普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐

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10.肯定したくない言葉

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 僕は両手に枷をされ、僕を取り囲んだ王子の護衛たちに、背後から武器を突きつけられたまま、城の中を歩かされた。

 怖くて仕方がなかった。突きつけられた剣も、これから処分されることも怖いけど、そんな僕の後ろからついてくる、レヴェリルインとドルニテットの目の方が怖い。
 二人は僕に武器を向けたりはしなかったけど、レヴェリルインなんか、ずっと背後から僕を睨んでいる。

 命令に背いたこと、そんなに怒っているのか?

 だけど僕は、こうしてよかったんだと思う。だって、こうしなかったから、レヴェリルインたちが処分されていたかもしれないんだ。
 これで、僕が処分されれば、彼らのことは王子が助けてくれる。

 なのに……

 歩いているだけで、背後から感じるあの視線が怖い。もしも視線を剣にする魔法があったら、僕は今、即死している。

 そんなに怒らなくても……確かに、今日は何度も命令に背いたけど!! ……後で怒られるのかな……あ、でも処分されるなら、多分もう、そんなことも関係ない。

 ちらっと、少しだけ、後ろに振り返る。

 最後に、お礼くらい言いたかった。ありがとうって。それも叶わないのかな……

 そんなことを考えていたら、足がもつれて、その場に転んでしまう。

「いたっ……!」

 こんなことしていたら、何をされるか分からない。
 すぐに立ち上がろうとしたら、膝がひどく震えているのに気づいた。枷をされた手で抑えても、ずっと震えてる。

 やっぱり怖い。処分されるのは……

「早く立て!! 殿下がお待ちなんだぞ!」

 護衛の人に言われて、僕はすぐに「はい」って返事をして、立ち上がろうとした。
 ちゃんと立たなきゃ、そう思うのに、怖くて動けない。
 動けないままでいたら、蹲ったままの背中を、激しく蹴られた。

 早くしなきゃ。そう思うと、余計に体が震える。

 けれど、背後で揉み合う声に気づいて振り向くと、飛び出してこようとしたレヴェリルインが、ドルニテットに止められているのが見えた。僕のこと、気にかけてくれているんだろうか。

 これ以上、彼らに迷惑かけたくない。

 そう思ったら、立ち上がることができた。

 枷をされたまま、ふらふらと立ち上がった僕に、王子が近づいてくる。何かと思って怯える僕の前で、王子はニッコリ笑った。

「……なんで汚らしく、惨めな姿だ…………今まで、辛かっただろう?」
「……」

 微かだったけど、首を横に振って否定した。もっと強く否定したかったけど、体がガタガタ震えていて、情けない否定になってしまった。それでも、「はい」とは言いたくなかった。

 確かに、ここにいる間辛かった。甘い言葉に乗せられた馬鹿だと後ろ指を指されて、廃棄を待つ毎日は、怖くて仕方なかった。

 だけど今、それをこの人に言われたくない。
 僕を唯一助けてくれた人の前で、この人の言葉を肯定したくなかった。

 望まれた返事ができない僕は、背後から護衛の人たちに、殴り倒された。

 何度も蹴られる僕の前で、それを指示した王子は立ち上がる。

「もう安心していい。すぐに私が、薄汚いお前を破壊してやる。生きたまま埋めてやろうか? それとも、全身を切り裂かれる方がいいか? どれでも好きな刑を選ばせてやる。ありがたく受け取れ」
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