従者になりたい犬と犬に悪戯したい魔法使い様

迷路を跳ぶ狐

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第五章

49.聞いたけど

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 暗い階段を上がる。一段、二段と上がるほど、暗い、湿ったような匂いがしてくる。


 そこは、静かだった。


 いくら上っても、生きているものの気配などない。


 なんの音も聞こえない。


 上っているはずなのに、地の底に降りていくようで、チイルは怖くなった。



(どうしよう……大丈夫なのかな……怖いけど……フィーレアさまとデスフーイさまに会いたいっ……!)



 強く決意して、階段を上る。自分を信じてくれた二人に会いたい。今は、それだけだった。


(あれだけ、行くってわがまま言ってきたんだ!! 絶対、やり遂げて見せる!)


 自分に言い聞かせて、顔を上げて先へ進む。

 そして落ち着いて、周りの様子をうかがってみた。
 すると、何故こんなに静かなんだろうと不思議に思えてくる。

 そんなにたくさん人がいなかったとしても、話し声でなくとも、物音の一つくらいしてもいいはずなのに。


(やっぱりここ、全体が、何かの魔法にかかっているのかも知れない……)


 そう思ったら、前を歩くガルテイデのことが心配になってくる。


 チイルは、無意識に彼に手を伸ばした。


 ギュッとその手を握ると、彼は驚いて振り返る。


「……何?」
「き、危険かも知れないから……離れないように行こう!」
「……僕はいざとなったら、お前を盾にするから」
「え……? そ、それはダメ……だけど……ま、待って!!」


 先をいくガルテイデに、慌ててついていく。


 しばらく階段をあがると、扉が見えてきた。

 特に、異変は感じない。

 しかし、チイルは、先へ行こうとするガルテイデの手を強く握った。


「待って!!」
「……なに? 今度は……」
「あ、あの………………魔力が見える……」
「は? どこに?」
「と、扉の向こう……微かに見える。焼けるような魔力を感じる……」
「焼けるって……僕も勘はいい方だけど、なにも感じない。気のせいだと思う」
「でも……確かにいるっ! ぼ、僕に、先に行かせて!」
「……何かがいるなら、なおさら僕が、先に行く。お前はさがっていろ」
「で、でもっ……! 待って!!」


 ガルテイデは、階段を駆け上がり扉を開けてしまう。



 途端に、扉の向こうから、いくつも魔力の玉が飛び出してきた。



 即座に応戦しようとするチイルとガルテイデ。しかし、そのうちの一つにはじき飛ばされたガルテイデは、足を踏み外し階段を転がり落ちていく。


「ガルテっ!!」


 彼の体に飛びついて、落ちる彼を抱きとめるチイル。彼は、落ちる時に体を魔力で守ったようで、重症には至らなかった。


 彼を庇いながら、チイルは飛んでくる魔力の玉を次々切り裂いていく。

 不気味に光る魔力の玉が階段に突き刺さり、弾け飛んだ破片が、まるで何かに操られるように、ガルテイデに向かって飛んできた。

 そのことごとくを、チイルは自分の魔力の弾丸で撃ち落とす。


「チイル!?」
「下がっていて!!」
「だ、ダメっ……!! お前一人じゃ、敵うはずない!」
「だって、ガルテイデ、怪我してる!」
「気づいてたの……!?」


 彼はさっき、魔力の玉に弾き飛ばされた時に、足を捻っている。動けない彼を庇って立つチイルだったが、彼にはいきなり後ろから服を引っ張られてしまう。


「お前に勝てる相手じゃない! 下がれ! 僕の正体聞いただろ!!」
「聞いたけど一緒に外に出る!!」
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