39 / 106
39.怖い気がする……
しおりを挟むフュイアルさんが扉を開こうとすると、まだ鍵も開けてないのに、それは外から勢いよく開かれる。
飛び込んできたのは、やっぱりオーイレールだ。鍵は魔法で勝手に開けたらしい。
フュイアルさん、怖い顔してるけど、オーイレールは全く気にしてない。フュイアルさんの横をすり抜け、後ろにいた僕のほうに走ってくる。
「お邪魔しまーす!! あ! いた!! トラシュ!! よかったー。無事だったか!! 昨日お好み焼き食べずに消えるから、心配したぞ!!」
「心配って……だから来たのか?」
「ん? 当然だろ? 元気でよかった」
「……」
微笑んで、本当に安心したように、オーイレールが笑う。その目がなんとなく怖くて、僕はすぐに目をそらすのに、そいつは僕の顔を覗き込んでくる。
「どうした? フュイアルにひどいことされたなら言えよ!」
「別に……」
「そうか? ほら! お好み焼き、持ってきてやったぞ!!」
彼は、ずっと抱えていた大きな風呂敷包みを、ダイニングテーブルに下ろした。
その中から出て来たのは、いくつもの弁当箱で、中にはオーイレールがいつも作る焼きそばや、職場でバーベキューする時の焼肉が詰まっていた。僕が食べ損なったお好み焼きも、ちゃんとある。
「これ……」
「トラシュ、お好み焼き、すげえ楽しみにしてたじゃん。みんなで作ってきた!! 他にもいろいろあるから食え!! あっためてやる!!」
「え? あ、オーイレール!」
「電子レンジどこだよー? マヨネーズあるかー?」
勝手にキッチンに入り、勝手に皿にお好み焼きを盛って電子レンジに突っ込んで、冷蔵庫を開けて中のマヨネーズを見つけるオーイレール。他の料理も、次々皿に盛っている。
いつもまるでモデルルームのように整然と片付けられているキッチンにズカズカと侵入されて、フュイアルさんはかなり怒ってるみたいだけど、やっぱりオーイレールは全く気づいてない。
「オーイレール。そろそろいい加減にしろ」
「おーっ!! 何だこれ爆発したぞ!!」
「お前何チンしたんだ!? おいっ! なんで電子レンジがドロドロになってるんだ!?」
キッチンからは黒い煙が上がって、それを発生させているレンジには、絶対食べ物には見えない謎のドロドロしたものが飛び散っている。絶対あれ、弁当箱に入っていたものじゃない。一体何をチンしたんだ。
ピカピカだったキッチンが、焦げた匂いでいっぱいになって、フュイアルさんは本気でキレてるみたい。
だけどオーイレールは、それでも全く気にしていない。「タオルどこだー?」なんて言いながら笑っている。
そんな二人を遠目に眺めているヴァルアテアは、さっきフュイアルさんが持ってきた、変な生クリーム入りホットミルクを飲んでしまう。
「……なんだこれは…………?」
「さっきフュイアルさんが、僕に持ってきた、変な生クリーム入りホットミルク」
僕が答えると、ヴァルアテアはめちゃくちゃ嫌そうな顔をした。
「……先に言え……」
「だって、勝手に飲んじゃうから。なんともないの?」
「俺は魔族だからな……だが、気分が悪い……」
全く影響がないというわけではないらしく、ヴァルアテアはずっと口元を押さえている。僕がコーヒーを差し出すと、まだ結構熱いのにもかかわらず、一気に飲み干してしまった。
「……フュイアルは、これをお前に飲ませたのか?」
「僕は飲んでないよ。フュイアルさんにはいつも騙されてるし……ねえ……」
「なんだ?」
「……お前たち、フュイアルさんに言われて、僕のこと監視してるのか?」
「監視? ああ……フュイアルがそう言ったのか?」
「そうだよ! ……もう近づくな!!」
「確かにそんなことを言われたが、誰も聞いていない。安心しろ」
「え?」
「主従関係があるわけじゃない。ただ、魔物からトラシュの街を守りたいから協力しろと頼まれただけだ」
「……」
信用していいのか? 確かにこいつらに何かされたことはない。
ヴァルアテアが嘘をつくのを見たことないし、ドロドロになった電子レンジで弁当箱の中のものを温めようとして、フュイアルさんに取り上げられているオーイレールが、あの人に従っているようにも見えない。しかも今度は冷蔵庫から出したマヨネーズぶちまけられて、フュイアルさんはすでにちょっと泣きそう。オーイレールはどうやら朝食を作ると意気込んでいるようだけど、朝食の代わりに、もう二度とあのキッチンではご飯を作れなくなりそうだ。オーイレールは、そんなこと全く気にしていないようだけど。
主従関係はなさそうだけど……オーイレールを信じるのも、ちょっと怖い気がする……
58
あなたにおすすめの小説
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
嫌われ者の長男
りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....
弟勇者と保護した魔王に狙われているので家出します。
あじ/Jio
BL
父親に殴られた時、俺は前世を思い出した。
だが、前世を思い出したところで、俺が腹違いの弟を嫌うことに変わりはない。
よくある漫画や小説のように、断罪されるのを回避するために、弟と仲良くする気は毛頭なかった。
弟は600年の眠りから醒めた魔王を退治する英雄だ。
そして俺は、そんな弟に嫉妬して何かと邪魔をしようとするモブ悪役。
どうせ互いに相容れない存在だと、大嫌いな弟から離れて辺境の地で過ごしていた幼少期。
俺は眠りから醒めたばかりの魔王を見つけた。
そして時が過ぎた今、なぜか弟と魔王に執着されてケツ穴を狙われている。
◎1話完結型になります
お兄ちゃんができた!!
くものらくえん
BL
ある日お兄ちゃんができた悠は、そのかっこよさに胸を撃ち抜かれた。
お兄ちゃんは律といい、悠を過剰にかわいがる。
「悠くんはえらい子だね。」
「よしよ〜し。悠くん、いい子いい子♡」
「ふふ、かわいいね。」
律のお兄ちゃんな甘さに逃げたり、逃げられなかったりするあまあま義兄弟ラブコメ♡
「お兄ちゃん以外、見ないでね…♡」
ヤンデレ一途兄 律×人見知り純粋弟 悠の純愛ヤンデレラブ。
月弥総合病院
御月様(旧名 僕君☽☽︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
次期当主に激重執着される俺
柴原 狂
BL
「いいかジーク、何度も言うが──今夜も絶対に街へ降りるな。兄ちゃんとの約束だ」
主人公ジークは、兄にいつもそう教えられてきた。そんなある日、兄の忘れ物を見つけたジークは、届けなければと思い、迷ったのち外へ出てみることにした。そこで、ある男とぶつかってしまう。
「コイツを王宮へ連れて帰れ。今すぐに」
次期当主に捕まったジーク。果たして彼はどうなるのか。
溺愛ヤンデレ攻め×ツンデレ受けです
ぜひ読んで見てください…!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる