誰より重くて愛がないと言われる僕の後ろには、いつも監禁趣味のあいつがいる

迷路を跳ぶ狐

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71.遅れてごめんね

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 帰らないって言ってたくせに、突然現れたフュイアルさんは、僕をぎゅっと強く抱きしめてくる。

「トラシュ…………遅れてごめんね」
「…………な……何を……謝っているんですか? フュイアルさんに来て欲しいなんて……僕は…………」

 いつもなら、強く振り払うところなのに。それなのに、体に力が入らない。
 その腕に抱きしめられていることが嬉しくて、温かい。この男の体は、ひどく冷たいのに。
 泣きそうだった目から、本当に涙が落ちてきて、僕は、焦った。泣いているところなんて、見られたない。

「は、離してくださいっ……! フュイアルさん! 帰らないんじゃなかったんですか!?」
「明日まで向こうにいなきゃならなかったんだけど……どうしてもトラシュに会いたくて。帰ってきた」
「……帰って…………来ないでください……」

 そんなことを言っているのに、僕の目からは涙が流れて、止まらなくなる。
 フュイアルさんが、珍しくちょっとびっくりして僕の顔を覗き込むのに、僕の涙は止まってくれなかった。

 僕は、僕を抱きしめる腕に、そっと、手を添えた。まだ恐る恐るだったけど、フュイアルさんはもっとびっくりしたみたい。フュイアルさんの、僕を抱きしめる力が少し緩んで、僕は、追い縋るように、ますます強くフュイアルさんの腕を掴んだ。
 さっきまで、あれだけ僕の心はぐちゃぐちゃだったのに、今度は勝手に心が温かくなる。
 いつのまにか、目の前のエイリョーゾのことを忘れていた。

 そんなことをしているから、新手が来てしまう。
 エイリョーゾが、空に向かって手を振ると、別の男が空から降りてきた。仲間らしい。その男も、背中に羽があった。短い髪が赤くて、目も赤くて、背の高い男だった。頭には、大きなフードをかぶっている。

 降りてきた男は、エイリョーゾを睨みつけた。

「何をしているんだ。お前は。作戦は成功したのか?」
「黙れ! チイラント! 作戦は失敗だ! あ、あいつ、おかしいんだ! 人族のくせに、俺の鎖を引きちぎったんだぞ! あの砂も焼いたって言ってる!!」

 エイリョーゾは、僕の方を指差している。自分の鎖をちぎられたからって、僕を変だというのはやめてほしい。普段相手にしているフュイアルさんの魔法と比べたら、あんなの、糸より脆いだけだ。

 新手の男は、喚く彼には見向きもせず、フュイアルさんを睨みつけている。

「お前がフュイアルか……」

 けれど、そんな緊迫した状況にもかかわらず、フュイアルさんは、僕を抱きしめたまま離そうとしない。
 何やってるんだ。自分の命を狙うものが目の前にいるのに、こんなことしてる場合じゃないだろ。

「フュイアルさん! 離してください!! 敵がいるんだら、ちゃんと前見て!」
「いいよ。そんなの。後で殺すから」
「フュイアルさん!!! あ、あいつの仲間は、フュイアルさんを殺す毒を持ってるんです! 真面目に相手してください!」
「俺、真面目なんだけど? 大丈夫だよ。俺は負けないから」
「ふざけないでください!!」

 僕が力の限り、フュイアルさんを振り払うと、フュイアルさんは、恨めしそうな目を僕に向けてくる。

「なんで? もうダメなの?」
「ダメです! い、いつまで抱きついてるんですか!! フュイアルさん、殺されてもいいんですか!!」
「トラシュ、俺の心配してるの?」
「……っ!」

 いつもなら、そんなことあるはずないって、怒鳴りつけてた。それなのに、そうできない。だってさっき、僕はこの男から離れられないと自覚したばかり。
 ニヤニヤ笑うこの男に、からかわれてるって分かってるのに、僕はいつもみたいに怒鳴れない。だって、本当に心配だから。

 僕は、そいつを見上げて、なんとか口を開いた。

「………………ほ、ほんの……少しだけ…………」

 また泣きそう。恥ずかしいのか言いたくないのか、声まで震えている。

 フュイアルさんは、そんな僕を見下ろして、首を傾げてしまう。

「トラシュ……大丈夫? もしかして、魔力使いすぎた? なんなら、俺の魔力で癒そうか?」
「……いりません。なんでそんなことされなきゃならないんですかっ!! ぼ、僕があれ苦手って知ってるくせに!!」
「だって、トラシュが、キモい離せ死ねって言わないから……俺の方が、心配になった」
「……そんな台詞で僕の無事を判断しないでください。死ねよ……」
「よかった。元気だね」
「……」

 相変わらず、僕の話を聞いてない。もう諦めよう。
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