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第六章
66.やっぱり
しおりを挟む慌てるチイルの顔を上げて、フィーレアは唇が触れ合いそうなほど近づいてくる。
「私たちは結構、気を揉んだんです」
「え、えっと……ひゃ!」
今度は、正面から近づいてきたデスフーイが、チイルの首に触れてくる。
「そうだぞー。チイルが行っちゃって、やっぱり嫌だったのかなーって。すっげードキドキしてた」
「ご、ごめんなさい……」
「いいよ。チイルだし。だけど、ちょっとだけ……お仕置きしていいか?」
「えっっ!?」
突然言われて、体がびくっと震える。すると、背後のフィーレアまでもが、チイルの耳元で囁いた。
「お仕置きに、少しだけ、恥ずかしいことをします……」
「え……え!?」
びくっと震えるチイルに、フィーレアは微笑んだ。
「嫌では……ないんですよね?」
「……」
ビクビクしながらも、チイルはうなずいた。
「ぼ、僕は……お、お二人の犬ですから……」
「浴衣を脱ぎなさい」
「え!?」
いつもより、少し強い口調で言われて、チイルは驚いて振り返る。
すると、フィーレアはいつもと同じ、優しい顔でチイルを見下ろしていた。
いつもと同じはず。
それなのに、少し意地悪にも見えた。
今度は、デスフーイがチイルの耳元でくすぐるように言った。
「脱がしてやろうか?」
「へっ!? あっ……い、いえ……ぬ、ぬ、脱ぎます!」
答えて、帯に手をかける。軽く引くと、それは簡単に解けた。
浴衣が緩んでいく。
それを肩から落として、下着だけになる。
剥き出しになった肌が、仄かな明かりに照らされると、急に恥ずかしくなってきた。
背後にはフィーレアがいて、正面にはデスフーイがいて、二人とも、チイルを見下ろしているのに。
手が止まる。
今更戸惑い出したチイルに、フィーレアが囁いた。
「なにをしている? 下着も脱ぎなさい」
「で、でも……!」
戸惑うチイルに、正面のデスフーイまでもが意地悪な笑顔で言う。
「俺が脱がしてやろうか?」
「え…………」
答えられずにいると、デスフーイの手が、チイルの下着に触れた。
「……ま……待ってくださいっ……! ぼ、僕……ちゃんと脱ぎますっ……!!」
チイルは、自分の着ているものに手をかけた。
とはいえ、今は二人の前。
大切な二人の前で、自分だけが脱がされていると思うと、もうそれ以上手を進められなくなりそうだ。
(……全部脱ぐなんて……恥ずかしい…………でも……)
微かに、目だけで二人を見上げる。二人とも、チイルを見下ろして待っている。
意を決して、着ているものを一気に脱いだ。
体を覆っていたものが一つもなくなって、もう、顔を上げることができない。
チイルを挟んだ二人ともが、チイルの裸の体を見下ろしているはずだ。
息をする間がなくなってしまいそうなほど、ドキドキした。
(ど、どうしよう……は、恥ずかしいよ……)
顔どころか、体まで赤くなってしまいそう。
動けずにいたら、ふいに、名前を呼ばれた。
「チイル……」
「……」
呼ばれたのに、顔を上げられない。ずっと俯いていたいけど、二人の顔を見られないのは嫌だ。
正反対の感情に弄ばれながらも、羞恥心だけ膨らんでいく。
「チイル……」
「……っ!」
二度、チイルを呼んだデスフーイの手が、チイルの手を取る。
二人の体が触れ合うくらいに抱き寄せられて、ついに、彼の顔を見上げてしまった。
「チイル……すっげ……真っ赤……」
「あ……」
「可愛いー……」
「ひゃっ……!」
震えている耳元に、デスフーイが顔を近づけてくる。赤いキスの跡のすぐそばに、噛みつかれたような気がした。
けれど、軽く舐められただけ。
そのまま、彼は顔を上げない。その髪の毛が、チイルの頬をくすぐった。
「これ、俺らの方がお仕置きになってね? だってチイル、何にも分かってないだろ?」
「そ、そんなことっ……んっ!!」
すぐそばで、デスフーイが囁きながらそこをペロペロ舐めて、耳元に、そのいやらしい音がからかうように入ってくる。
小さな音に弄ばれて、チイルの体温が上がっていく。
その快感に負けた体は、ぴちゃ、という音が耳元で鳴るたび、ビクビク震えた。
「ぁっ……あっ……やっ…………で、ですふーいさま……」
「こんなんでそんな風になってるんじゃ、分かってないって……」
「そんなことっ……ぁっ!」
後ずさるはずの体が、フィーレアに抑えられる。
頭上の彼を見上げると、彼はまた、あの酔った目でチイルを見下ろしていた。
「……この程度でそんな顔をしていて……どうやって耐える気だった?」
「あ……」
怖くなりそうだった。
いつも冷静な彼が、焼けるような目つきで見下ろしていたから。
つい、反射的に逃げようとしてしまう。
けれど、それで二人をますます煽ってしまったようだ。
デスフーイの唇が、だんだん、下の方に移動していく。
「チイル……逃げんなって……」
「だ、だって……やっ……!!」
今度は、背後から、フィーレアに両手を後ろ手に捕まえられてしまう。
「ふ、フィーレアさま……」
「逃がさない」
「えっ……!? や、やだっ……!」
チイルの手首に何かが巻きついてくる。シルクのリボンように柔らかい鎖だった。それはチイルの両手首を捕まえ、天井の梁まで飛んでいく。そこに鎖が巻きつくと、チイルは、両手を拘束されたまま、天井から吊るされた状態になった。
これでもう、逃げるどころか、裸の体を隠すことすらできない。
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