誰より重くて愛がないと言われる僕の後ろには、いつも監禁趣味のあいつがいる

迷路を跳ぶ狐

文字の大きさ
71 / 106

71.遅れてごめんね


 帰らないって言ってたくせに、突然現れたフュイアルさんは、僕をぎゅっと強く抱きしめてくる。

「トラシュ…………遅れてごめんね」
「…………な……何を……謝っているんですか? フュイアルさんに来て欲しいなんて……僕は…………」

 いつもなら、強く振り払うところなのに。それなのに、体に力が入らない。
 その腕に抱きしめられていることが嬉しくて、温かい。この男の体は、ひどく冷たいのに。
 泣きそうだった目から、本当に涙が落ちてきて、僕は、焦った。泣いているところなんて、見られたない。

「は、離してくださいっ……! フュイアルさん! 帰らないんじゃなかったんですか!?」
「明日まで向こうにいなきゃならなかったんだけど……どうしてもトラシュに会いたくて。帰ってきた」
「……帰って…………来ないでください……」

 そんなことを言っているのに、僕の目からは涙が流れて、止まらなくなる。
 フュイアルさんが、珍しくちょっとびっくりして僕の顔を覗き込むのに、僕の涙は止まってくれなかった。

 僕は、僕を抱きしめる腕に、そっと、手を添えた。まだ恐る恐るだったけど、フュイアルさんはもっとびっくりしたみたい。フュイアルさんの、僕を抱きしめる力が少し緩んで、僕は、追い縋るように、ますます強くフュイアルさんの腕を掴んだ。
 さっきまで、あれだけ僕の心はぐちゃぐちゃだったのに、今度は勝手に心が温かくなる。
 いつのまにか、目の前のエイリョーゾのことを忘れていた。

 そんなことをしているから、新手が来てしまう。
 エイリョーゾが、空に向かって手を振ると、別の男が空から降りてきた。仲間らしい。その男も、背中に羽があった。短い髪が赤くて、目も赤くて、背の高い男だった。頭には、大きなフードをかぶっている。

 降りてきた男は、エイリョーゾを睨みつけた。

「何をしているんだ。お前は。作戦は成功したのか?」
「黙れ! チイラント! 作戦は失敗だ! あ、あいつ、おかしいんだ! 人族のくせに、俺の鎖を引きちぎったんだぞ! あの砂も焼いたって言ってる!!」

 エイリョーゾは、僕の方を指差している。自分の鎖をちぎられたからって、僕を変だというのはやめてほしい。普段相手にしているフュイアルさんの魔法と比べたら、あんなの、糸より脆いだけだ。

 新手の男は、喚く彼には見向きもせず、フュイアルさんを睨みつけている。

「お前がフュイアルか……」

 けれど、そんな緊迫した状況にもかかわらず、フュイアルさんは、僕を抱きしめたまま離そうとしない。
 何やってるんだ。自分の命を狙うものが目の前にいるのに、こんなことしてる場合じゃないだろ。

「フュイアルさん! 離してください!! 敵がいるんだら、ちゃんと前見て!」
「いいよ。そんなの。後で殺すから」
「フュイアルさん!!! あ、あいつの仲間は、フュイアルさんを殺す毒を持ってるんです! 真面目に相手してください!」
「俺、真面目なんだけど? 大丈夫だよ。俺は負けないから」
「ふざけないでください!!」

 僕が力の限り、フュイアルさんを振り払うと、フュイアルさんは、恨めしそうな目を僕に向けてくる。

「なんで? もうダメなの?」
「ダメです! い、いつまで抱きついてるんですか!! フュイアルさん、殺されてもいいんですか!!」
「トラシュ、俺の心配してるの?」
「……っ!」

 いつもなら、そんなことあるはずないって、怒鳴りつけてた。それなのに、そうできない。だってさっき、僕はこの男から離れられないと自覚したばかり。
 ニヤニヤ笑うこの男に、からかわれてるって分かってるのに、僕はいつもみたいに怒鳴れない。だって、本当に心配だから。

 僕は、そいつを見上げて、なんとか口を開いた。

「………………ほ、ほんの……少しだけ…………」

 また泣きそう。恥ずかしいのか言いたくないのか、声まで震えている。

 フュイアルさんは、そんな僕を見下ろして、首を傾げてしまう。

「トラシュ……大丈夫? もしかして、魔力使いすぎた? なんなら、俺の魔力で癒そうか?」
「……いりません。なんでそんなことされなきゃならないんですかっ!! ぼ、僕があれ苦手って知ってるくせに!!」
「だって、トラシュが、キモい離せ死ねって言わないから……俺の方が、心配になった」
「……そんな台詞で僕の無事を判断しないでください。死ねよ……」
「よかった。元気だね」
「……」

 相変わらず、僕の話を聞いてない。もう諦めよう。

あなたにおすすめの小説

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

ストーカーから逃げ切ったのも束の間、転移後はヤンデレ騎士団に殺されかけている現実!

由汰のらん
ファンタジー
ストーカーから逃げていたある日、ハルは異世界に召喚されてしまう。 しかし神官によれば、どうやらハルは間違って召喚された模様。さらに王子に盾ついてしまったことがきっかけで、ハルは国外追放されてしまう。さらに連行されている道中、魔族に襲われ、ハルの荷馬車は置き去りに。 そのさなか、黒い閃光を放つ騎士が、ハルに取引を持ちかけてきた。 「貴様の血を差し出せ。さすれば助けてやろう。」 やたら態度のでかい騎士は、なんとダンピールだった。しかしハルの血が特殊だと知ったダンピールはハルを連れ帰って? いっそ美味しい『血』(治癒)と『体液』(バフ)と『癒し』を与えるダンピール騎士団のセラピストを目指します!

平凡な俺が完璧なお兄様に執着されてます

クズねこ
BL
いつもは目も合わせてくれないのにある時だけ異様に甘えてくるお兄様と義理の弟の話。 『次期公爵家当主』『皇太子様の右腕』そんなふうに言われているのは俺の義理のお兄様である。 何をするにも完璧で、なんでも片手間にやってしまうそんなお兄様に執着されるお話。 BLでヤンデレものです。 第13回BL大賞に応募中です。ぜひ、応援よろしくお願いします! 週一 更新予定  ときどきプラスで更新します!

人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます

七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。 歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。 世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。 気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL要素までとても遠いです。前半日常会多め。

被虐趣味のオメガはドSなアルファ様にいじめられたい。

かとらり。
BL
 セシリオ・ド・ジューンはこの国で一番尊いとされる公爵家の末っ子だ。  オメガなのもあり、蝶よ花よと育てられ、何不自由なく育ったセシリオには悩みがあった。  それは……重度の被虐趣味だ。  虐げられたい、手ひどく抱かれたい…そう思うのに、自分の身分が高いのといつのまにかついてしまった高潔なイメージのせいで、被虐心を満たすことができない。  だれか、だれか僕を虐げてくれるドSはいないの…?  そう悩んでいたある日、セシリオは学舎の隅で見つけてしまった。  ご主人様と呼ぶべき、最高のドSを…

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。