89 / 106
89.嫌がらせ
僕とフュイアルさんは、ウィウントに連れられて、城の地下まで来た。そこにあった大きな扉の前で、十数人が僕らを待っている。何人かは、魔物の討伐隊のようだ。
そして、彼らと一緒にいる数人のうち、背中に竜の羽がある男と、数人の妖精族のことは、僕でも知っている。首都とその周辺の街を統治する竜王と妖精族だ。
もう一人は、黒い真珠のような生地のマントを身につけた背の高い男で、背後に二人の男を従えている。ウィウントが、魔族の王だって教えてくれた。
魔族の王だったら、フュイアルさんが仕える人ってことなんだろうけど、フュイアルさんは、微笑んで近づいてくる王に、恐ろしく冷淡な目を向けて口を開いた。
「こんなところまで付き纏って、嫌がらせか? 絞め殺すぞ」
王であるはずの人に、そんな口をきいて、周りのみんなが驚いている。僕もびっくりした。フュイアルさんって、いつでもこうなんだ……
それは魔族の王も知っているようで、怒り出すことはなく、少し困った顔をしたくらいだった。
「フュイアル……そう言うな……この前引き止めたことを怒っているのか? ひどいのは、急に帰ったお前の方ではないか。魔界の城の窓も、お前の魔法のせいで吹き飛んだままだ」
「ひどい? 俺が? あれのせいで、トラシュが危険な目にあってる時に到着が遅れたのに?」
フュイアルさんがそう言うと、床から鎖が湧いてくる。それはあっさりと、そこにいた魔族の王を縛り上げた。
倒れる王に、その背後にいた護衛とウィウントがすぐに駆け寄る。護衛たちは鎖を切ろうと魔法をかけているけど、フュイアルさんの鎖はそう簡単には切れない。いきなりフュイアルさんがそんなことをして、みんな大騒ぎだ。
ウィウントは大慌てで、フュイアルさんを怒鳴りつける。
「フュイアル!! やめろ!! 今すぐ鎖を解け!!」
「ちっとも頼んでおいたことを終わらせないくせに、俺にだけ盗賊の捕縛押し付けた挙句、いつまでも城に足止めしたんだ。悪いのはそっち」
「フュイアル!!!!」
ウィウントが怒ってる。
フュイアルさんは腕を組んでそっぽを向いているけど、相手は魔族の王。絶対そんなことしていい相手じゃないはずってことは、僕にも分かる。
フュイアルさんって、いつでもどこでも嗜虐的なんだな……
魔族の王は、床に転がったまま、フュイアルさんに叫んだ。
「フュイアル! 落ち着いてくれ!! あの時引き止めたのは、ここ最近、強化された魔物が暴れているからでっ……!」
「横流しに協力した連中をいつまでも放っておいた方が悪いんじゃない?」
「しかしっ……高官の息子だったんだ! そう簡単にはっ……と、とにかく落ち着いてくれっ!!」
「とりあえず、お前失脚させるための嘆願書書いたから」
そう言ってフュイアルさんが出したのは、一枚の書類。それには、こいつ殺しましょうとだけ書かれている。
僕は、それを取り上げて、焼き尽くした。
それから、王を縛る鎖を焼き切った。僕を縛る時の鎖に比べて、やけに脆い。
フュイアルさん、僕のときだけ、ずっと強固な鎖で縛ってたな……変態め。どれだけ僕を嬲りたいんだ。
僕は、フュイアルさんを見上げた。
「こういうの、よくないです。あと、僕に会いたかったって理由、やめてください。そんなこと言うから、ウィウントみたいに誤解する人が増えるんです。それと、偽造婚姻届はどこですか?」
「ここ」
フュイアルさんが魔法で出した書類を、僕はフュイアルさんごと全部焼いた。
書類は燃え尽きたのに、やっぱりフュイアルさんだけ燃えない。なんでいつもこの人だけ不燃物なんだよ。
とりあえず、書類だけでも焼き払った僕は、床で倒れている魔族の王に手を貸した。
「大丈夫ですか?」
「…………今、どうやったんだ……?」
「え?」
「なぜフュイアルの用意したものが焼けるんだ? 鎖も焼き切っただろう……君は一体何者だ?」
驚くその人に、僕は答えようとしたけど、隣のフュイアルさんに抱き寄せられてしまう。
「トラシュは俺の伴侶です」
「違います」
あなたにおすすめの小説
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
ストーカーから逃げ切ったのも束の間、転移後はヤンデレ騎士団に殺されかけている現実!
由汰のらん
ファンタジー
ストーカーから逃げていたある日、ハルは異世界に召喚されてしまう。
しかし神官によれば、どうやらハルは間違って召喚された模様。さらに王子に盾ついてしまったことがきっかけで、ハルは国外追放されてしまう。さらに連行されている道中、魔族に襲われ、ハルの荷馬車は置き去りに。
そのさなか、黒い閃光を放つ騎士が、ハルに取引を持ちかけてきた。
「貴様の血を差し出せ。さすれば助けてやろう。」
やたら態度のでかい騎士は、なんとダンピールだった。しかしハルの血が特殊だと知ったダンピールはハルを連れ帰って?
いっそ美味しい『血』(治癒)と『体液』(バフ)と『癒し』を与えるダンピール騎士団のセラピストを目指します!
平凡な俺が完璧なお兄様に執着されてます
クズねこ
BL
いつもは目も合わせてくれないのにある時だけ異様に甘えてくるお兄様と義理の弟の話。
『次期公爵家当主』『皇太子様の右腕』そんなふうに言われているのは俺の義理のお兄様である。
何をするにも完璧で、なんでも片手間にやってしまうそんなお兄様に執着されるお話。
BLでヤンデレものです。
第13回BL大賞に応募中です。ぜひ、応援よろしくお願いします!
週一 更新予定
ときどきプラスで更新します!
人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます
七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。
歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。
世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。
気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL要素までとても遠いです。前半日常会多め。
弟がガチ勢すぎて愛が重い~魔王の座をささげられたんだけど、どうしたらいい?~
マツヲ。
BL
久しぶりに会った弟は、現魔王の長兄への謀反を企てた張本人だった。
王家を恨む弟の気持ちを知る主人公は死を覚悟するものの、なぜかその弟は王の座を捧げてきて……。
というヤンデレ弟×良識派の兄の話が読みたくて書いたものです。
この先はきっと弟にめっちゃ執着されて、おいしく食われるにちがいない。
被虐趣味のオメガはドSなアルファ様にいじめられたい。
かとらり。
BL
セシリオ・ド・ジューンはこの国で一番尊いとされる公爵家の末っ子だ。
オメガなのもあり、蝶よ花よと育てられ、何不自由なく育ったセシリオには悩みがあった。
それは……重度の被虐趣味だ。
虐げられたい、手ひどく抱かれたい…そう思うのに、自分の身分が高いのといつのまにかついてしまった高潔なイメージのせいで、被虐心を満たすことができない。
だれか、だれか僕を虐げてくれるドSはいないの…?
そう悩んでいたある日、セシリオは学舎の隅で見つけてしまった。
ご主人様と呼ぶべき、最高のドSを…