誰より重くて愛がないと言われる僕の後ろには、いつも監禁趣味のあいつがいる

迷路を跳ぶ狐

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56.居心地の悪い場所

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 魔法のもやの中のフュイアルさんは、黙って車を運転して、道路に飛び出してきた人に呼び止められている。街の人だろう。すごく焦っている様子を見ると、多分、魔物が出たんだ。

 そして、その男に案内されながら車の外に出て、路地にいた魔物を一撃で倒していた。

 やっぱりすごい……

 フュイアルさん観察を続けていたら、お腹が空いてきた。

 ご飯にしようかな……何か作るか。

 自分で食事を用意するのは久しぶりだ。最近の僕の食事は、全部フュイアルさんが勝手に用意しているから。
 フュイアルさんが用意したものなんて、昔は一口も食べなかったのに、最近、ついつい食べてしまう。だから、フュイアルさんにも、ご飯用意されちゃうんだ。

 そして、それは今回も同じだったらしい。

 ダイニングテーブルの上には、大きな皿に乗った六段のパンケーキが置いてある。フュイアルさんの仕業だ。
 見ただけで分かる。だって、パンケーキの上にチョコソースで「今日の夜は鞭と羞恥プレイのどっちがいい?」と、なんでそれをパンケーキに書くんだと言いたくなることが書いてあったんだから。なんだその二択。死ね。どっちもやだ。

 とりあえず、テーブルについて、そばにあったフォークで、チョコソースをグチャグチャに広げる。これでよし。

 シロップと、冷蔵庫にあったホイップクリームを全部かけて、さあ、ご飯の時間だ。

 パンケーキを切り分けて、口に入れる。中には果物がたくさん挟んであって、僕の好きな味だ。フュイアルさんは、よくこういうものを作る。そして「トラシュは絶対気にいると思うよ」って言う。

 あんな人の作るものなんか、食べたくないはずなのに、また食べてしまう。美味しいところがますます嫌だ。

 パンケーキを食べながら魔法を使い、フュイアルさん観察を続ける。

 フュイアルさんって、普段あんな風に仕事してるんだ……

 車に乗って、巡回して、魔物が暴れていれば、鎮めて。

 たまに一緒にいるオーイレールが、勝手にそばのコンビニに入っていくのを注意して、助手席で寝ているオーイレールを起こして、パチンコ屋と飲み屋に吸い込まれていきそうになるオーイレールを引き留めている。

 あんな風にしていると、まるで本当に上司みたいだ。ああやって、ふらふらしてるオーイレールを止めたり、一緒に休憩したり、寝てたら起こしたり……

 そういうの、僕じゃない奴にもするんだ。

 別にいいけど。僕のこと、あれだけ好きって言うくせに、僕じゃない奴と、そういうことするんだ…………別に、どうでもいいけど。僕じゃない奴ともするんだ……

 とりあえず、フュイアルさんの歯ブラシとコップと、お箸とマグカップは捨てておこう。

 歯ブラシもコップもお箸もマグカップも、この家には、僕とフュイアルさんのものがそれぞれある。それが僕には、ひどく居心地が悪い。僕の家には僕だけでいたいのに。僕の中に知らない他人が入ってきたみたいで。

 これまでだって、いろんな人と付き合ってきた。
 その度に同棲した。二人で部屋を借りて。
 それでも、その部屋は僕の部屋だった。僕が飾り付けて、僕が磨いて、僕だけが管理する、僕だけの部屋。
 そこに大好きな人がいてくれる。その人と、大好きな家具とお気に入りのぬいぐるみがあって、それでやっと、僕の部屋が完成してた。

 だから、フュイアルさんはダメなんだ。

 フュイアルさんは、僕の彼氏をクズだと言うけど、フュイアルさんみたいに、僕を掻き乱す人の方が、僕にはだめだ。僕の好きなものは、僕の部屋で、可愛くそこに置いてあればそれでいいのに、フュイアルさんは、余計なことをしすぎる。

 それから、お昼になったことに気づいたのか、フュイアルさんは、オーイレールと二人で、近くにあったファーストフードの店に入っていく。あそこ、オーイレールが大好きな店だ。これから二人で食事か。

 僕とは行かないくせに。僕が絶対やだって拒否するからだけど。

 僕とは行かないくせに、オーイレールと楽しそうにしているのを見ていたら、なんだかモヤモヤしてくる。僕だけここに監禁して、二人で楽しそうにして……

 このマンションの鍵は渡されているし、出て行こうと思えば出て行ける。だけど、僕だってこの砂嵐の中、砂の魔力に侵された体で外に出たら、どうなるか分かってる。だから、ここにいるしかない。
 砂嵐が収まったら、こっそり出て行っちゃおうかな。きっとフュイアルさん、帰ってきて僕がいなかったら焦るだろう。ついでにもうこんな街、出て行こうか。
 だけど、長く魔物退治の仕事をして、魔物たちの恨みも買った。この街から出たら、僕はきっと、魔物たちに八つ裂きにされるんだろう。
 そして、このマンションを出て今の仕事を辞めてもやっぱり死ぬ。だって、ここを出たら、僕を雇うところなんてないし、僕に部屋を貸すようなところもない。逃げたら飢え死にだ。
 ここまで来たら、フュイアルさんが僕を今の仕事に引き入れた、その辺りから策略だったような気がしてくる。

 フュイアルさんめ……僕だけここに置いて、一人で楽しそうにしやがって。

 イライラしながら、もやの中のフュイアルさんを睨みつけ、さっき作ったフュイアルさん人形を握りつぶす。呪いでもかけてやりたいが、それは高度な魔法。僕には使えない。

 そうだ。確かフュイアルさんの部屋に、魔法に関する本があったはずだ。それを読んだら、僕にも呪いの魔法くらい、使えるようになるかもしれない。

 僕は、魔法のもやをそのままにして、フュイアルさんの部屋に向かった。
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