誰より重くて愛がないと言われる僕の後ろには、いつも監禁趣味のあいつがいる

迷路を跳ぶ狐

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2.僕の大嫌いな上司

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 ぼーっとしたまま、僕は目を覚ました。

 またやられた……

 頭がクラクラする。額を押さえようとしたけど、手が動かない。両手を鎖で縛られて、ベッドに寝かされてるんだ。

 フュイアルさんに無理やり連れてこられた時は、いつもここに監禁される。
 フュイアルさんの自宅のマンションらしく、フローリングの部屋で、二十畳くらいあって、その真ん中に僕が寝かされている大きなキングサイズのベッド、わきに小さなテーブルがあって、朝なのに、間接照明がついていた。近くにある観葉植物の葉が揺れている。

 いつもエアコン、きかせすぎなんだよ。こんなところにいられるか。

 さっさと出て行きたいのに、手首に巻かれた鎖はベッドに繋がれていて、いくら引っ張っても外れない。

 くっそ……最低上司め……

 なんとか逃げられないものかと足掻いていたら、コーヒーの入ったマグカップを持ったフュイアルさんが、部屋に入ってきた。

「……クソ上司……これ、外してください!!」
「ダストと別れるなら外してあげる」
「嫌です。外してくれないならいいです。自分で外します」

 こんなもの、魔法を使えば、簡単に外れるはず。
 腕に力を込めるけど、思ったように魔法が使えない。フュイアルさんに魔法を封じられているんだ。

「フュイアルさん!! 魔力、返してくださいっ!!!」
「だーめ」

 冷たく断り、フュイアルさんは僕が寝かされているベッドに座ってコーヒーを一口。ついでに新聞まで開き出す。出勤時間まで外さない気だ。

 フュイアルさんは、僕をあのマンションから連れ出しては、こうして、出勤の時間まで監禁する。
 こんな犯罪上司のいる職場、すぐに辞めたいけど、人族の魔法使いって、同じ人族には忌み嫌われたりするし、他の種族には「魔法使いって言っても人族だから大したことできないんでしょ?」みたいに言われて、なかなか職につけない。
 それなのに、今の職場は結構いい条件で僕を雇ってくれて、ついでに給料がものすごくいい。僕には金がいるんだ。

 もうこうなったら、力づくで外してやる。

 腕に力を込める。無理矢理体から引きずり出した魔力が、僕の体を這って枷に集中していく。これをすると、かなり苦しいんだけど、背に腹は変えられない。

 まるで体を締め上げるように流れる魔力に耐えながら、僕は枷に集中した。

「う……くっ……あ、あぐっ!!」

 い、痛……やっぱり痛い……

 どうしても、痛みには耐えきれなくて、喘ぎながら腕を動かす僕を、フュイアルさんは見下ろしていた。こういう時のこいつの目は、ひどく気持ち悪い。視姦されてるみたいじゃないか!

「う……ぐっ……は、外せ! フュイアルさんっ!!」
「あれと別れる?」
「嫌だっ!!」

 怒鳴りつけると、フュイアルさんは、僕の服のボタンに手をかける。
 この人はいつも、こうやって苦しむ僕を、さらに辱めるようなことをする。

 急がなきゃっ……

 だけど焦ると、ますますうまくいかなくなる。枷は外れないのに、自分の魔力がぎゅうぎゅう僕を締め上げる。

「うっ……ぐっ……あ、ああっ……やめろ!!」
「別れろ」

 言いながら、そいつは僕を嬲るようにボタンを外した。

 肌が空気にさらされて、ちょっと冷たい。フュイアルさんの、氷みたいに冷たい指が、僕の肌に触れる。

「ひっ……」

 あまりに冷たくて、そこだけ凍っちゃいそうだ。
 触られるだけで気持ち悪いのに、フュイアルさんは、さらに僕の肌に手を置く。

「……っ!!」

 心臓のあたりが凍りそう。冷たすぎて痛いくらい。何度も体をよじるけど、フュイアルさんの手が追ってくる。

「やめっ……ろっ!! いい加減にっ……! ぐっ!!」
「無理に魔法を使おうとするから苦しいんだよ。今すぐ別れますと言えば、楽にしてあげるよ?」
「嫌だっ……!!! ひやあああああっ!!」

 氷の手が、僕の肌を這い回る。

 一体なんの嫌がらせだ!!

 胸を弄られて、まるで氷水を浴びせられているみたい。

「ぃっ……いやだっ…………ぁ、あ……やめろっ!! やめろぉっっっ!!!!」

 全身の魔力を振り絞って、腕に集中。すると、手にかけられていた枷は、薄いガラスが割れるように脆い音をたて、弾け飛んだ。

 僕は脱がされた服を握り、フュイアルさんから飛び退いた。

 怒りと憎悪を込めて睨みつけるけど、フュイアルさんは平然と立ち上がる。

「出勤時間だ」

 何が出勤……こいつと同じ職場なんて行きたくない。それでも、いかないとクビだ。

 くそ……何でこんな奴と仕事に行かなきゃならないんだ。

「……今行きます……」

 返事をして、渋々渋々、僕はフュイアルさんと、職場に向かうことにした。

 魔族のフュイアルさんは、魔界に戻ればかなり地位のある人らしく、住んでいるのも、空まで届きそうなタワーマンションの最上階。職場はそこから少し離れたところにある高層ビルの最上階。死んでほしい。今すぐに。

 できるだけフュイアルさんから離れて歩いて、マンションのロビーまで来ると、外は、最悪なことに砂が風に混ざって、軽い砂嵐みたいになっていた。
 これも、砂漠ばかりのこの地方ではよくあること。
 首都まで行けば、美しい街並みも広がっているけど、そこから離れたこの地区は、魔物が出ることもあって、砂嵐が頻繁に起こる、乾いて荒れた地だ。

 フュイアルさんは、スーツの内ポケットから車のキーを取り出して、僕に振り向いた。

「嵐だね。車で行こうか」
「行きません。死んでください」
「大人しくついてこないと、職場に行ってからも、さっきと同じことするよ」
「……っ」

 死んでくれないかな……この最低上司……

 寒気がするくらい嫌だけど、行くしかない。

 吐き気を抑えて嫌々ついて行って、地下の駐車場に止めてあった無駄に大きな車の助手席に乗る。

 僕の愛車と違って、シートはダスト柄じゃないし、ダストの等身大クッションもない。耐えられない……

 そうだ!! 今からでも魔法をかけて、車中ダスト柄にすればいいんだ!!

 早速魔法をかけようとすると、いきなり僕の両手首は手錠で繋がれてしまう。

 運転席のフュイアルさんに振り向くと、そいつは笑顔でキーを回していた。

「変な魔法、かけないでね」
「変じゃない!! これ外してください!!」
「シートベルトはしめてあげるから」
「いらない! 外せっ!!」
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