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第五章
47.お二人が仰ったんだから
しおりを挟むチイルは、ガルテイデの手を引いて、暗い廊下を走っていく。すぐに上に向かう階段を見つけられるはずだったのに、思ったより廊下は複雑に入り組んでいて、いつまで経っても、チイルが降りてきた階段につかない。
そして、半ば無理矢理手を引いて走ってきたガルテイデには、手を振り払われてしまった。
「は、離してっ……! なんで僕まで連れてくるの……!?」
「ご、ごめんっ……で、でも! 僕一人じゃ、出口が分からないんだ!! ど、どこへ行ったら出られるの!?」
「はあ!? 知らずに走ってたの!?」
「だ、だって、立ち止まったら、捕まっちゃうし……どこへ行けばいいのか、教えてっ……!!」
「……君をここへ連れてきたのは僕なんだけど?」
「そ、そんなこと分かってる!! だけど……な、なんとなく連れてきちゃって……だ、だって、あいつらのこと、教えてくれたしっ……」
「……」
すると、ガルテイデはすぐに目を逸らしてしまう。
「別に……お前のためじゃない。どうせ、もう……あ、あいつらに捕まって、逃げられなくなるんだから……教えてもいいかなって、思っただけ……」
「……あいつらの、仲間なの? 村の人、じゃないよね?」
「……」
少し黙った後、ガルテイデはうなずいた。
「僕は、ただ雇われただけ……金がいるんだ」
「……お金が欲しかったの?」
「……そうだよ。借金があるんだ。お前を捕まえないと、僕が売られる。だから……ごめん……」
「……は、初めて会った時から、僕のこと、捕まえる気だったの!?」
「うん……君のこと、あの連中に報告したのは、僕。あいつらの目的は、君の魔力」
「わ、分かってる……僕の魔力が、みんなに迷惑かけてるから……」
チイルが、ガタガタ震えながら言うと、ガルテイデは首を横に振った。
「君はもう、魔力を制御できるようになっている」
「だけど……! 村にも町にも、また人魂が出たって……!」
「それは、君のせいじゃない。君を捕らえる理由が欲しくて、あいつらが飛ばしたもの。君のせいじゃない」
「……ほ、本当にっ……!?」
「うん。君の体から、勝手に魔力が滲み出ることは、もうない」
それを聞いたチイルは、全身の力が抜けてしまう。
床にへたり込むと、ポロポロ涙が溢れてきた。
「よ、よかったあああ……」
「……チイル?」
「よかったよおお……」
「……泣かないで。どうしたの?」
「だ、だって……フィーレアさまとデスフーイさまに魔力の扱い方、教えてもらって……ぜ、全然できてなかったらどうしようって……せっかく教えてくださったのに…………でも、よかった……か、帰って、お二人に報告する!! ありがとうございました!!」
「……だから、お礼なんか言わないで。僕、お前を騙して捕まえたんだよ?」
「でも! 本当は嫌なんだよね!? 借金なかったら、しなかったよね!?」
「うん……まあ……」
「じゃあ、僕と一緒に行こう!」
「はあ!?」
「お、お二人には僕から話す!! き、きっとなんとかしてくれるよ!」
「嫌」
「なんでぇぇ……?」
「な、泣かないで……僕は君を捕まえた。のこのこあの二人の前に出たりしたら、殺される」
「フィーレアさまとデスフーイさまはそんなことをしない!! お二人とも、とても優しくて紳士的な、いい人だから!!」
「誤解だと思う……」
「そうだよ! 誤解だ! お二人は、僕を連れて行ったからって、あなたに手をあげたりしない!」
「…………誤解してるのは、僕じゃなくて、君。フィーレアもデスフーイも、優しくて紳士的なんかじゃない」
「そんなことない!! 僕と来て!! お二人がそんなことしないって、証明する!!」
「……無理だと思うし、必要もないし、嫌」
「で、でも僕、一人じゃここから出られないし……どっちからきたのか分かんないし、出口もさっきから見つからなくて……」
「……お前、犬の妖精じゃないの? その力で出口を探したり、できないの?」
「で、できない……僕、昔から力を使うのが苦手で……」
「……」
ガルテイデは黙り込んでしまう。迷っているのだろう。
あの二人と一緒にいて、突然相手が黙ることには慣れている。チイルは、大人しくガルテイデの答えを待つことにした。
その場に座って、屋敷を出るときにフィーレアとデスフーイに渡された小さな、手のひらに収まる大きさの箱を、ポケットから取り出す。
床にそれを置いて開くと、二人に作ってもらったお弁当が出てきた。
フィーレアに渡されたのは、ご飯やおかずが犬の形になったキャラ弁で、デスフーイに渡されたのは、肉料理と米がぎゅうぎゅうに詰まったもの。どちらにも、チイルの好きなものばかりが詰まっている。
「いただきます!」
「……なにしてるの?」
急にチイルがそんなことを始め、ガルテイデは困った顔で振り向く。
「なんで急にご飯食べ始めるの?」
「だ、だって、フィーレアさまとデスフーイさまがお昼になったら食べなさいっておっしゃったから……」
「たしかにそろそろお昼だけど……もう少し、融通きかせたほうがいい」
「だ、ダメ!! お二人が仰ったんだから……そうだ!! ガルテイデも、一緒に食べよう!」
「なんで……?」
「だって、案内してもらわないと、僕、外に出られないから……腹ごしらえだよ!」
「……」
諦めたのか、ガルテイデはチイルの隣に座った。
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