誰より重くて愛がないと言われる僕の後ろには、いつも監禁趣味のあいつがいる

迷路を跳ぶ狐

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84.回復した後は?

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 俯く僕とは対照的に、フュイアルさんは楽しそう。

「なんだか、最近のトラシュはますます可愛くなった」
「はあ!?」
「そんな風に、可愛く怒った顔をするようになった。何かあった?」
「何かって……ない!! あるわけないだろ!! キモいんだよ死ねっっ!! ゲス魔族!!」
「えー。さっきまで可愛かったのに、急に怒ってどうしたの? なんだか顔、赤いよ?」
「……うるさい……どんな顔してようが、僕の勝手だろ! 死ねよ……僕は…………お前なんかっ…………!」

 僕は嫌いですって、ちょっと前までなら言えたのに。
 見上げたら、目があったら、好きだって言いたくなる。

 フュイアルさんは「そんなに怒らないでー」なんて言って、僕に背を向けて、どんどん歩いていってしまう。

 手は、繋いでいる。僕とフュイアルさんの距離はほとんどない。
 だけど僕はだんだん、フュイアルさんの後ろ姿を見ていられなくなる。

 フュイアルさんって、いつまで僕と手をつないでいてくれるんだろう。いつ離すんだ? 城に着いたら、手は離すのか?

 そんな風にして、僕とフュイアルさんの距離だって、いつか開く。いつか、フュイアルさんは振り向かなくなる。いつかきっと、この背中は、僕の目の前から消える。
 だって、僕は何度も、大好きだった背中が消えるところを見た。僕の束の間の快楽は、いつだってすぐに消えてきたんだ。

 そう思ったら、僕はフュイアルさんの手を握り返して、強く引き留めていた。

 突然僕に強く腕を引かれて、フュイアルさんが僕に振り向く。

「トラシュ……?」
「…………」
「どうしたの? トラシュ……」
「……………………あの…………し、城に行く前に、少し……ランチして……行きませんか?」

 勇気を振り絞って出した声は震えていた。

 バレたらダメなのに、長くいたらバレるかもしれないのに、それでもそばにいたい。

 するとフュイアルさんは、道路わきのカフェに、僕を無理矢理引っ張っていく。

「ち、ちょっ……フュイアルさん!?」
「もうすぐお昼だよ。お昼ご飯食べてから行こう」
「………………そんなにのんびりしてて、大丈夫なんですか?」

 何言ってるんだ、僕。自分で誘ったくせに。
 誘った直後に怖気付くなんて。

 だってもう、隠せる気がしない。

 僕は、この人が好きだ。多分もう、引き返すことも隠すこともできないくらい。

「トラシュ、ハンバーガーでいい?」
「……前から言おうと思ってたんですけど、僕はファーストフードが好きなんじゃありません。あれは片手で持って、好きな人を観察できるから好きなんです」
「うん。知ってる。だけどそれ、ファーストフードじゃなくてもできるだろ? パンケーキでも、できてたじゃないか」
「…………え?」

 びっくりして、その場に立ち止まってしまう。

 パンケーキ? それって、僕がフュイアルさんを待っている時に食べた、あれ?

 なんでそんなこと知ってるんだ? だって、あの時フュイアルさん、いなかったのに。

「な、なんで……」

 戦いて聞く僕に、フュイアルさんは、振り向いてにっこりと微笑んだ。

「パンケーキのこと? だって、見てたから」

 フュイアルさんは、僕に写真を見せてくる。そこには、パンケーキ片手にフュイアルさんを魔法で覗き見する僕の姿が写っていた。

 即座にそれを奪い取って焼き尽くす。

「なっ……なんだよこれ! 覗き見してたな!!」
「それ、トラシュが言う?」
「…………だ、だって……」
「俺のパンケーキ、美味しかった? せっかく夜のリクエストを聞いたのに、ぐちゃぐちゃにするなんてひどいなー」
「何がリクエストだ!! あんなのどっちもやだっ……!! なにやってるんだよ! 見てたなら見てたって言えばいいだろ!!!!」
「だって、俺のこと寂しそうに見上げてるトラシュがあまりに可愛くて……俺が見てること知ったら、あんな顔してくれないだろ?」

 そう言って、フュイアルさんは魔法で取り出したアルバムを見せてくる。

 そこにはずらーーっと、僕がフュイアルさんを魔法で覗いている写真が並んでいた。どれだけページをめくっても、僕の写真ばっかり。

 即座に焼き尽くす。アルバムは秒で灰になるのに、一緒に炎で包んだはずのフュイアルさんだけ燃えない。

「フュイアルさんって、どうやったら燃えるんですか!?」
「俺を焼くのはトラシュじゃ無理だよ。そんなに俺がいなくて寂しかった?」
「さ、寂しくなんかありません! フュイアルさんの居場所がわからないと、僕の命に関わるから……え、エイリョーゾのことだって、気づいてたんだな!」
「うん。相手の正体知りたくて、しばらく監視してたけど…………帰るのが遅れてごめんね」
「むしろ帰ってこないでください!! ぜ、全部知ってて……ぼ、僕を笑ってたんだな!」
「トラシュのこと、笑うわけないだろ? 俺にあんな真似ができるんだし、トラシュはもう少し、自信持てばいいよ。俺の用意した物一瞬で焼き尽くすの、トラシュくらいだよ?」
「馬鹿にしてるんですか? フュイアルさんは焼けないのに」
「俺と比べたら、トラシュが可哀想だろ」
「やっぱり馬鹿にしてるんじゃないか!!」
「してないしてない。それより、魔力、戻ったね」
「は!?」
「さっき、炎で俺のアルバム焼いただろ? 魔力が戻った証拠だ」
「あ……」

 そうか……魔力が戻ってなかったら、あんなこと、できるはずない。

 両手を見下ろし魔法を使うと、手のひらから魔法の炎が上がる。やった……魔法が戻ったんだ!!

「あっ…………」

 ありがとうございますって言おうとして、顔を上げて、フュイアルさんと目があって。

 そこで、僕は言葉を続けられなくなる。

 フュイアルさんの、僕を見下ろす目に、残酷な情欲が見えたから。

 僕は、こういう目をしたフュイアルさんを何度も見てきた。僕を無理矢理服従させてきた男の目だ。

 そうだ。

 フュイアルさんは、僕の体が回復するまで襲わないと言ってくれた。じゃあ、回復した後は?

「ふ、フュイアルさん……これは仕事って、自分で言ってましたよね? 僕は……ただの秘書なんだから……」

 だから繋いでいる手を離そうとしたのに、フュイアルさんは僕の肩を抱いて、僕を引き寄せる。さっきよりずっと体が密着してしまって、抵抗しようとしたら、今度は腕まで掴まれた。
 そのままフュイアルさんは、僕の耳元に唇を近づけてくる。

「……トラシュはさあ…………自分がただの秘書で済むと思ってる?」
「え…………?」

 思ってるに決まってる。
 だって、僕はフュイアルさんの、なんでもない。無理矢理ここに連れてこられただけだ。

 それなのにフュイアルさんは、僕の肩に置いていた手を、僕の頬に添えて、体を近づけてくる。

 背後から、フュイアルさんに包まれているみたいで、早くなっていく心臓の音が、フュイアルさんに伝わってしまいそう。僕はずっと、俯いたまま耐えていた。
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