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第四章
38.お前がそんなこと言うなんて
しおりを挟む客間まで来ると、そこは、デスフーイが座卓を破壊した時のままになっていた。
そっと、あの使者が座っていたところに触れる。かすかに、魔力を使った跡がある。あの使者のものだろう。
すると、背後からついてきたらしいデスフーイが、フィーレアの肩を叩いた。
「どうしたんだよ? なんか気になることでもあったのか?」
「……かすかに、魔力が残っています。私の魔法から逃れようとして使ったものでしょう」
「ふーん……ああ、確かにちょっと魔力の光っぽいの残ってるみてぇだけど……たいしたことねぇな」
「確かに、ここに残っているもの自体はたいしたことありません。しかし、私の魔法を受けて、魔力を全て打ち消されていないとしたら、そこそこの魔力は持っている、と言うことでしょう」
「そうかもな……つーか、なんだよ、自慢か?」
「いいえ。そんな陳腐な自慢はしません。そうではなく、あの使者は、魔法使いのようでしたし、それなりに魔力もあるなら、人魂くらい、自分で打ち消せばいいのです」
「あー……確かにそうかもなー」
「それをしないのなら、人魂に困っているというのは嘘でしょう」
「あー……だろうな。あんだけ、チイルチイル言ってたし。チイルが欲しいんだろ。どうする気か知らないけど。お前まさか、それ確認するためにあいつ締め上げたのか?」
「いいえ。あのときは単に腹が立って、気づいたらそうしていました」
「なんだ……そうか……」
「とにかく、そうと分かった以上、チイルから目を離すわけにはいきません」
「分かってるよ。俺らがチイルを守ればいいだけだ」
「それに、これ以上付き纏われても、迷惑です。あの村での記憶は、チイルにとっては苦しいだけの恐ろしい記憶でしょう。そんな連中に、チイルの前をうろつかれては迷惑です。彼らにしてみれば、何が犯人か分からない状態で、だからこそ、チイルを悪に仕立て上げているのでしょう。それなら、証明してやればいいのです。チイルにはなんら非がなく、チイルを追い詰めたところで意味がないと。レアデウの話では、領主の城の貴族も関わっているようですし……あなたのおかげで、チイルはその危ない城下町に向かうことになってしまいました。こうなったら、そこへ出向き、チイルに付き纏うものを捕縛するしかありません」
「だな。あれは俺らの犬だ。チイルに近づく奴は、俺が許さねえ! チイルだって、汚名を雪ごうとしてるんだ。それを叶えるために、俺とお前がいるんだしな!」
「……」
デスフーイはそう言うが、フィーレアはまだ不安だった。本当はチイルを外に出したくない。チイルはずっと、自分の手の中に置いておきたい。しかし、チイルの望みも叶えてやりたい。相反する願いの中で、やはりまた迷いが生まれる。
「……チイルは行かせて、危なくなったら、私たちで助ける……まるで囮ではありませんか……」
「囮じゃない。あいつが自分で探しに行くだけだ。俺たちがそれをサポートする」
「しかしっ……」
「あいつなら、できるよ。ずっと、俺はあいつと魔力の玉を追い回してたんだ。チイルにはできる。足りないところはあるが、俺たちが助ければいいだけだ」
「……」
しばらくフィーレアは黙っていたが、やがてため息をついた。
「全く……あなたを頼りにする日が来るなんて……」
「頼りに!? 頼りにしてんのか!? お前がっ……!? 俺をっ!?」
「……なぜそんなに驚くのです?」
「だ、だってお前いつも……俺のこと馬鹿にしてたし……そ、そうか! 頼りにしているか!! そうか……よ、よし! たっぷり頼りにしておけ!」
「はい。弾除けにあなたほど適任な方はいません」
「はあーー!? 弾除けってなんだよ!! 弾除けって!!」
「そこまで言うなら、自信があるのでしょうね? チイルを守り切る自信が」
「あるに決まってるだろ! あれは、俺たちの犬だ!!」
「…………」
本当に、それで良いのかと考える。
その中で、さっきのチイルの、必死に行かせてくれと言う姿を思い出し、フィーレアはついにうなずいた。
「ただし、城下町へは、私とあなたの二人で行き、チイルを見張ります。チイルには、人魂の処理を頼みますが、常に、私とあなたでチイルを守ります」
「おう。任せとけ!」
「……約束ですよ」
フィーレアがうなずくと、デスフーイは、こんな状況にも関わらず、笑い出した。
「何がおかしいんです?」
「いや……お前が俺に、私とあなたで、なんて言う日が来るなんてな……」
「……私の話を聞いていましたか? 馬鹿でも力だけはあるあなたを、チイルの弾除けに使いたいだけです」
「弾除けって言うのやめろ! 頼りにしてんだろ!?」
「やめなさい……鬱陶しい……」
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