従者になりたい犬と犬に悪戯したい魔法使い様

迷路を跳ぶ狐

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第一章

7.捕まった

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 チイルに声をかけてくれたのは、おそらく精霊族と思われる男だった。

 透き通るような、どこか冷たげな色のブルーの目と、薄い水色のふわふわしたショートカットの髪。
 髪の先が、かすかに半透明で、氷を砕いたような光る粒が舞っている。
 華奢な体つきで、背もチイルと同じくらい。
 動きやすそうな、絹のように柔らかな素材の服を着て、精霊の力を携えた装飾品を身につけていた。
 腰には、愛用のものだろう、使い込まれた短剣をさげている。


 彼は、集合場所に集まった時にたまたま隣に立っていて、チイルに声をかけてくれた。名前はガルテイデというらしい。

 今回も、遠くに見えたチイルがふらついているのに気づいて、駆け寄ってきてくれたのだ。

 彼はすでに、担いだリュックにたくさん魔力の玉を集めている。
 チイルより魔力の扱いにも長けているらしく、動きも鋭敏だ。


 この仕事は歩合性で、多く集めたほうが、給料は上がる。集まった他のバイトをライバルとして見る人が多い中、彼は、見ず知らずのチイルをこうして心配してくれる。きっと優しい人なんだろうと、チイルは思った。

「だ、大丈夫……です……」
「この街は初めて?」
「え……な、なんで…………?」
「街に初めて来た人は、だいたいそういうなりをしている。流れに流れてたどり着いたみたいな格好」
「あ…………」

 チイルは、改めて自分の格好を見下ろした。ゴミ捨て場で拾ったボロボロの服に、伸びてボサボサの頭。確かに、不審者だと思われても、仕方がないだろう。

 つい、身構えた。怪しまれて、何かされるのではと思った。

 しかし、ガルテイデはチイルに向かって無表情で言った。

「怯える必要はない。僕は、詮索はしない」
「…………」
「……もうすぐ昼。食事をして頑張るのが得策」
「う、うん……」
「向こうの通りに、美味しいホットドッグの屋台が来る。案内する。一緒に行こう」
「あ……ぼ、僕はいいっ!! またね!!」
「え……待って!!」

 彼はチイルに向かって手を伸ばすが、チイルは振り返らずに走り出した。




 街中を走って、なんとかチイルは、河原までたどり着くことができた。

 土手を駆け下りて川に飛び込み、そこでお腹がいっぱいになるまで水を飲んだ。


「はあっ……!」

 びちょびちょになった顔をあげる。一応これで、空腹をごまかすことはできるが、そろそろ食事がしたい。

 本当は、ホットドッグを食べたかった。だけど、夜までの我慢だと考えて我慢する。夜になって金が入れば、それで腹を満たすことはできるはずだ。

 けれど、集めることができた魔力の玉は微々たるもの。万全の状態なら、もう少し集められただろうに、今はお腹が空きすぎて、うまく動けない。


(これだけでホットドッグ代にはなるかな?)


 じっとそれを見下ろしていたら、足音がした。

 しかし、それが近づいてくることに、空腹で気づけなかった。



「見つけたぞ」



 聞き覚えがある声に、心臓が潰れるほどに驚いて、顔を上げる。



 すでに、囲まれていた。



 手に棒や鍬、槍を持ってチイルを取り囲んでいたのは、あの村の人たちだ。

「いやっ……」

 逃げようとするが、すぐに村の長が長い杖を振り上げ、チイルを殴り付ける。
 あの村では、村長だけが持っていた、魔法の杖だった。


「あっ!!」


 殴り付けられたチイルは、その場に倒れてしまう。

 村長の魔法の杖が、チイルの体に拘束の魔法をかけ、チイルの手足は、まるで大きな鉄球でも付けられたかのように重くなった。
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