56 / 106
56.居心地の悪い場所
しおりを挟む魔法のもやの中のフュイアルさんは、黙って車を運転して、道路に飛び出してきた人に呼び止められている。街の人だろう。すごく焦っている様子を見ると、多分、魔物が出たんだ。
そして、その男に案内されながら車の外に出て、路地にいた魔物を一撃で倒していた。
やっぱりすごい……
フュイアルさん観察を続けていたら、お腹が空いてきた。
ご飯にしようかな……何か作るか。
自分で食事を用意するのは久しぶりだ。最近の僕の食事は、全部フュイアルさんが勝手に用意しているから。
フュイアルさんが用意したものなんて、昔は一口も食べなかったのに、最近、ついつい食べてしまう。だから、フュイアルさんにも、ご飯用意されちゃうんだ。
そして、それは今回も同じだったらしい。
ダイニングテーブルの上には、大きな皿に乗った六段のパンケーキが置いてある。フュイアルさんの仕業だ。
見ただけで分かる。だって、パンケーキの上にチョコソースで「今日の夜は鞭と羞恥プレイのどっちがいい?」と、なんでそれをパンケーキに書くんだと言いたくなることが書いてあったんだから。なんだその二択。死ね。どっちもやだ。
とりあえず、テーブルについて、そばにあったフォークで、チョコソースをグチャグチャに広げる。これでよし。
シロップと、冷蔵庫にあったホイップクリームを全部かけて、さあ、ご飯の時間だ。
パンケーキを切り分けて、口に入れる。中には果物がたくさん挟んであって、僕の好きな味だ。フュイアルさんは、よくこういうものを作る。そして「トラシュは絶対気にいると思うよ」って言う。
あんな人の作るものなんか、食べたくないはずなのに、また食べてしまう。美味しいところがますます嫌だ。
パンケーキを食べながら魔法を使い、フュイアルさん観察を続ける。
フュイアルさんって、普段あんな風に仕事してるんだ……
車に乗って、巡回して、魔物が暴れていれば、鎮めて。
たまに一緒にいるオーイレールが、勝手にそばのコンビニに入っていくのを注意して、助手席で寝ているオーイレールを起こして、パチンコ屋と飲み屋に吸い込まれていきそうになるオーイレールを引き留めている。
あんな風にしていると、まるで本当に上司みたいだ。ああやって、ふらふらしてるオーイレールを止めたり、一緒に休憩したり、寝てたら起こしたり……
そういうの、僕じゃない奴にもするんだ。
別にいいけど。僕のこと、あれだけ好きって言うくせに、僕じゃない奴と、そういうことするんだ…………別に、どうでもいいけど。僕じゃない奴ともするんだ……
とりあえず、フュイアルさんの歯ブラシとコップと、お箸とマグカップは捨てておこう。
歯ブラシもコップもお箸もマグカップも、この家には、僕とフュイアルさんのものがそれぞれある。それが僕には、ひどく居心地が悪い。僕の家には僕だけでいたいのに。僕の中に知らない他人が入ってきたみたいで。
これまでだって、いろんな人と付き合ってきた。
その度に同棲した。二人で部屋を借りて。
それでも、その部屋は僕の部屋だった。僕が飾り付けて、僕が磨いて、僕だけが管理する、僕だけの部屋。
そこに大好きな人がいてくれる。その人と、大好きな家具とお気に入りのぬいぐるみがあって、それでやっと、僕の部屋が完成してた。
だから、フュイアルさんはダメなんだ。
フュイアルさんは、僕の彼氏をクズだと言うけど、フュイアルさんみたいに、僕を掻き乱す人の方が、僕にはだめだ。僕の好きなものは、僕の部屋で、可愛くそこに置いてあればそれでいいのに、フュイアルさんは、余計なことをしすぎる。
それから、お昼になったことに気づいたのか、フュイアルさんは、オーイレールと二人で、近くにあったファーストフードの店に入っていく。あそこ、オーイレールが大好きな店だ。これから二人で食事か。
僕とは行かないくせに。僕が絶対やだって拒否するからだけど。
僕とは行かないくせに、オーイレールと楽しそうにしているのを見ていたら、なんだかモヤモヤしてくる。僕だけここに監禁して、二人で楽しそうにして……
このマンションの鍵は渡されているし、出て行こうと思えば出て行ける。だけど、僕だってこの砂嵐の中、砂の魔力に侵された体で外に出たら、どうなるか分かってる。だから、ここにいるしかない。
砂嵐が収まったら、こっそり出て行っちゃおうかな。きっとフュイアルさん、帰ってきて僕がいなかったら焦るだろう。ついでにもうこんな街、出て行こうか。
だけど、長く魔物退治の仕事をして、魔物たちの恨みも買った。この街から出たら、僕はきっと、魔物たちに八つ裂きにされるんだろう。
そして、このマンションを出て今の仕事を辞めてもやっぱり死ぬ。だって、ここを出たら、僕を雇うところなんてないし、僕に部屋を貸すようなところもない。逃げたら飢え死にだ。
ここまで来たら、フュイアルさんが僕を今の仕事に引き入れた、その辺りから策略だったような気がしてくる。
フュイアルさんめ……僕だけここに置いて、一人で楽しそうにしやがって。
イライラしながら、もやの中のフュイアルさんを睨みつけ、さっき作ったフュイアルさん人形を握りつぶす。呪いでもかけてやりたいが、それは高度な魔法。僕には使えない。
そうだ。確かフュイアルさんの部屋に、魔法に関する本があったはずだ。それを読んだら、僕にも呪いの魔法くらい、使えるようになるかもしれない。
僕は、魔法のもやをそのままにして、フュイアルさんの部屋に向かった。
60
あなたにおすすめの小説
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
平凡な俺が完璧なお兄様に執着されてます
クズねこ
BL
いつもは目も合わせてくれないのにある時だけ異様に甘えてくるお兄様と義理の弟の話。
『次期公爵家当主』『皇太子様の右腕』そんなふうに言われているのは俺の義理のお兄様である。
何をするにも完璧で、なんでも片手間にやってしまうそんなお兄様に執着されるお話。
BLでヤンデレものです。
第13回BL大賞に応募中です。ぜひ、応援よろしくお願いします!
週一 更新予定
ときどきプラスで更新します!
嫌われ者の長男
りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
ヤリチン伯爵令息は年下わんこに囚われ首輪をつけられる
桃瀬さら
BL
「僕のモノになってください」
首輪を持った少年はレオンに首輪をつけた。
レオンは人に誇れるような人生を送ってはこなかった。だからといって、誰かに狙われるようないわれもない。
ストーカーに悩まされていたレある日、ローブを着た不審な人物に出会う。
逃げるローブの人物を追いかけていると、レオンは気絶させられ誘拐されてしまう。
マルセルと名乗った少年はレオンを閉じ込め、痛めつけるでもなくただ日々を過ごすだけ。
そんな毎日にいつしかレオンは安らぎを覚え、純粋なマルセルに毒されていく。
近づいては離れる猫のようなマルセル×囚われるレオン
お兄ちゃんができた!!
くものらくえん
BL
ある日お兄ちゃんができた悠は、そのかっこよさに胸を撃ち抜かれた。
お兄ちゃんは律といい、悠を過剰にかわいがる。
「悠くんはえらい子だね。」
「よしよ〜し。悠くん、いい子いい子♡」
「ふふ、かわいいね。」
律のお兄ちゃんな甘さに逃げたり、逃げられなかったりするあまあま義兄弟ラブコメ♡
「お兄ちゃん以外、見ないでね…♡」
ヤンデレ一途兄 律×人見知り純粋弟 悠の純愛ヤンデレラブ。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
弟勇者と保護した魔王に狙われているので家出します。
あじ/Jio
BL
父親に殴られた時、俺は前世を思い出した。
だが、前世を思い出したところで、俺が腹違いの弟を嫌うことに変わりはない。
よくある漫画や小説のように、断罪されるのを回避するために、弟と仲良くする気は毛頭なかった。
弟は600年の眠りから醒めた魔王を退治する英雄だ。
そして俺は、そんな弟に嫉妬して何かと邪魔をしようとするモブ悪役。
どうせ互いに相容れない存在だと、大嫌いな弟から離れて辺境の地で過ごしていた幼少期。
俺は眠りから醒めたばかりの魔王を見つけた。
そして時が過ぎた今、なぜか弟と魔王に執着されてケツ穴を狙われている。
◎1話完結型になります
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる