48 / 68
第五章
48.一緒に行こう!
しおりを挟む肉巻きおにぎりを食べたガルテイデは、嬉しそうに笑う。
「美味しい……」
「デスフーイさまのおにぎり、すごく美味しいんだ!! あ、こっちの卵焼きも美味しいよ!」
「……ねえ、やっぱり、ご飯食べてる場合じゃないと思う」
突然、我に返ったように言われるが、チイルには、二人に言われたことを遂行しない、ということは考えられなかった。
「い、今はお弁当の時間だからいいの!」
「……怖くないの?」
「……怖いには怖い……だ、だけど……! 僕だって、覚悟してきたし、絶対お二人のところに帰る!! 僕は……お二人のために頑張るって決めたんだ!!」
「…………で、これからどうするの?」
「逃げる!!」
食べ終わったお弁当箱を、それが入っていた箱に片付けて、立ち上がる。
「い、行こう!! ガルテ!!」
「……馴れ馴れしく呼ばないで……」
「ご、ごめん……だけど、あなたのことは、僕がお二人に話すから……き、きっとフィーレアさまとデスフーイさまは悪いようにはしないよ! だから、出口教えて!!」
「……そんなことを言われても、僕は出口なんか知らない」
「え!? な、なんで……?」
「この地下は、結構入り組んでいる。僕も、ここまで来たことはない。来たことがないから、出口もわからない。諦めて、フィーレアたちがくるのを待てば?」
「ま、待たない!! 僕、すぐにフィーレアさまとデスフーイさまのところに帰るんだ!!」
チイルは、彼の手を震える手で握った。
「……震えてるよ?」
「だ、だって、やっぱり怖いし……だ、だけど、僕、フィーレアさまは止めてくださったのに、絶対来たくて、わがまま言ってここへ連れてきてもらったんだ!! 僕だって、役に立ちたいって言って……怖いけどがんばる!」
「待っていたほうがいい」
「いや! 行く! ガルテイデもくる!!」
「……面倒な犬……」
ぶつぶつ言いながらも、ガルテイデは立ち上がり、チイルについてくる。
「ずっとあいつらに飼われてるの?」
「え? ず、ずっとってほど長くないけど……」
「なんでそんなに懐いてるの?」
「な、なんでって……懐いてるんじゃなくて、仕えてるんだもん!!」
「……子犬が懐いているようにしか見えない。あ、そこ。扉がある……」
二人は突き当たりの扉の前に来た。
暗く長いだけの廊下がやっと終わりそうで、チイルはほっとした。
「こ、この先? この先だよね!? 上に行く階段!」
「僕に聞かないで。僕も知らない……」
「じゃあ開けてみよう!!」
「はっ!? ま、待って……!」
制止も聞かずに、チイルはその扉を開いた。
そこにあったのは、まだ奥に続く廊下。そして、その端には、何人もの人が倒れている。
「な、なんだよこれっ……! おい! なにがあったんだ!?」
ガルテイデが驚いて、倒れた人に駆け寄り、揺り動かす。けれど、倒れた人たちはぴくりとも動かない。
「あ、あの……それ、誰?」
チイルが恐る恐る聞くと、彼は、人買いの一味の一人、と答えてくれた。そして、何度かその男の名前を呼ぶが、男は目を覚さない。
「……気絶してるのかな?」
チイルが言っても、ガルテイデは首を横に振るばかり。
「気絶……って感じじゃない……」
「じゃあ……もしかして、魔力の玉とか……ま、魔物が出て、やられちゃったのかな?」
「……いや、多分、違う……この町では、魔物も、たまに見かけるけど、それにしては、廊下は破壊されてないし、こいつの体にも、損壊しているところがない……」
「じ、じゃあ……何があったんだろう……」
「分からない……だけど、体に微かに、締め付けたような跡がある……」
「え……そ、それって…………」
「強力な魔法にかけられたのかも知れない……と、とにかく、早くここを出たほうがいい。外へ出れば、助けを呼べるから……」
「わ、分かった!! あ、見て!!」
チイルは、廊下の奥のカーテンの向こうに、階段を見つけた。
それは上に向かう階段のようだったが、カーテンは切り裂かれてボロボロ、その周りの壁にも、いくつも斬りつけたような跡が残っている。
そして、階段のわきには、また男が一人が倒れ、その近くには剣が落ちていた。どうやら、周りの剣のあとは、この男がつけたものらしい。
ガルテイデが倒れた男に触れ、首を横に振る。
「こいつも……同じだ。目を覚ましそうにない。なにがあったんだ?」
「わ、分かんないけど、階段、見つけたんだ! 行こう! 外に出れば、何かあったのかわかるかも知れない!」
「……小型犬みたいなくせに……見かけによらず勇ましいんだ……とにかく、警戒しながら行こう……」
1
あなたにおすすめの小説
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。顔立ちは悪くないが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?
2025/09/12 1000 Thank_You!!
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
学園一のスパダリが義兄兼恋人になりました
すいかちゃん
BL
母親の再婚により、名門リーディア家の一員となったユウト。憧れの先輩・セージュが義兄となり喜ぶ。だが、セージュの態度は冷たくて「兄弟になりたくなかった」とまで言われてしまう。おまけに、そんなセージュの部屋で暮らす事になり…。
第二話「兄と呼べない理由」
セージュがなぜユウトに冷たい態度をとるのかがここで明かされます。
第三話「恋人として」は、9月1日(月)の更新となります。
躊躇いながらもセージュの恋人になったユウト。触れられたりキスされるとドキドキしてしまい…。
そして、セージュはユウトに恋をした日を回想します。
第四話「誘惑」
セージュと親しいセシリアという少女の存在がユウトの心をざわつかせます。
愛される自信が持てないユウトを、セージュは洗面所で…。
第五話「月夜の口づけ」
セレストア祭の夜。ユウトはある人物からセージュとの恋を反対され…という話です。
その捕虜は牢屋から離れたくない
さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。
というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
二日に一度を目安に更新しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる