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83.デートみたいだね
しおりを挟む僕は魔界なんか絶対に行かないって言ったのに、フュイアルさんに無理矢理着替えさせられて、本当にフュイアルさんの秘書として、フュイアルさんが操る巨大な竜に無理矢理乗せられて、境界の街まで連れて行かれた。こんなの誘拐だ。
魔界との境界の街の話は、聞いたことはあるけど、僕は一度も訪れたことがない。そこは、あの砂の中の街より、環境が悪いらしいから。
かつては静かな街だったらしいが、首都からそう離れていないのに、広い川と切り立った谷に囲まれているため、周囲から隔絶された場所になっていて、魔物を違法に売り買いする連中のアジトにされていたんだ。
だけどある日、そこから強化された魔物が逃げ出してしまった。不完全な魔法をかけられたそれの体は、すぐに崩壊して、街を破壊してしまったらしい。
けれど、魔界と首都から人が派遣されて、盗賊たちを一掃し、そこの環境も、最近では少しはマシになって来たようだ。
それなのに、今度は首都から派遣された官吏が、魔物の横流しを始めた。今回それがやっと拘束されたので、その処分を決めるため、魔界からの代表として呼ばれたのが、フュイアルさんらしい。ヴァルアテアが、フュイアルが自分で志願したって言っていた。
その街についた僕は、聞いていた話と随分違うことに驚いた。少し整備されたとはいえ、あの砂の中の街とあまり変わらないだろうと思っていたのに、深い谷に木々が生い茂り、川には清流が流れ、空は澄み渡っている。魔物や砂嵐の気配なんてない、まるで高原のリゾートだ。
ここまで回復させた街で、再び横流しが行われたなんてなれば、首都側の怒りも相当なものだっただろう。
僕らは、こじんまりした民家や、可愛らしい店が並ぶ大通りを、街からは少し離れた城を目指して歩いた。
魔物からの襲撃に耐えるため、魔法をかけられた石材で作られた森の中の古城は、その美しさから一部は観光名所として使われているらしいが、立ち入り禁止の奥に入れば、武装した魔族や魔法使いが警戒にあたる物々しい戦闘の拠点になっているようだ。
「そんなところ観光して、大丈夫なんですか?」
歩きながら僕がたずねると、フュイアルさんは、僕に振り向いて、微笑んだ。
「ここに来るのは、ほとんどが討伐隊志望の奴らだから。魔物が出ても、自分でなんとかするのが基本になっているらしいよ」
どうりで、観光客のわりにみんな武装していると思った。美しい森の中の小さな街に見えるのに、結構物々しい雰囲気なのはそのせいか。
フュイアルさんは、迷わないようにって言って、僕の手を握って城に向かって歩いて行く。この街についたときから、ずっとこうだ。ぎゅっと手を握って離してくれない。
「あの……フュイアルさん……」
「どうしたの? トラシュ」
「……そろそろ、離してください」
「何を?」
「手です! なんでずっと繋いでるんですか!?」
「繋いでおけばいいだろ?」
「……繋ぎたくないです……」
「繋ぐ。トラシュがナンパされたら困るから」
「…………されません。離せよ……」
離せって言ってもフュイアルは全く聞いてくれない。フュイアルさんって、一体どこまで本気なんだろう……
見上げながら歩いていたら、フュイアルさんは、僕に振り向いて、微笑んだ。
「デートみたいだね」
「は!? 馬鹿だろ……キモ……死ねよ……」
そんなこと言いながら、僕もそう思ってた。二人で歩いて、デートみたいだって。
だけど、そんなこと言われたら、ますます意識してしまう。
何考えているんだ、僕。ちゃんと悟られないようにしなきゃいけないのに。これまでだって、フュイアルさんと二人きりだったこと、よくあったのに。
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