40 / 106
40.全然本気にされてない……
しおりを挟む僕は、ヴァルアテアに向き直った。
「……なにかフュイアルさんの弱点教えてくれたら信じる。知らない?」
「お前だろう」
「は? どういう意味?」
「あいつに弱点があるとすれば、お前だ」
「そんなの意味わかんない。僕は、本気であいつを殺したいと思って聞いてるんだけど」
「それなら本気で自分で考えろ」
「なんだよそれ。ケチ……もういい。自分でやるから」
「……トラシュ」
「なんだよ。やっぱり教えてくれるの!?」
「いいや。そうじゃない。お前も分かっていると思うが、あいつの魔力は魔界でも一二を争うほどのものだ。無茶はやめておけ」
「うるさいよ。お前に関係ないだろ!」
「……関係ないことはない」
「は?」
ボソッと言ったヴァルアテアに振り向くと、そいつは、やけに真剣な顔で僕を見ている。
なんでそういう目をするんだ。この目は嫌い。
僕は、すぐに顔をそむけてた。
やっぱり、こいつも他のやつも警戒しておかなきゃ。
だいたい僕、こんなふうに他人と話すこともなかったのに、何やってるんだ。
すぐに逃げ出したいのに、僕は動けない。
僕もおかしい。自分が何をしているのか、何でこうなるのか、分からない。
一体僕はどうしちゃったんだ。
自分で自分に戸惑う僕に、今度はオーイレールが、煙を上げる皿を持って駆け寄って来た。
「トーラシュー。スパゲッティできたぞー!!」
「は? うわ!? なんだそれ!!」
なんとか完成したのかと思ったら、オーイレールが持ってきたのは、黒こげの、どう見てもまだ茹でる前のパスタ。
パスタを茹でずに焼いたのか? もう真っ黒すぎて、食べれるとは思えない。
あの少し焦げた焼きそばは、オーイレールにしてはよくできてたものだったんだ。
「これ、食べられるの……?」
「もちろんだ!! 焦げてるけど、うまいぞ!! トラシュ、前に一緒にメシ行った時、黒いスパゲッティ食ってたじゃないか!!」
「あれはイカ墨だよ……」
戸惑いながらも、それを受け取る。せめてパスタは茹でて欲しかった。
フュイアルさん、ずっとオーイレールの隣にいたくせに、何してたんだ。
キッチンに振り向いたら、まだ煙を上げているキッチンから、フュイアルさんはこめかみを押さえながら出ていった。ずいぶんショックだったらしい。
これはチャンスだ……落ち込んだあいつなら、後ろから殴ったら勝てるかもしれない。
「オーイレール……」
「ん? なんだ!? フォークならちゃんと見つけてきたぞ!!」
「それ、絶対フォークで食べられないから。でも、チャンスをありがとう」
「は? お、おい! どこいくんだよ!?」
スパゲッティ片手に、食べられそうにないものをすすめてくるオーイレールに、後で食べるよと絶対に守らない約束をして、僕は、フュイアルさんの後を追って、部屋を出た。
「フュイアルさーん。どこですかー?」
廊下を歩きながら呼んでも、返事はない。
だけど、奥の部屋の扉が開いている。
返事もできないほどショックだったのか? やるなら今しかない!!
決意して、魔法で作り出した短剣を懐に忍ばせ、開いている扉に向かう。
その部屋に入ったところで、いきなり後ろから抱きしめられた。
「トーラシュ。何してるの?」
「わっ!! ふ、フュイアルさん!?」
さっきまで落ち込んだように見えていたのに、フュイアルさんは、いつもと同じような笑顔で僕を背後から抱きしめている。
そして、僕の腕を捻り上げ、あっさり短剣を取り上げてしまった。
「朝から懲りないねー。チャンスだと思った?」
「思ったよ!! くそっ……離せ変態っ!!」
「俺を後ろからつけてきたのはトラシュの方だろー? うるさい奴らがきたし、仮眠室行こうか?」
「行かない!! 死ねっ!!」
怒鳴りつけると、フュイアルさんは僕の両手首を掴んで壁に押し付ける。
痛くて顔を歪める僕に、そいつは唇が触れてしまいそうなほど、顔を近づけてきた。
「さっきヴァルアテアと何話してたの?」
「は?! そ、そんなの、関係ないだろ!!」
さすがに、お前の弱点、とは答えられない。そんなこと言ったら、絶対ここぞとばかりに馬鹿にされる。
だけど、言わなかったら言わなかったで、ひどい目に遭いそう。
フュイアルさんの背後から浮かんできた鎖が、僕の体に絡みついてくる。
「う……い、いた……やだ……フュイアルさんっ!」
朝からなんでこうなるんだ。
ゆっくりと僕の体に絡みついてきた鎖は、僕の体をパジャマの上から縛り上げ、身動きが取れないようにしてしまう。
抵抗できなくなった僕の服の中に、フュイアルさんは手を入れてきた。
「俺に言えないようなこと、話してたんだ」
「うるさい……そ、それの何が悪いんだよ!!」
「オーイレールとは何話してたの?」
「は!? や、焼きそばのこと……」
「一緒に飯食いに行ったの?」
「だからなんだよ! あれはあいつが弁当忘れて、一緒にコンビニ行っただけ……それの何が悪いんだよっっ!!」
「……悪い子」
「ざけんな……は、離してっ……! うっ……ああ! い、いたっ……んっ!!」
声を上げようとした僕の口を、そいつは手で塞いでくる。
「静かにしてないと、またあいつらが来ちゃう。行こうか?」
僕は必死に逃げようとするけど、結局はそいつに担ぎ上げられてしまった。
やっぱり僕は、こいつに勝てない。
フュイアルさんは魔法で窓を消して、僕を担いだまま、外に飛び出す。
そのまま僕は、職場の仮眠室まで連れて行かれた。
「離せよ!! フュイアルさん!!!」
怒鳴る僕を、フュイアルさんは仮眠室のベッドに下ろした。まだ朝早い。出勤前のそこには、僕とフュイアルさん以外、誰もいない。
こんなところ連れて来て、何する気だ!!
手のひらに魔力を込める。すぐに剣を作り出そうとしたのに、まだ体が回復していないせいが、腕が痛むだけだ。
くそ……今襲われたら、抵抗できない!
だけど、服従なんか二度としたくない。
僕は、ベッドの上で目一杯、フュイアルさんを睨みつけた。
けれどフュイアルさんは、ベッドのそばのテーブルに、朝食の乗ったトレイを置いただけだった。
「朝食、置いておくね」
「いらない…………」
「それと、無理して魔法使わないように」
「お前が襲わなかったらしない!! 何でこんなところ連れて来たんだ!!」
「俺はトラシュと二人きりになりたかっただけ」
「……僕は嫌です」
「……じゃあ、食事の続き、しようか」
そう言って、そいつはスプーンを取るけど、僕はそんなの、食べるつもりはない。
「……いらない」
「怯えなくても、襲ったりしないよ?」
「はあ!? だ、誰が怯えたりなんかっ……!」
「トラシュの体が回復するまで、何もしないから。朝ご飯食べて、もうしばらく寝てな」
何が回復だ。こんな奴に気を使われるいわれはない。
まして、僕がこいつに怯えるなんて、あり得ない。
僕は、そいつから、スプーンを奪い取った。
「……魔力回復したら、今度こそ殺します」
「はいはい」
……全然本気にされてない……
58
あなたにおすすめの小説
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
ヤンデレだらけの短編集
八
BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。
【花言葉】
□ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡
□ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生
□アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫
□ラベンダー:希死念慮不良とおバカ
□デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち
ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。
かなり昔に書いたもので芸風(?)が違うのですが、楽しんでいただければ嬉しいです!
【異世界短編】単発ネタ殴り書き随時掲載。
◻︎お付きくんは反社ボスから逃げ出したい!:お馬鹿主人公くんと傲慢ボス
お兄ちゃんができた!!
くものらくえん
BL
ある日お兄ちゃんができた悠は、そのかっこよさに胸を撃ち抜かれた。
お兄ちゃんは律といい、悠を過剰にかわいがる。
「悠くんはえらい子だね。」
「よしよ〜し。悠くん、いい子いい子♡」
「ふふ、かわいいね。」
律のお兄ちゃんな甘さに逃げたり、逃げられなかったりするあまあま義兄弟ラブコメ♡
「お兄ちゃん以外、見ないでね…♡」
ヤンデレ一途兄 律×人見知り純粋弟 悠の純愛ヤンデレラブ。
俺にだけ厳しい幼馴染とストーカー事件を調査した結果、結果、とんでもない事実が判明した
あと
BL
「また物が置かれてる!」
最近ポストやバイト先に物が贈られるなどストーカー行為に悩まされている主人公。物理的被害はないため、警察は動かないだろうから、自分にだけ厳しいチャラ男幼馴染を味方につけ、自分たちだけで調査することに。なんとかストーカーを捕まえるが、違和感は残り、物語は意外な方向に…?
⚠️ヤンデレ、ストーカー要素が含まれています。
攻めが重度のヤンデレです。自衛してください。
ちょっと怖い場面が含まれています。
ミステリー要素があります。
一応ハピエンです。
主人公:七瀬明
幼馴染:月城颯
ストーカー:不明
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
内容も時々サイレント修正するかもです。
定期的にタグ整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
平凡な俺が完璧なお兄様に執着されてます
クズねこ
BL
いつもは目も合わせてくれないのにある時だけ異様に甘えてくるお兄様と義理の弟の話。
『次期公爵家当主』『皇太子様の右腕』そんなふうに言われているのは俺の義理のお兄様である。
何をするにも完璧で、なんでも片手間にやってしまうそんなお兄様に執着されるお話。
BLでヤンデレものです。
第13回BL大賞に応募中です。ぜひ、応援よろしくお願いします!
週一 更新予定
ときどきプラスで更新します!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる