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77.動けないのをいいことに
しおりを挟むぐったりして、意識が朦朧とする。僕を縛る鎖を、フュイアルさんは解いてくれた。
周りでは、フュイアルさんを狙った奴らが、さっきのエイリョーゾみたいに、丸められて鎖で縛られて転がっている。
本当に、一瞬だった。床から飛び出してきたフュイアルさんの鎖は、そこにいた奴らを、一瞬で拘束してしまったんだ。
彼らから、魔物を狙う連中の情報を聞き出すためだろう。フュイアルさんは、そいつらを殺しはしなかったけど、ずっとひどい呻き声が聞こえていた。
僕は、もう体に力が入らなくて、ぐったりしていた。魔力を無理に使ったせいだろう。
ぼんやりしている僕の体を、フュイアルさんが癒してくれる。彼は、ひどく辛そうに見えた。
顔をそむけたかったけど、僕の体は自由に動かなくて、喘ぐことしかできない。
「トラシュ……」
僕の名前を呟いたフュイアルさんが、僕の髪に触れている。優しい風が、僕の頬を撫でていった。
さっきフュイアルさんが、魔法で天井を消してしまったので、天井も、その上の階も、すっかりなくなってしまっている。
天井を見上げれば見える空から、二人の男が降りてきた。ヴァルアテアと、オーイレールだ。
空から降りてきたヴァルアテアは、部屋の中の惨状を見て、顔をしかめた。
「フュイアル……なんだこれは……」
「……魔物を狙っている奴らを捕まえた。処分しといて」
軽く言っているが、ヴァルアテアの背後では、部屋の様子を目の当たりにしたオーイレールが、びっくりして声を上げている。
「うわっ……! なんだこれ!! フュイアル! こういうことすんなよな!」
「はーい。あ、後で飯にするから」
「これの後で!? お前大丈夫!?」
「ここにいる奴らだけで全部じゃないだろうし、後でいろいろ吐かせる。適当に選んで、数人連れて来て。俺は先に戻る」
そう言って、フュイアルさんは僕を抱き上げたまま、羽を広げた。
ヴァルアテアとオーイレールも、僕に駆け寄ってきてくれる。
「トラシュ!? 一体、何があった!?」
「トラシューーーー!! 大丈夫か!? フュイアル!! どういうことだよ!! お前がついていながら!!」
驚く二人に、後で話すよ、と言って、フュイアルさんは僕を連れて夜空に飛び上がる。
体ももう動かないし、魔力もない、抵抗する術を全て失った僕は、フュイアルさんの腕の中で、彼に寄りかかっていた。
僕は、動けないまま、フュイアルさんにお姫様抱っこでマンションまで連れてこられた。
リビングの窓を消して部屋に入ったフュイアルさんは、そのまま僕をお風呂場まで連れて行く。僕の着ていたドロドロに汚れた服は、フュイアルさんの魔法で消えて、僕は裸で風呂場まで連れて行かれた。
風呂場がいつもより広くなっている。これも魔法なのか? いつもは普通の湯船だったのに、今は十人くらい一緒に入れそうなくらい広い。
フュイアルさんは、魔法でシャワーを操ると、ぼんやりしている僕の体にお湯をかけてくれた。
「あったかい?」
「うるさい……余計なお世話、やめてください……うっ……!!」
やっぱり、無理をしすぎたらしい。全身がズキズキする。しばらく、魔力なんて使えそうにない。もう僕の体には魔力なんて全く残っていないみたいだ。体すらろくに動かない。
これじゃ、大人しくフュイアルさんに洗われるしかないじゃないか。
ぐったりしている僕を、フュイアルさんは丁寧に洗ってくれる。
フュイアルさん、いつもみたいに襲ってこない。また、僕の回復を待っていてくれてるのかな。
もう、そんなふうにしないでほしい。どうせなら、いつもみたいに僕を押し倒して、縛っていっぱいひどいことをすればいい。そうしたら、僕だって、苦しくなくなるかもしれないのに。
それなのにフュイアルさんは、そうしてくれない。僕の体を丁寧に洗い流して、石鹸をつけてくれた。
ふわふわの泡とあったかいお湯で丁寧に洗われて、なんだか夢心地。そのうち、体を支えていることもできなくなって、後ろに倒れてしまう。そしたら、フュイアルさんの魔法が受け止めてくれて、僕はふわふわ浮かんだまま寝かされて、泡に包まれていく。ますます眠くなりそう。
「トラシュ……しばらくは、動かない方がいいよ。魔力使うのも禁止」
「ふざけんな……やめろっ……!」
って言っても、こいつが止めるはずもない。
僕は、シャワーを浴びせられ、丁寧に髪を洗われていく。
フュイアルさんが僕に触れる手が、いつもよりずっと優しくて、くすぐったい。単に洗われてるだけなのに、石鹸をいっぱいつけた手で、頭も髪も、耳の辺りまで丁寧に触れられて、変にドキドキしてきた。
心臓、いつもより、大きく鳴っている気がする。こんなの、バレたくない。気持ちを悟られないようにしなきゃ。
「や、やめろって……フュイアルさん……」
「いい子にしてないと、媚薬だよ?」
「は!?」
周りを見渡せば、僕を媚薬の魔法が取り囲んでいる。こんなのに触れたら……
怖いし、どのみち体は動かない。じっとしている僕に、フュイアルさんは、肩からシャワーのお湯をかけてきた。
「か、体……洗うくらい、一人でできます……」
「だめ。だいたい、トラシュはもう、動けないだろ?」
「う……」
「あれだけ無茶したんだ。動けるはずがない。魔力だって、もう使えない」
「……っ! …………僕……魔物退治、できます!」
いつかは回復するだろうけど、しばらくは魔力を使えそうにない。当然、魔物の相手だって無理だ。それは、自分でも分かっていた。
だけど、魔力がなくなったら、ここにいられないんじゃないか、そう思ったら、すごく怖かった。
「……魔力くらい、すぐに回復します!」
「何言ってるの。しばらくは、仕事は休んで」
「嫌です!! 行く!!」
「トラシュ…………」
「……ここに……一人で置いてかれるの、嫌だ!!」
叫んだら、涙が出そうだった。
すると、フュイアルさんは、僕ににっこり笑った。
「じゃあ、トラシュはしばらく、俺の秘書ね?」
「…………は?」
「だから、トラシュはしばらく、俺の秘書。ずっと俺のそばにいて、俺の仕事を補佐してくれればいいから」
「な、なんで……僕がそんなことしなきゃならないんですか……」
「俺がトラシュといたいから」
「なんですかそれ!!」
「とにかく、トラシュはしばらく、俺の秘書。俺から離れちゃダメだよ?」
「……死ねよ」
そんな返事をしているのに、嬉しすぎる。ニコニコしていたら、泡の中に手を突っ込んだフュイアルさんが、僕の首のあたりに触れてきた。
「……っ! フュイアルさん!! 何するんですか!!」
「だって、そんな可愛い顔してるから。これ、俺だけ拷問じゃない? こんな可愛いトラシュを前に、いたずらできないなんて」
「ふ、ふざけんなっ……っ!!」
こいつ……僕が動けないのをいいことに!!
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