ドジで惨殺されそうな悪役の僕、平穏と領地を守ろうとしたら暴虐だったはずの領主様に迫られている気がする……僕がいらないなら詰め寄らないでくれ!

迷路を跳ぶ狐

文字の大きさ
16 / 45

16.仕返しって……なに?

しおりを挟む
 それから、体を洗うことを許可してもらい、僕は新しい服に着替えた。
 僕の部屋は、魔物討伐に行くみんなが訓練をする部屋の隣の倉庫の奥。突然魔物が現れてすぐに退治に行かなければならない時に、部隊のための用意をすぐできるように待機しておくよう命じられているからだ。
 討伐がなければ、落ち着ける僕だけの場所なのに、僕は今にも泣きそう。

 絶対にまだ反逆の疑い、晴れてない。絶対に拷問される…………僕、どうしたらいいんだ……

 俯く僕に、一緒にここに来てくれたベリレフェク様がたずねた。

「どうした? そんな顔をして」

 言って、彼は首を傾げている。領主様が僕の回復をするように命じてくれて、彼は僕の体に傷が残っていないか見てくれた。

 だけど……

 僕はもう泣きそうだ。

 だって、これから拷問されるかもしれないんだ。昼間、領主様にものを投げつけて逃げたし、僕の反逆の疑いだって、多分晴れてない。
 領主様、僕のことをひどく痛めつけるつもりなのかな……

 じゃあ、なんでベリレフェク様に僕の回復なんか頼んだんだろう。

 ……そっちの方が、痛めつけがいがあるから…………とか言いそう!! …………会いたくない。

 そんなひどい目に遭うのは嫌だ。

 俯いていたら、ベリレフェク様が僕の顔を覗き込んで言った。

「……まだ、痛いのか?」
「え…………?」
「俺の回復の魔法が効かないはずはないのだが……」
「………………回復の魔法は効いています。もう……全く痛くありません」
「だったらいいじゃないか。何をそんなに落ち込んでいるんだ?」
「だ、だって…………僕、これから領主様の部屋に呼ばれてるんですよ……? 昼間のことも怒ってるだろうし、反逆の疑いだって……」
「まだそんなことを言っているのか? 領主のことなら、心配いらないだろう」
「えっ……!?」

 僕は、顔を上げた。

 それって……もしかして、ベリレフェク様には領主様が怒っているようには見えないのか? …………だったらもしかして、もう反逆の疑いなんて晴れていたりする!?

 だとしたら嬉しい……

 僕、助かるかもしれないんだ!!

「も、もしかして、大丈夫だったりしますか!? そうですよね!? 僕、反逆なんて企んでないしっ……! 僕がそんなこと、できるわけないじゃないですか!! もう領主様、怒ってませんよね!?」
「…………」

 ベリレフェク様、黙っちゃった…………

 なんで?

 もしかして、違うのか!? やっぱり怒ってるのか!? ベリレフェク様がそんなことないって言ってくれたら、そんな気がしてきそうなのに!!

 だけど、ベリレフェク様は少し意地悪そうな顔をして言った。

「お前せいで、俺の計画は台無しになったしな……」
「え…………?」
「領主のことは俺には分からないが…………どうだろうな? 怒っているかもしれないぞ?」
「え!!??」
「恐ろしいくらいに怒っていて、お前に死罪を言い渡すかもな」
「や、やめてくださいっっ!! これから僕、領主様の部屋に行くんですよ!? ますます怖くなる!!」
「ふん…………俺の計画を邪魔した仕返しだ」
「し、仕返しって…………なんのこと……」
「とにかく、領主のところへ行ってこい。また怪我をしたら、俺が治してやる」
「怖くなるようなこと、言わないでください!!」

 そんなことを言われたら、ますます怖くなるじゃないか。

 泣き出しそうになりながら震えていたら、それを見たベリレフェク様が、心配そうに言った。

「そんなに怯えるな…………情けない奴だ」
「……だ……だって………………ベリレフェク様が脅かすからですよ!? ぼ、僕……これから、領主様のところに行かなきゃならないのに……」
「…………分かった分かった……いいものをやる…………」

 言って彼は、リボンで結んだ、小さな瓶のようなものを渡してくれた。

「なんですか? これ……」
「それだけ魔法が下手では、回復の魔法も苦手だろう。回復の魔法の威力を上げる魔法の道具だ。きっと、役に立つ。杖に括り付けておけ」
「……………でも僕……杖を領主様に持って行かれちゃいました…………」
「だったら、ただ持っていろ。持っているだけで、効果がある」
「…………ありがとうございます…………」

 嬉しいけど……それって結局は僕が拷問された後の準備なんじゃ……

 どうしよう…………このままじゃ、バッドエンドを回避する前に死ぬ。

 何か……身を守ることができればいいんだけど……

 そうだ……

 確か、この城の庭や、近くの森には、魔法の武器や道具を作ったり強化したりするための素材になるものが多くあったはずっ……!! それで防御の魔法を強化すれば、あんまり苦しまなくて済むかもしれないっ……!

「僕、外をちょっと散歩してから領主様のところに行くことにします!」
「…………馬鹿を言うな……さっさと行け。領主が待っているぞ」
「でも……まだ領主様と約束した時間じゃないし……ちょっと行くだけです!」
「……どこに行くんだ?」
「……防御の魔法を強化することに使えそうな素材を集めようかと…………」
「なに? そんなものがあるのか?」
「は、はい!! あ、よければ案内します!!」

 そう言って、僕が扉から出ようとしたら、領主様が入ってきた。

「…………領主様っっ!??」
「……どこかへ行くところだったのか?」
「へ!? え、えっと………………」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

推し変したら婚約者の様子がおかしくなりました。ついでに周りの様子もおかしくなりました。

オルロ
BL
ゲームの世界に転生したコルシャ。 ある日、推しを見て前世の記憶を取り戻したコルシャは、すっかり推しを追うのに夢中になってしまう。すると、ずっと冷たかった婚約者の様子が可笑しくなってきて、そして何故か周りの様子も?! 主人公総愛されで進んでいきます。それでも大丈夫という方はお読みください。

婚約破棄されてヤケになって戦に乱入したら、英雄にされた上に美人で可愛い嫁ができました。

零壱
BL
自己肯定感ゼロ×圧倒的王太子───美形スパダリ同士の成長と恋のファンタジーBL。 鎖国国家クルシュの第三王子アースィムは、結婚式目前にして長年の婚約を一方的に破棄される。 ヤケになり、賑やかな幼馴染み達を引き連れ無関係の戦場に乗り込んだ結果───何故か英雄に祭り上げられ、なぜか嫁(男)まで手に入れてしまう。 「自分なんかがこんなどちゃくそ美人(男)を……」と悩むアースィム(攻)と、 「この私に不満があるのか」と詰め寄る王太子セオドア(受)。 互いを想い合う二人が紡ぐ、恋と成長の物語。 他にも幼馴染み達の一抹の寂寥を切り取った短篇や、 両想いなのに攻めの鈍感さで拗れる二人の恋を含む全四篇。 フッと笑えて、ギュッと胸が詰まる。 丁寧に読みたい、大人のためのファンタジーBL。 他サイトでも公開しております。 表紙ロゴは零壱の著作物です。

「これからも応援してます」と言おう思ったら誘拐された

あまさき
BL
国民的アイドル×リアコファン社会人 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 学生時代からずっと大好きな国民的アイドルのシャロンくん。デビューから一度たりともファンと直接交流してこなかった彼が、初めて握手会を開くことになったらしい。一名様限定の激レアチケットを手に入れてしまった僕は、感動の対面に胸を躍らせていると… 「あぁ、ずっと会いたかった俺の天使」 気付けば、僕の世界は180°変わってしまっていた。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 初めましてです。お手柔らかにお願いします。

【完結】異世界から来た鬼っ子を育てたら、ガッチリ男前に育って食べられた(性的に)

てんつぶ
BL
ある日、僕の住んでいるユノスの森に子供が一人で泣いていた。 言葉の通じないこのちいさな子と始まった共同生活。力の弱い僕を助けてくれる優しい子供はどんどん大きく育ち――― 大柄な鬼っ子(男前)×育ての親(平凡) 20201216 ランキング1位&応援ありがとうごございました!

冷徹茨の騎士団長は心に乙女を飼っているが僕たちだけの秘密である

竜鳴躍
BL
第二王子のジニアル=カイン=グレイシャスと騎士団長のフォート=ソルジャーは同級生の23歳だ。 みんなが狙ってる金髪碧眼で笑顔がさわやかなスラリとした好青年の第二王子は、幼い頃から女の子に狙われすぎて辟易している。のらりくらりと縁談を躱し、同い年ながら類まれなる剣才で父を継いで騎士団長を拝命した公爵家で幼馴染のフォート=ソルジャーには、劣等感を感じていた。完ぺき超人。僕はあんな風にはなれない…。 しかし、クールで茨と歌われる銀髪にアイスブルーの瞳の麗人の素顔を、ある日知ってしまうことになるのだった。 「私が……可愛いものを好きなのは…おかしいですか…?」 かわいい!かわいい!かわいい!!!

学内一のイケメンアルファとグループワークで一緒になったら溺愛されて嫁認定されました

こたま
BL
大学生の大野夏樹(なつき)は無自覚可愛い系オメガである。最近流行りのアクティブラーニング型講義でランダムに組まされたグループワーク。学内一のイケメンで優良物件と有名なアルファの金沢颯介(そうすけ)と一緒のグループになったら…。アルファ×オメガの溺愛BLです。

転生悪役弟、元恋人の冷然騎士に激重執着されています

柚吉猫
BL
生前の記憶は彼にとって悪夢のようだった。 酷い別れ方を引きずったまま転生した先は悪役令嬢がヒロインの乙女ゲームの世界だった。 性悪聖ヒロインの弟に生まれ変わって、過去の呪縛から逃れようと必死に生きてきた。 そんな彼の前に現れた竜王の化身である騎士団長。 離れたいのに、皆に愛されている騎士様は離してくれない。 姿形が違っても、魂でお互いは繋がっている。 冷然竜王騎士団長×過去の呪縛を背負う悪役弟 今度こそ、本当の恋をしよう。

BLゲームの展開を無視した結果、悪役令息は主人公に溺愛される。

佐倉海斗
BL
この世界が前世の世界で存在したBLゲームに酷似していることをレイド・アクロイドだけが知っている。レイドは主人公の恋を邪魔する敵役であり、通称悪役令息と呼ばれていた。そして破滅する運命にある。……運命のとおりに生きるつもりはなく、主人公や主人公の恋人候補を避けて学園生活を生き抜き、無事に卒業を迎えた。これで、自由な日々が手に入ると思っていたのに。突然、主人公に告白をされてしまう。

処理中です...