誰より重くて愛がないと言われる僕の後ろには、いつも監禁趣味のあいつがいる

迷路を跳ぶ狐

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20.虚勢?

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 う……いて……頭が痛い。ガンガンする。目も痛いし、全身痛い。

 それでもなんとか目を覚ますと、無機質で冷たい、氷みたいな天井が見えた気がした。

 目に溜まっていた涙を拭う。

 それから、もう一度天井を見上げる。それは、見慣れた仮眠室の天井だった。

 僕が寝ているのは、職場の仮眠室のベッドだ。だいぶ古くなった時計の音がする。もう深夜らしい。

 なんでこんなところにいるんだ?

 確か、フュイアルさんと自分のマンションに戻って、魔物が荒らした部屋の検証をして、窓から飛び出したら砂嵐が思ったより激しくて、そのまま気絶したんだ。あのまま落ちていたら、確実に死んでいたはず。

 ズキズキする。頭。

 ベッドのわきのテーブルには、大きなマグカップが置かれていて、中のコーヒーが湯気を上げていた。

 それを一口だけ飲んで立ち上がり、僕は、頭痛に耐えながら仮眠室を出た。

 オフィスの方から明かりが漏れている。こっそり扉を少しだけ開けて中をのぞくと、奥の照明が一つだけついていて、それに照らされたデスクで、フュイアルさんが書類を作っていた。多分、僕の部屋に出た魔物に関する報告だろう。

 この砂漠の街では、砂嵐が来ればすぐに通信は遮断され、たまに電気まで消えてしまう。だから首都への報告はすべて書類。その上、少しでも遅れると、嫌味な遣いが来て催促される。

 だから今あれをしてるんだろうけど……

 くそ……フュイアルさんに借りを作っちゃった。

 僕の部屋の検証を終えた後、何事もなく帰っていれば、フュイアルさんだったら報告のための書類作成なんてとっくに終えているはず。
 考えたくないけど、僕を助けていたから、こんなに遅くなったんだろう。さっき仮眠室にあったコーヒーはまだ温かったし、ついさっきまで僕の隣にいたんだ。

 いなくていいのに……なんであの人はそういうことをするんだ。

 僕になんて構ってるから、夜遅くまで書類書く羽目になるんじゃないか。

 あの時、砂嵐の中に飛び出したのは僕なんだし、それで放っておかれて死んだって、僕はフュイアルさんを恨んだりしないのに。

 僕は魔法は使えるけど、それでも、体はただの人族。魔物の力で汚染された砂の嵐をもろにくらって、無事でいられるはずがない。それなのに、今の僕はちょっとまだ頭が痛いくらいで、他はなんともない。

 きっとフュイアルさんが丁寧に治療してくれたんだろう。

 ……放っておいていいのに。

 頼んでない。そんなこと。

 ……あんな奴に助けられるなんて。

 借りを作ったままじゃ悔しすぎて死ぬ。

 僕は、扉を開けて、中に入った。

 フュイアルさんが、すぐに顔を上げる。

「トラシュ? まだ起きちゃダメだろ。寝てなさい」
「……もう治りました……」
「嘘つかない。治療だって、すごく時間がかかったんだ。仮眠室に戻りなさい」
「嫌です。もう治りました。それ、僕がやります。報告ですよね? いつもやってるし、すぐ終わります」

 すると、フュイアルさんは珍しくひどく驚いた顔をする。

 フュイアルさんだって疲れているはずだし、さっさと渡せばいいのに、そいつは書類を取り上げて、僕に向き直った。

「どうしたの? トラシュがそんなこと言うなんて」
「フュイアルさんに、借り作りたくないんです」
「貸しにする気なんてない。トラシュに寝てて欲しいだけだから」
「…………死んでください。僕はもう大丈夫だし、助けられたくもない」
「……そうか」

 フュイアルさんは少し笑って、やっと僕に資料を渡してくれる。

 その笑顔が馬鹿にしているように思えて、僕は、渡されたものを乱暴に受け取り、自分のデスクへ向かった。

 くそ……なんでこうなるんだ。

 フュイアルさんから見たら、こうして虚勢を張る僕なんて、きっと馬鹿みたいに見えてるんだ。

 もしも、これが虚勢じゃなくて、本当に大丈夫になったら、フュイアルさんはあの態度、やめてくれるのか?

 僕は、フュイアルさんに助けられるのだけは嫌なんだ。

「トーラシュー。後で朝飯行かない?」
「……死んでください。フュイアルさんとは何も食べません……バーカ……」
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