誰より重くて愛がないと言われる僕の後ろには、いつも監禁趣味のあいつがいる

迷路を跳ぶ狐

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40.全然本気にされてない……


 僕は、ヴァルアテアに向き直った。

「……なにかフュイアルさんの弱点教えてくれたら信じる。知らない?」
「お前だろう」
「は? どういう意味?」
「あいつに弱点があるとすれば、お前だ」
「そんなの意味わかんない。僕は、本気であいつを殺したいと思って聞いてるんだけど」
「それなら本気で自分で考えろ」
「なんだよそれ。ケチ……もういい。自分でやるから」
「……トラシュ」
「なんだよ。やっぱり教えてくれるの!?」
「いいや。そうじゃない。お前も分かっていると思うが、あいつの魔力は魔界でも一二を争うほどのものだ。無茶はやめておけ」
「うるさいよ。お前に関係ないだろ!」
「……関係ないことはない」
「は?」

 ボソッと言ったヴァルアテアに振り向くと、そいつは、やけに真剣な顔で僕を見ている。

 なんでそういう目をするんだ。この目は嫌い。

 僕は、すぐに顔をそむけてた。

 やっぱり、こいつも他のやつも警戒しておかなきゃ。
 だいたい僕、こんなふうに他人と話すこともなかったのに、何やってるんだ。

 すぐに逃げ出したいのに、僕は動けない。

 僕もおかしい。自分が何をしているのか、何でこうなるのか、分からない。

 一体僕はどうしちゃったんだ。

 自分で自分に戸惑う僕に、今度はオーイレールが、煙を上げる皿を持って駆け寄って来た。

「トーラシュー。スパゲッティできたぞー!!」
「は? うわ!? なんだそれ!!」

 なんとか完成したのかと思ったら、オーイレールが持ってきたのは、黒こげの、どう見てもまだ茹でる前のパスタ。

 パスタを茹でずに焼いたのか? もう真っ黒すぎて、食べれるとは思えない。
 あの少し焦げた焼きそばは、オーイレールにしてはよくできてたものだったんだ。

「これ、食べられるの……?」
「もちろんだ!! 焦げてるけど、うまいぞ!! トラシュ、前に一緒にメシ行った時、黒いスパゲッティ食ってたじゃないか!!」
「あれはイカ墨だよ……」

 戸惑いながらも、それを受け取る。せめてパスタは茹でて欲しかった。
 フュイアルさん、ずっとオーイレールの隣にいたくせに、何してたんだ。

 キッチンに振り向いたら、まだ煙を上げているキッチンから、フュイアルさんはこめかみを押さえながら出ていった。ずいぶんショックだったらしい。

 これはチャンスだ……落ち込んだあいつなら、後ろから殴ったら勝てるかもしれない。

「オーイレール……」
「ん? なんだ!? フォークならちゃんと見つけてきたぞ!!」
「それ、絶対フォークで食べられないから。でも、チャンスをありがとう」
「は? お、おい! どこいくんだよ!?」

 スパゲッティ片手に、食べられそうにないものをすすめてくるオーイレールに、後で食べるよと絶対に守らない約束をして、僕は、フュイアルさんの後を追って、部屋を出た。

「フュイアルさーん。どこですかー?」

 廊下を歩きながら呼んでも、返事はない。

 だけど、奥の部屋の扉が開いている。

 返事もできないほどショックだったのか? やるなら今しかない!!

 決意して、魔法で作り出した短剣を懐に忍ばせ、開いている扉に向かう。

 その部屋に入ったところで、いきなり後ろから抱きしめられた。

「トーラシュ。何してるの?」
「わっ!! ふ、フュイアルさん!?」

 さっきまで落ち込んだように見えていたのに、フュイアルさんは、いつもと同じような笑顔で僕を背後から抱きしめている。
 そして、僕の腕を捻り上げ、あっさり短剣を取り上げてしまった。

「朝から懲りないねー。チャンスだと思った?」
「思ったよ!! くそっ……離せ変態っ!!」
「俺を後ろからつけてきたのはトラシュの方だろー? うるさい奴らがきたし、仮眠室行こうか?」
「行かない!! 死ねっ!!」

 怒鳴りつけると、フュイアルさんは僕の両手首を掴んで壁に押し付ける。
 痛くて顔を歪める僕に、そいつは唇が触れてしまいそうなほど、顔を近づけてきた。

「さっきヴァルアテアと何話してたの?」
「は?! そ、そんなの、関係ないだろ!!」

 さすがに、お前の弱点、とは答えられない。そんなこと言ったら、絶対ここぞとばかりに馬鹿にされる。

 だけど、言わなかったら言わなかったで、ひどい目に遭いそう。

 フュイアルさんの背後から浮かんできた鎖が、僕の体に絡みついてくる。

「う……い、いた……やだ……フュイアルさんっ!」

 朝からなんでこうなるんだ。

 ゆっくりと僕の体に絡みついてきた鎖は、僕の体をパジャマの上から縛り上げ、身動きが取れないようにしてしまう。

 抵抗できなくなった僕の服の中に、フュイアルさんは手を入れてきた。

「俺に言えないようなこと、話してたんだ」
「うるさい……そ、それの何が悪いんだよ!!」
「オーイレールとは何話してたの?」
「は!? や、焼きそばのこと……」
「一緒に飯食いに行ったの?」
「だからなんだよ! あれはあいつが弁当忘れて、一緒にコンビニ行っただけ……それの何が悪いんだよっっ!!」
「……悪い子」
「ざけんな……は、離してっ……! うっ……ああ! い、いたっ……んっ!!」

 声を上げようとした僕の口を、そいつは手で塞いでくる。

「静かにしてないと、またあいつらが来ちゃう。行こうか?」

 僕は必死に逃げようとするけど、結局はそいつに担ぎ上げられてしまった。

 やっぱり僕は、こいつに勝てない。

 フュイアルさんは魔法で窓を消して、僕を担いだまま、外に飛び出す。
 そのまま僕は、職場の仮眠室まで連れて行かれた。







「離せよ!! フュイアルさん!!!」

 怒鳴る僕を、フュイアルさんは仮眠室のベッドに下ろした。まだ朝早い。出勤前のそこには、僕とフュイアルさん以外、誰もいない。

 こんなところ連れて来て、何する気だ!!

 手のひらに魔力を込める。すぐに剣を作り出そうとしたのに、まだ体が回復していないせいが、腕が痛むだけだ。

 くそ……今襲われたら、抵抗できない!

 だけど、服従なんか二度としたくない。

 僕は、ベッドの上で目一杯、フュイアルさんを睨みつけた。

 けれどフュイアルさんは、ベッドのそばのテーブルに、朝食の乗ったトレイを置いただけだった。

「朝食、置いておくね」
「いらない…………」
「それと、無理して魔法使わないように」
「お前が襲わなかったらしない!! 何でこんなところ連れて来たんだ!!」
「俺はトラシュと二人きりになりたかっただけ」
「……僕は嫌です」
「……じゃあ、食事の続き、しようか」

 そう言って、そいつはスプーンを取るけど、僕はそんなの、食べるつもりはない。

「……いらない」
「怯えなくても、襲ったりしないよ?」
「はあ!? だ、誰が怯えたりなんかっ……!」
「トラシュの体が回復するまで、何もしないから。朝ご飯食べて、もうしばらく寝てな」

 何が回復だ。こんな奴に気を使われるいわれはない。
 まして、僕がこいつに怯えるなんて、あり得ない。

 僕は、そいつから、スプーンを奪い取った。

「……魔力回復したら、今度こそ殺します」
「はいはい」

 ……全然本気にされてない……

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