついたのも僕の方。

 僕は、殿下とコーインクルリズ様の間に入って、慌てて弁明を始めた。

「ち、違うっ……! 違うんです!! コーインクルリズ様!! あ、あのっ…………殿下は悪くなくてっ……!!」
「悪くない!? しかしっ……トルフィレ!! 今、ローブをむしり取られそうになっていたではないか!」
「そ、それはっ…………」

 そんなこと、面と向かって言われたらめちゃくちゃ恥ずかしいっ…………!!
 見られてたことも恥ずかしいし、みんながいるのにさっきのことを思い出していることも恥ずかしい…………

 だけど、僕は乱暴なんてされてない。

「あ、あのっ……す、すみませんっ……ほ、本当に殿下は悪くなくてっ……僕がっ……して欲しかっただけなんです!!!!」

 つい叫んだ僕に、コーインクルリズ様は驚いて振り向く。

「なんだと……?」
「だ、だからっ……殿下は悪くないんです……」
「……痛めつけられるのが好きなのか?」
「へ??」

 なんでそうなるんだ??

 キョトンとする僕に、コーインクルリズ様の後ろから呑気に歩いてきたテリラフイル様が言う。

「……あーー…………コーインクルリズ様。違いますよーー……トルフィレ様、殿下と揉めてたわけでも、服を取られて暴力を振るわれそうになっていたわけでもないんですよーー」

 能天気な声で言われて、コーインクルリズ様は驚いて彼に振り向く。

「なに……?」

 なんだかひどく驚いたような顔をしているけど……

 テリラフイル様が、僕に振り向いて言った。

「すみません……コーインクルリズ様は、昔からいつでも争いごとが起こっているように考えちゃうんです…………乱暴なことされてたわけじゃないですよね?」
「へっ……!? は、はい!! もちろんですっ! あ、あのっ…………そ、そのっ…………で、殿下は…………」

 焦る僕の前で、テリラフイル様はどこか楽しげに微笑む。

「…………殿下は?」
「……ぅっ…………あ、あのっ……僕のことを、あっ……愛して……くださって……いた……だけ……です…………」

 僕は何を言っているんだ……みんなの前で。しかもテリラフイル様、ニヤニヤしてるし!

 だけど、殿下が誤解されたままなのは困るっ……!!

 焦る僕の肩に、アンソルラ様が留まる。

「トルフィレも、そんなに焦るな。コーインクルリズだって、トルフィレを守ろうとしただけで、別に怒ってるわけじゃねーよ!!」
「へっ…………!??」

 そうなの?? 失礼なことをしてしまったんだと思ったのに……

 顔を上げれば、コーインクルリズ様は真っ赤。

 ランクイズイル様が、コーインクルリズ様に振り向いた。

「コーインクルリズ様? どうした?」

 テリラフイル様が言うけど、コーインクルリズ様は、そのまま立ち止まったまま。

 どうしたのかと思ったら、テリラフイル様が僕らに振り向いた。

「トルフィレ様……気にしないでください……うちの領主、こう見えて引くほどウブなだけです……」
「お、おいっ……!」

 慌てたコーインクルリズ様が止めようとしているけど、テリラフイル様は次々続ける。

「ろくに人と手を繋いだこともないんですから…………ちょっとびっくりしただけですよね?」
「やっ…………やめろ!! テリラフイル!!」

 コーインクルリズ様に怒鳴られても、テリラフイル様は飄々としていて、ランクイズイル様が間に入っている。

「おい! やめろよ! コーインクルリズ様はなぁ……愛なんて発想ができないような男なんだからな!! トルフィレも! そういうのは二人きりの時に寝所でやれ!!」
「しっ……!!!!」

 言われて、ますます焦る僕。こんなところで取り乱すわけにはいかないのに、殿下が追い討ちとばかりに僕を背後から抱きしめる。

「らしいぞ。トルフィレ」
「でっ……殿下っ……!! で、でもっ……ひゃ!」

 僕の背中と殿下の体が擦りあって、殿下の声が耳元で聞こえて、体温まで上がりそう。

「殿下っ……あのっ……は、はなして下さい」
「嫌だ。もう絶対に離したくなくなった。トルフィレは俺ので、誰にも渡さないと知らしめておかないとな」
「そ、そんなっ……」

 そんなことしなくったって、僕は殿下のものなのに。

 殿下は何を言っても離してくれない。

 すると、フーウォトッグ様が駆け寄ってきて、殿下に飛びかかった。

「何をしているのですか!! トルフィレ様は会議中だというのに!!」
「トルフィレあっての俺だ。抱きしめて何が悪い」
「場を弁えてくださいと言っているのです!!」

 飛びつこうとする彼と、それをひょいひょい避けてる殿下。

 止めなきゃいけないのに、僕は嬉しくて動けなかった。

 僕あっての殿下……それは、僕と同じ。

 止めようとしたフーウォトッグ様とアンソルラ様がまた喧嘩になっちゃうし、コーインクルリズ様は真っ赤で俯いていて、テリラフイル様はあくびをしている。ランクイズイル様がコーインクルリズ様に大丈夫かって聞いていた。

 そんなことをしていたら、厨房から竜の部隊の人が食事の用意ができたことを伝えにきてくれて、ちょっと困った顔をさせてしまった。

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