誰より重くて愛がないと言われる僕の後ろには、いつも監禁趣味のあいつがいる

迷路を跳ぶ狐

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44.殺意を持って

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「トラシュ? おーい」

 呼ばれた気がして、ぼんやりしながら目を開く。
 すると、僕の顔をじーっと見下ろすして覗き込む、フュイアルさんの顔が見えた。

 僕……どうしたんだ?

 起き上がると、僕は、寝室のベッドに寝かされていた。

 何で僕、こんなところにいるんだ? お風呂に入っていたはずなのに。

「あ、あれ……? 僕……」

 キョロキョロする僕に、ベッドのわきに立ったフュイアルさんが言った。

「なかなかお風呂から出てこないから見に行ったら、浴槽でぐったりしてた。のぼせたんじゃない?」
「のぼせた……?」

 そうか。風呂に入って、そこで魔法を使ってフュイアルさんの罠を探していたら、いつのまにか、気持ち悪くなってきたんだ。その後から記憶がない。

 長く入りすぎた……だって、あまりにも気持ち良かったんだ。

 こんな奴の入れた風呂で気持ち良くなって寝るなんて、一生の不覚だ。

 いつのまにか、服も着ている。初めて見る、柔らかい生地のパジャマだ。また僕が気絶してる間に勝手に着せたな……この変態魔族。

「大丈夫? トラシュ」
「……平気です。顔、近づけないでください」

 起き上がると、すうっと気持ちの良い風が流れて行く。まるで夜風の中にいるようだ。

 見上げたら、夜空が見える。天井は、どこへいったんだ?

 今朝まで確かにあった天井は消えていて、壁も、ちょうどベッドの高さくらいにまでなっていて、まるで夜空に浮いているみたいだ。珍しく空は晴れていて、星が幾つも瞬いていた。

「なんで……天井は?」
「消した」
「……は?」

 天井って、消すものか?

 どうせ魔法で消したんだろうけど……意味がわからない。

 呆然とする僕の頬に、フュイアルさんはそっと触れて言った。

「こうした方が、涼しくて気持ちいいかと思って。体はどう? もう辛くない?」
「…………触らないでください」
「じゃあ、これ」

 フュイアルさんが、僕に冷たいジュースが入ったコップを渡してくる。

 なんでこういうタイミングでこういうものを出すんだ。ちょうど喉が乾いていたところだ。これじゃ抗うこともできない。

 受け取って、喉に流し込む。
 すっきりしてて美味しい。体も楽になっていくみたいだ。

 それを悟られないように、無言でコップを突き返す。
 フュイアルさんは、にっこり笑って「もう少し飲む?」って聞いてきた。

「……いりません……もう……元気だから…………」
「よかった」

 コップを受け取り、やけに嬉しそうに笑うフュイアルさん。

 なんなんだ。一体。なんでこんなに僕の世話を焼きたがるんだ。
 僕は一応、こいつに殺意を持っていて、それを何度も実行しているのに。

 なんだか居心地が悪くて、僕は立ち上がろうとするけど、下半身に、違和感があった。

 お尻の辺りが涼しすぎる。

 あれ……? 僕、下着、履いてないんじゃないか?
 いや、ちゃんと履いてる。だけど僕のじゃなくて、めちゃくちゃ小さなものらしい。

 隣でニコニコ笑って僕を見下ろしている男に振り返ると、そいつは嬉しそうに僕の頭に手を置いた。

「よく似合ってる。可愛い」
「何言ってるんですか? なんで僕、こんなの着てるんですか?」
「裸じゃ湯冷めするだろ? 可愛いの着せたくて。気に入った?」
「パジャマの話じゃありません。下着は?」
「ちゃんと履かせてるはずだよ?」
「そうじゃなくて、僕のパンツ!! どこやったんだよ!!」
「捨てた」
「はあ!?」

 何言ってるんだろう。この人。

 なんでお風呂でのぼせて気絶した人の下着取り上げてるの? 頭おかしいの? 馬鹿なの? 犯罪なの?

 僕は、ニヤニヤ笑っているフュイアルさんを怒鳴りつけた。

「なに勝手に人の下着捨ててんだよ!!」
「俺が俺の好きなの好きなだけ買ってやるから、心配しないで」
「いらない!! なんでフュイアルさんが選んだ下着なんかつけなきゃいけないんだ!! どうせエロいの選ぶ気だろ!」
「うん」
「僕、そんなの絶対着ないからな!! 服も返せ!! 下着も返せ!!」
「無理。せっかく、可愛い下着つけてるんだから、俺に見せて?」
「嫌だっ……!! だ、だいたいっ……着せるとき見てるだろ!!」
「見たけど」
「見たのかよ!! 見るなよ変態!!」
「見たけど、気絶しているトラシュがつけてるのを見るのと、起きて恥ずかしそうにしてるトラシュがつけてるのを見るのとでは、ぜんぜん違うから」
「何真剣な顔して言ってるんですか? 頭おかしいんですか? 犯罪ですよ? すでに犯罪じゃない部分がないですが、犯罪ですよ? やっちゃいけないことですよ? きもいんだよ、死ね! ふざけんな変態!! 誰がお前の選んだ下着なんかつけるか!! 死ねよ! いや僕が殺す! 着替えたら殺すからそこにいろよ!!」

 怒鳴りつけて、ベッドから降りようとする。だけど逃げようとした僕の前に、すでにそいつの罠が先回りしている。

 僕を取り囲み、僕の周りでふわふわ浮いている光の玉。まるで、金の粒が浮いているようだけど、これはそんなに可愛いものじゃない。

 フュイアルさんが使う魔法の中でも一番凶悪で、僕が一番嫌いな媚薬の魔法。

「やっ……嫌だっっ……!!」

 とっさに飛び退くけど、もう僕に逃げ場はない。周りを飛ぶ、媚薬の魔法に囲まれてしまった。
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