いつも役立たずで迷惑だと言われてきた僕、ちょっとヤンデレな魔法使いに執着された。嫉妬? 独占? そんなことより二人で気ままに過ごしたいです!

迷路を跳ぶ狐

文字の大きさ
7 / 15

7.思い出して頭抱えてました

しおりを挟む
 ヴァソレリューズ様の屋敷までは、魔法をかけた馬車で、夜になる頃にはついた。彼はそれまでの間、魔法の話をたくさん聞かせてくれた。

 屋敷につく頃にはもう夜で、僕は、風呂に入って眠るように言われた。

 部屋も用意してもらえたけど、彼は忙しいのか僕を部屋まで送ると、「詳しいことは明日話すね」って言って、部屋を出て行った。

 もう少し話したかったけど……

 また明日も会える。

 なんだかまだ信じられない。

 だけど嬉しくて、ドキドキしたまま布団に入ったら、その日はすぐに眠ってしまった。







「なんなんだ……一体…………」

 一人呟いていたら、僕は力が抜けて、本棚にこん、と頭をぶつけてしまった。

 ここは、ヴァソレリューズ様の屋敷の一室。そこにはずらっと棚が並んでいて、魔法の道具が並んでいる。

 ヴァソレリューズ様が僕を呼んだのは、僕にここにある魔法の道具の状態を確認して修理や調整をして欲しいかららしい。
 朝からたくさんの使用人の方に挨拶をして、ずっと緊張していたけど、みんな優しくしてくれて、ほっとした。

 部屋に並んだものには、精霊の魔法の道具が多い。ヴァソレリューズ様の一族が集めたもので、ここは、その管理のために設けられた屋敷らしい。
 中にはだいぶ古い道具もあって、他では見ることができないものもあった。それだけのものがこれだけ並んでいるなんてびっくりしたけど、そんなものに僕が触れて、それの管理をできることは嬉しい。

 屋敷の至る所に魔法の道具が保管されていて、それに関する研究もここで行われているらしい。

 中でもこの部屋にあるものはかなり古くて、動くかどうかも分からず、魔力が暴走しないように抑えておくだけで放置されているもののようだ。

 なんでヴァソレリューズ様が僕をここに呼んだのか不思議だったけど、それなら僕でも役に立てそうだ。

 早速仕事を始めた僕だけど、仕事がひと段落ついたら、今朝のことを思い出してしまった。

 今朝はいつも通り早く目が覚めたけど、朝起きたら、いつもと全く違うところにいて、もう一回昨日何があったのか確認するまで、ちょっと時間がかかった。

 まだ僕にはヴァソレリューズ様に召し抱えられたことが信じられなかったらしい。

 だって、ずっと領主様の城で会えるだけだったのに……

 ここへ来た時のことを思い出したら、ますます心臓が高鳴りそうだった。

 ヴァソレリューズ様のことばかり考えて、ベッドの中でしばらく天井を見上げて、ごろんと寝返りを打ったら、一人でいるはずだった部屋に、ヴァソレリューズ様がいた。

 びっくりして、ベッドから転げ落ちそうになった。

 僕、起きてから結構長い間天井を見上げてぼんやりしてたのに、その時間、ドアが開くような音はしなかった。どうやら、ずっと部屋にいたらしい。

 何してるんだと思ったけど、ヴァソレリューズ様は窓を開けて、やけに爽やかに「おはよう」って言っていた。

 「窓を開けるなんて、そんなことは僕がします!」と言って駆け寄ろうとしたら、「今日は朝早くから、君の寝顔を見に来たから、そのついでだよ」と言って笑っていた。

 朝からヴァソレリューズ様に会えたのは嬉しいけど……

 顔? なんだそれ。なんでそんなもの見に来るんだ??

 というか、そんなものを見るために、どれだけ早く部屋に来ていたんだ。

 寝てる間に、変な顔してたりしないかな……

 何をしていたのかもう少し詳しく聞きたかったけど、なんとなく怖くてできなかった。

 そんなことがあって、朝からびっくりしていたけど、仕事は丁寧に教えてくれた。

 棚にある道具一つ一つを手に取り魔力を込めて、安全を確認していく。

 どれも、かなり貴重なものばかりだ……なかなか手に入らないものも多いんじゃないかな。

 そんな風に仕事を続けていたけど、それがひと段落したら、いきなり今朝のことを思い出した。その度に、変な顔してなかったかな、とか、もう少し気の利いたこと言えばよかった、とか、そんなことで頭がいっぱいになる。

 何してるんだ、僕……

 この屋敷には、魔法の道具が保管された部屋がいくつかあって、隣の部屋には、この屋敷に仕える魔法使いの方がいて、道具の調整をしているらしい。

 だけど、今僕がいる部屋には、僕だけ。ちょっとくらい思い出して頭抱えていても、誰にも見られないからいいか……って思ってたら背後から、声をかけられた。

「何してるのー?」
「わっ……!!」

 びっくりして振り向けば、そこにはやっぱりヴァソレリューズ様。

「大丈夫?」
「へ!? だ、大丈夫って……」
「君の声が聞こえた気がしたんだ。何かあった?」
「え?? あ…………な、なんでもないっ……なんでもっ……ないんです!」

 今朝のこと思い出して頭抱えてました、なんて、言えるわけない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「これからも応援してます」と言おう思ったら誘拐された

あまさき
BL
国民的アイドル×リアコファン社会人 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 学生時代からずっと大好きな国民的アイドルのシャロンくん。デビューから一度たりともファンと直接交流してこなかった彼が、初めて握手会を開くことになったらしい。一名様限定の激レアチケットを手に入れてしまった僕は、感動の対面に胸を躍らせていると… 「あぁ、ずっと会いたかった俺の天使」 気付けば、僕の世界は180°変わってしまっていた。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ 初めましてです。お手柔らかにお願いします。

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中  二日に一度を目安に更新しております

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる

cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。 「付き合おうって言ったのは凪だよね」 あの流れで本気だとは思わないだろおおお。 凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?

のほほんオメガは、同期アルファの執着に気付いていませんでした

こたま
BL
オメガの品川拓海(しながわ たくみ)は、現在祖母宅で祖母と飼い猫とのほほんと暮らしている社会人のオメガだ。雇用機会均等法以来門戸の開かれたオメガ枠で某企業に就職している。同期のアルファで営業の高輪響矢(たかなわ きょうや)とは彼の営業サポートとして共に働いている。同期社会人同士のオメガバース、ハッピーエンドです。両片想い、後両想い。攻の愛が重めです。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?

灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。 オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。 ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー 獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。 そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。 だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。 話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。 そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。 みたいな、大学篇と、その後の社会人編。 BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!! ※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました! ※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました! 旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」

処理中です...