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4.お前さえいればいい
しおりを挟む隊長は、あからさまに僕を侮蔑するかのような視線を向けて、肩をすくめて言った。
「迷惑な男がいなくなれば、警備も捗ります。全く……一安心ですよ。役立たずで足手まといのこいつがいるせいで、どれだけ私たちが迷惑を被ってきたか!」
隊長がそう言うと、調子付いたのか、フィエイウル様は笑い出した。
「いい気味だ! 部隊の奴ら共々、公爵に可愛がってもらえ!!」
「え……?」
部隊って、僕と同じ部隊だったみんなか?
……なんでみんな共々、なんて言うんだ? だって、部隊は解散して、公爵様のところに行くのは僕だけって、そう約束してくれたじゃないか!!
「ま、待ってください! 部隊は解散になるんじゃ……」
焦る僕の言葉をフィエイウル様は笑い飛ばす。
「はっ……!! 部隊を解散だと!? 相変わらず、勝手な奴だ!! 自分のことばかり考えている奴はいいなぁ!!」
「約束したじゃないですか!! 部隊は解散してくれるって!!」
「おい!! 聞いたか!? この男は部隊を解散するらしいぞっ!! 自分の都合でだ!! こんな図々しいことが許されていいのか!?」
叫ぶそいつが笑い出して、隊長も笑い出す。
一方、解散するはずの部隊のみんなは俯いていた。
彼らのほとんどが強引に連れてこられた平民で、毎日危険な魔物退治に向かわされ、フィエイウル様にこき使われていた。
僕が素材を取りに行くことにしたら、部隊は解散して、みんなは自由の身になるはずなのに。みんな、それを心から楽しみにしていたのに。
それなのに、フィエイウル様はニヤニヤ笑いながら僕に顔を近づけて、僕にだけ聞こえるくらいの声で言った。
「残念だったなあ? お前のせいだぞ? お前が公爵様のもとへ行く、なんて言うからだ。全員巻き添えなんだよ……お前のせいでな!!」
「そんなっ…………」
僕は、顔を上げた。
部隊のみんなが僕から顔を背ける。僕とは目を合わせようとしないその様を見て、本当なんだって理解した。
どうしよう…………僕のせい……?
僕のせいで、みんな巻き添え?
慌てた僕は、フィエイウル様に縋りついた。
「ふ、フィエイウル様っ……! どうかっ……解散の約束は守ってください!! 部隊を公爵様に渡すなんてっ……約束が違いますっ!!!!」
「お前との約束なんて知るか! 公爵閣下が欲しいと言ったんだ。仕方がないだろう?」
「そんなっ…………だ、だって、約束っ……!!」
「何が約束だ!」
そいつは、思いっきり僕を殴り倒した。
「これまでの恩も忘れて、何を図々しい!! いつでも自分のわがままが通ると思っているのか!? お前のその横柄な態度でどれだけ俺たちが傷ついてきたか、考えてみろ!」
「……そんな……僕は……ま、待ってください!」
もう一度フィエイウルに向かって行こうとする僕を、今度は隊長が蹴り飛ばす。
「フィエイウル様に触れるな!! フィエイウル様は、公爵様のお力になりたいだけだ!! そもそもお前のせいで、素材は集まらなかったんだぞ!」
「え…………?」
「回復魔法は下手、魔物退治も鈍い、素材の回収でもドジを踏んでばかり、それでいて、ろくに学ぶこともしない! サボってばかりのお前がいると、士気が下がるんだよ! 士気が!! 素材集めでも余計なものばかり集めて邪魔をして! それなのに、反省することもできないのか!? お前一人のために、私たちがどれだけ迷惑してきたと思っている!!」
「それは…………その……」
畳み掛けるように言われて、僕は反論できなかった。
僕のせいで、みんなが巻き添えなんて、そんなことできない。
「お、お願いですっ……解散は約束してくれたじゃないですか!」
「黙れっ! すでに部隊は公爵に渡してあるんだよ!!」
僕とフィエイウルが揉み合いになって、騒ぎがますます大きくなるそこに、公爵様が歩いてくる。
「何をしている……?」
僕らを睨む公爵様は、騒ぎに腹を立てているのか、随分不機嫌そう。公爵が来ていることにも気づかず、僕らが騒いでいたからだろうか。
フィエイウル様は、僕を指差して叫んだ。
「こいつです!! この男が、私に暴力を振るったのです!! その上、自分勝手に部隊を解散しろとうるさくて…………自分にそんな権限があると思っているのです……なんて図々しい!! 部隊は公爵閣下に差し上げると決まっているのに……信じられません!!」
「部隊? ああ……」
公爵様が、部隊のみんなに振り向いた。
みんなが縮みあがって、小さな声で悲鳴をあげる。怖いんだろう。だって公爵様はこの場で皆殺しにしてしまいそうな顔をしている。
しかも彼は、自分が率いていた騎士団を拷問して再起不能にしたと噂の公爵閣下。
ここでの扱いも最悪だったのに、こんな人のところに預けられたら……
僕のせいだ……
「公爵閣下っ……あのっ……!」
慌てて駆け寄ろうとした僕に、公爵は一枚の書類を見せてくる。部隊のみんなを譲り受けたと言う、魔法の契約書だ。それを結んだ本人にしか解除できず、その効力は絶大と言われている。
「あ、あのっ……それっ……!」
それに手を伸ばそうとした僕は、公爵に軽々ひょいっと抱えられて、馬車の中に投げ込まれてしまう。
「いった……」
痛い……馬車の椅子で頭打った……
って、こんなことしてる場合じゃない!!
僕は慌てて馬車から飛び出して、契約書を持つ公爵に飛びかかろうとした。
だけど公爵は、僕の目の前でそれを破り捨ててしまう。
え……?
ビリビリと音を立てて破られた契約書は、バラバラになって風に飛ばされ、飛んでいく前に魔法の炎に焼かれて燃え尽きた。
なんで………………
せっかく手に入れた部隊なのに……
公爵は僕に振り向くと、冷淡な表情のままで言った。
「解散だ」
何を言われたのか、そこにいる全員が分からなかったんだろう。
みんな、キョトンとしている。
僕だって、何を言われたのか分からなかった。
けれど、公爵は、僕に振り向いて言う。
「俺が欲しいのは、これだけだ。あとはいらん。どこへなりとも失せろ」
言われて、まだしばらく部隊のみんなはしんとしていたけれど、やがて、状況を理解していくと、歓声が上がった。
「解散だ!!!!」
みんなが両手を上げて喜んでいる。
解散、それは、解放と同じ意味を持つ。
まだ信じられないと言ったようだけど、みんな最初は恐る恐るそれを確かめるように、やがて大きな歓声をあげて喜んでいる。
そんな中、フィエイウル様と隊長が、焦った様子で公爵に飛びついていた。
「こ、公爵閣下! どういうことですか!?」
「そのままの意味だ。俺は、これがあればいい。あとはいらん」
「そ、そんなっ……」
信じられないと言った様子の隊長。フィエイウル様も、公爵に喚いた。
「だったら報酬はどうなるのです! そいつらが集めたものは私にも渡してくださると……」
「集めていないのだから何もない。だいたい、俺に渡すものを一つも用意しなかったお前が、報酬の話をするのか? 図々しいのはお前だ。失せろ」
「そ、それならなぜ、部隊を寄越せなどとっ……」
フィエイウル様に言われて、公爵は面倒臭そうにその男を睨んだ。
「お前のやり方が気に入らなかったかだ。これで最後だ。失せろ。二度と俺の前に現れるな」
言われてポカンとする彼らを置いて、公爵様は馬車に乗り込むと、ドアを閉めてしまう。
「行くぞ。時間を食ったな……俺は、お前さえいればいい」
そう言って彼は僕を睨んで、馬車を出すように御者に命じた。
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