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90.知らない
即座に否定するけど、フュイアルさんは聞いてないし、陛下も「伴侶だと!?」って、驚いている。フュイアルさんの言うことなんか、信じちゃダメだ。それなのに、もうこのまま無理矢理結婚させられそうな勢いだ。僕は絶対に嫌だぞ。
だけど魔族の王は、僕に微笑んで言った。
「そうか……フュイアルの伴侶か……めでたいことだ。是非、魔界に顔を出してくれ」
「出さないし伴侶じゃないし結婚も婚約もしてないし恋人でもありません! お願いですから、そこだけは誤解しないでください!! 誰がこんな奴とっ……!!」
すぐに否定しても、やっぱり誰も聞いてない。今度は、竜王が言った。
「トラシュ、魔界より首都に来てほしい。首都でも魔物が増えて、困っているんだ。フュイアルと式を挙げたら、ぜひ首都に顔を出してくれ」
一緒にいた妖精たちも頷いているけど、今度は「トラシュはフュイアルと来てもらう」って言う魔族の王と睨み合いになっている。
いつのまにか、僕がどこかに行く話になっている。僕はあの砂漠の街から出て行くつもりはないのに。だって、あそこには、フュイアルさんがいる。フュイアルさんのそばにいたいのに。だけど結婚はしないし伴侶でも恋人でもない。
フュイアルさんは、僕を勝手に抱き寄せて、全員に向かって言った。
「トラシュは俺といるんです。俺はトラシュを離す気はないので、そのつもりでいてください」
フュイアルさんが冷淡な笑顔で言うと、そこにいたみんなが黙ってしまう。フュイアルさんに睨まれて、何か言える人なんて、いるはずないんだ。
静かになって満足したのか、フュイアルさんは、僕の肩を抱いたまま、微笑んだ。
「じゃあ、行こうか。トラシュ」
「どこにですか?」
「新婚旅行」
「死ね」
何言ってるんだ、この人。僕、結婚するなんて言ってない。婚姻届も全部焼いたはずなのに、ふざけんなよ。まさか、まだ持ってるんじゃないよな……
すっかり本題から離れた僕たちに、ウィウントが、とにかくこっちを先にお願いしますと言って、扉を開いた。
ウィウントが重そうな鉄の扉を開くと、扉の向こうは地下牢だった。
ウィウントに案内され、奥まで進むと、大きな牢があって、中に数人の人が入れられていた。僕らの足音に気づいて、中の奴らが振り返り、そのうちの一人が、僕を指差して叫ぶ。
「お前っ…………お前がトラシュか!?」
「…………っ!」
びくっと、体が震える。
怯える僕を、フュイアルさんが抱きしめてくれた。
見上げたフュイアルさんは、いつもと全く変わらない。その顔を見上げて、フュイアルさんの冷たい体に包まれていたら、気持ちも落ち着く。
振り向いて、牢の中の男と顔を合わせるけど、誰なのかは分からなかった。
「誰……? 僕を知っているの?」
「……人族の魔法使いだろう!! 誰でも知っている! お前が……トラシュ…………」
そんなこと言われても困るんだけど……僕、知らないのに……
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