極悪で役立たずな僕に責め苦を与えると脅迫した悪名高い公爵様が今日も僕に甘い。監禁されて迫られてるような気がするのなんて、きっと勘違いだ!

迷路を跳ぶ狐

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2.え? いいの?

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 そもそも、僕はずっと領主様の城で、領主様の一族に仕えていた。魔法使いの部隊として、魔物と戦ったり、領地の警備をしたり、魔法や武器を用意するために必要な素材を集めたりと、忙しい毎日を送っていた。

 素材が多く取れることで潤ってきたこの領地。そんなここを長く治めてきた領主様は、豪遊を繰り返す割にケチで、僕たちはほとんど物資もない中、魔物の大群に向かっていくことを強要されていた。
 部隊の魔法使いたちも数人だけ。僕以外はほとんど無理矢理連れてこられた平民だ。
 僕は男爵家の生まれだったけど、兄弟たちの中でも力も魔力も弱くて、給料を全部一族に渡すことを条件に、この領主様の城に売られてきた。
 毎日ひどい怪我をしては、雀の涙ほどの回復の魔法の薬で傷を誤魔化して戦う日々。みんなに怪我を負わせたくない。その思いで、必死に頑張っていた。

 だけどある日、僕は公爵家に仕えるように言われた。突然そんなところに行けと言われて、僕はひどく驚いた。
 なんで、僕みたいな力も魔力も身分も低い僕が、猛将と噂の公爵閣下に仕えるなんて話になるんだ?

 部隊の人たちに聞いた話によると、公爵家に渡すと約束した素材を渡せなくなり、腹を立てた公爵様を宥めるために、その希望どおりに素材を集める魔法使いを、公爵様の領地に送らなくてはならないらしい。

 最初に指名されたのは、領主様の御令息で次期領主とも言われているフィエイウル様。そもそも、公爵閣下に依頼された素材を集める任を担っていたのは彼。だけど、普段ろくに魔物退治にも行かないフィエイウル様は、もちろん素材集めにも行かずに、結局必要なものは集まらなかった。それで、彼が行くことになるはずだったんだ。

 だけどフィエイウル様は、「暴虐な公爵と噂される人のところになんて行ったら絶対に殺される! 次の領主になるはずの俺が殺されたら、この領地はどうなる! 領地のために、絶対に行きたくない!」と言って聞かない。

 それで、次に指名されたのが、僕の部隊の隊長のベントコライッド様。だけど、隊長もこれを固辞。
 「長く領主様の一族に貢献して来た私のおかげで魔物退治ができていたのに、それはあんまりです!」と泣き出す始末。それにしては任務の時に、僕らに言いがかりで罰を与えては、手柄だけ取っていってたような気がしたけど……

 そして隊長は、僕に身代わりに行くように命じた。
 そもそも、公爵様にここで取れる素材の話をしたのは僕だから、僕が行くことが筋だろうと言われたんだ。

 確かに、素材の話をしたのは僕。
 たまにこの領地に来る公爵様が、素材のことを聞いてきたから、お話しできることは話しただけのつもりだった。

 そして、お前のような役立たず、ここからいなくなることが領主様に対する最後の恩返しだろうと、冷たく言われた。

 腹は立ったけど、僕に断る術なんかない。

 お前が断るなら、平民どもを全員奴隷として公爵に売り渡すとフィエイウル様が喚き出して、部隊のみんなは泣き出しちゃうし、隊長は「なんて極悪な貴族だ! 役立たずのくせに、こんな時までわがままを通すのか! 誇りはないのか!!」と、最初から最後まで訳の分からないことを怒鳴り散らし、僕はついに、「僕が行きます」と返事をした。

 そうしなかったら、男爵家からも迷惑料を徴収するとか言い出すし、部隊のみんなは、そいつのせいでお前たちは奴隷だ! って言われて泣き出すし、もう断りようがない。

 そんな経緯で、これから公爵様に仕えることになった僕は、言われたとおり、城から出て門の前に停められている馬車の方に向かった。

 まだ痛い……鞭で打たれたところ。

 公爵様め……好き勝手打ちまくりやがって。

 本当に僕が使いものにならなくなったら、素材だって手に入らないんだぞーー!!

 ……多分、それほどに僕が信用できないんだろう。公爵様、まるで僕に期待なんてしていないような顔をしていたし。

 とはいえ、期待なんてあろうがなかろうが、僕のやることは決まっている。
 公爵様に命じられている素材を集める。そのために僕は、公爵家へ行くんだから。

 それが終わったら自由になってやる!!

 解放されたら、このクソ領主の一族にも仕えなくていい! ゲス息子とも二度と会わなくていい! ことあるごとに僕を詰って責任を押し付けた外道隊長の顔なんか、もう見なくていいんだ!!

 解放されたら何をしようか……そんなことを考えながら毎日を過ごしてやる!!

 急いで城を出た僕は、門の前にある馬車までやってきた。馬車を引くのは使い魔の竜。ここから公爵様の領地までは少し距離があったはずだ。

 それまでに体を回復する許可が出ればいいんだけど……

 回復の許可が出たところで、僕、回復の魔法が苦手なんだよな……たまに失敗して、回復どころか余計重傷になったりする。これからは、たった一人で素材を集めなきゃならないんだ。回復も、もっと練習しないとな……

 そんなことを考えながら馬車に近づくと、公爵様に仕える魔法使いが馬車の扉を開けてくれて、中に入るように促された。

「え……僕、乗るんですか?」
「……? はい。どうぞ」

 彼が手で馬車の中を指してくれて、恐縮してしまう。

 だって、てっきり鎖で縛られて歩かされるのかと思っていた。僕に対して公爵様は腹を立てているはずなのに。

 ほ、本当に乗っていいのかな……?

 そもそも僕、領主様の元で働いていた時も、馬車なんて乗ったことない。

 キョロキョロしていたら、早く乗ってくださいと言われて、僕は戸惑ったまま、頭を下げた。

「し……失礼……します…………」

 言って、馬車に乗り込む。

 すると、中は普通の馬車で、ますます焦った。

 本当に乗っていいのか? これ……
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