従者になりたい犬と犬に悪戯したい魔法使い様

迷路を跳ぶ狐

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第五章

48.一緒に行こう!

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 肉巻きおにぎりを食べたガルテイデは、嬉しそうに笑う。


「美味しい……」
「デスフーイさまのおにぎり、すごく美味しいんだ!! あ、こっちの卵焼きも美味しいよ!」
「……ねえ、やっぱり、ご飯食べてる場合じゃないと思う」


 突然、我に返ったように言われるが、チイルには、二人に言われたことを遂行しない、ということは考えられなかった。


「い、今はお弁当の時間だからいいの!」
「……怖くないの?」
「……怖いには怖い……だ、だけど……! 僕だって、覚悟してきたし、絶対お二人のところに帰る!! 僕は……お二人のために頑張るって決めたんだ!!」
「…………で、これからどうするの?」
「逃げる!!」


 食べ終わったお弁当箱を、それが入っていた箱に片付けて、立ち上がる。


「い、行こう!! ガルテ!!」
「……馴れ馴れしく呼ばないで……」
「ご、ごめん……だけど、あなたのことは、僕がお二人に話すから……き、きっとフィーレアさまとデスフーイさまは悪いようにはしないよ! だから、出口教えて!!」
「……そんなことを言われても、僕は出口なんか知らない」
「え!? な、なんで……?」
「この地下は、結構入り組んでいる。僕も、ここまで来たことはない。来たことがないから、出口もわからない。諦めて、フィーレアたちがくるのを待てば?」
「ま、待たない!! 僕、すぐにフィーレアさまとデスフーイさまのところに帰るんだ!!」


 チイルは、彼の手を震える手で握った。


「……震えてるよ?」
「だ、だって、やっぱり怖いし……だ、だけど、僕、フィーレアさまは止めてくださったのに、絶対来たくて、わがまま言ってここへ連れてきてもらったんだ!! 僕だって、役に立ちたいって言って……怖いけどがんばる!」
「待っていたほうがいい」
「いや! 行く! ガルテイデもくる!!」
「……面倒な犬……」


 ぶつぶつ言いながらも、ガルテイデは立ち上がり、チイルについてくる。


「ずっとあいつらに飼われてるの?」
「え? ず、ずっとってほど長くないけど……」
「なんでそんなに懐いてるの?」
「な、なんでって……懐いてるんじゃなくて、仕えてるんだもん!!」
「……子犬が懐いているようにしか見えない。あ、そこ。扉がある……」


 二人は突き当たりの扉の前に来た。

 暗く長いだけの廊下がやっと終わりそうで、チイルはほっとした。


「こ、この先? この先だよね!? 上に行く階段!」
「僕に聞かないで。僕も知らない……」
「じゃあ開けてみよう!!」
「はっ!? ま、待って……!」


 制止も聞かずに、チイルはその扉を開いた。


 そこにあったのは、まだ奥に続く廊下。そして、その端には、何人もの人が倒れている。


「な、なんだよこれっ……! おい! なにがあったんだ!?」


 ガルテイデが驚いて、倒れた人に駆け寄り、揺り動かす。けれど、倒れた人たちはぴくりとも動かない。


「あ、あの……それ、誰?」


 チイルが恐る恐る聞くと、彼は、人買いの一味の一人、と答えてくれた。そして、何度かその男の名前を呼ぶが、男は目を覚さない。


「……気絶してるのかな?」


 チイルが言っても、ガルテイデは首を横に振るばかり。


「気絶……って感じじゃない……」
「じゃあ……もしかして、魔力の玉とか……ま、魔物が出て、やられちゃったのかな?」
「……いや、多分、違う……この町では、魔物も、たまに見かけるけど、それにしては、廊下は破壊されてないし、こいつの体にも、損壊しているところがない……」
「じ、じゃあ……何があったんだろう……」
「分からない……だけど、体に微かに、締め付けたような跡がある……」
「え……そ、それって…………」
「強力な魔法にかけられたのかも知れない……と、とにかく、早くここを出たほうがいい。外へ出れば、助けを呼べるから……」
「わ、分かった!! あ、見て!!」


 チイルは、廊下の奥のカーテンの向こうに、階段を見つけた。
 それは上に向かう階段のようだったが、カーテンは切り裂かれてボロボロ、その周りの壁にも、いくつも斬りつけたような跡が残っている。
 そして、階段のわきには、また男が一人が倒れ、その近くには剣が落ちていた。どうやら、周りの剣のあとは、この男がつけたものらしい。


 ガルテイデが倒れた男に触れ、首を横に振る。

「こいつも……同じだ。目を覚ましそうにない。なにがあったんだ?」
「わ、分かんないけど、階段、見つけたんだ! 行こう! 外に出れば、何かあったのかわかるかも知れない!」
「……小型犬みたいなくせに……見かけによらず勇ましいんだ……とにかく、警戒しながら行こう……」
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