誰より重くて愛がないと言われる僕の後ろには、いつも監禁趣味のあいつがいる

迷路を跳ぶ狐

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91.時間稼ぎ

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 ウィウントが、僕に振り向いて説明してくれた。

「幾つもある一味のうちの一人だ。奴隷を集めて、魔物の捕獲とその相手をさせていたらしい。トラシュのことを知っているようなんだが……覚えていないか?」
「…………」
「……君のことは、フュイアルから聞いている」
「え……?」
「君のことを責めるつもりはない。話してくれないか?」
「僕、地下で魔物としか顔を合わせてないし……乱暴された時のことは…………」

 俯く僕を庇うように、フュイアルさんが抱き寄せてくれた。
 僕の気持ちを汲んでくれたのか、ウィウントは、首を横に振る。

「すまない。無神経な話をしてしまった。奴らの処分のことなのだが、フュイアル、本当にお前に頼んでいいのか?」
「もちろん」

 それを聞いて、牢の中の奴等のうちの一人が悲鳴をあげた。

「ま、待ってくれっ……! お、俺たちは……」

 そいつに振り向いて、フュイアルさんは不気味に笑う。

「俺のトラシュを傷つけて、俺の仲間を傷つけて、人を物のように利用して、それで、自分だけ助けてくれ、はないんじゃない?」

 そう言ったフュイアルさんの言葉で、その男は震え上がった。腰を抜かしたのか、尻餅をついてしまう。

 男は今度は、僕に振り向いた。

「トラシュ!! そいつをなんとかしろっっ!!」
「え…………?」
「お前を飼ってやった恩を忘れたのか!? そいつを止めるんだ!! 奴隷がっ……!!」

 喚くそいつに、僕は何も言えなくて、今度はその男の隣にいた人が、ウィウントに向かって声を張り上げた。

「そいつだって、俺たちといたんだ! 俺たちに手を貸したんだ!! 俺たちの奴隷として、時に尻の穴で魔物の相手をしてたんだ!! 全部そいつが……!!」

 話していた途中のそいつの体が、何かに殴り飛ばされたように吹っ飛ぶ。フュイアルさんの魔法だ。容赦のない一撃を受けた男は、牢の壁にめり込んで動かなくなった。
 普通なら、確実に死んでいただろう。だけどそいつは、まだピクピク動いてる。フュイアルさんの仕業だ。こうやってこの人は、人から死ぬことすら奪い去って拷問する。

 牢の中に残った他の奴らたちは、吹き飛ばされた一人の惨状を見て、震え上がっていた。

「全部知ってるよ。俺がトラシュのことで、知らないことなんて、あると思うの?」

 フュイアルさんの質問に、もう、誰も何も言わなかった。
 フュイアルさんは、僕の肩を叩いて、とりあえず戻ろうかって囁いた。

「……戻るんですか?」
「うん。行こう。トラシュのことは、俺がいい子いい子してあげるから」
「……いりません」

 僕は、フュイアルさんと手を繋いだ。

 牢の中の奴らは、チラチラ天井を見上げたりしていて、落ち着かない。中には、魔法を使おうとしている奴もいるけど、うまくいっていないようだ。檻の中に、魔法を封じる結界でも張られているんだろう。
 その様子が気になったけど、僕はあまり、ここにはいたくなかった。

 握った手が、やけに震えている。早く外に出たい。怯える僕の手を、フュイアルさんが引いてくれた。

 だけど背後から、僕を怒鳴りつける声がする。最初に僕を指差した、あの男だ。

「トラシュっっ……! こ、この恩知らずっ!! その魔族に調教されたのか!? 今度はその魔族にケツの穴で奉仕して飼ってもらっているのか!? 薄汚い魔族の奴隷がっ……!! 恥を知れっ!!」

 僕は、そいつに振り向いた。

 喚いた男は、僕が立ち止まって振り向いたことで、勝ち誇ったような気色悪い笑みを浮かべて、さらに喚いた。

「……醜い性奴隷がっ……! その魔族に媚を売って買ってもらったか!? どうやってそいつを満足させているんだ!? 話してみろ!!」

 今、なんて言ったんだ?

 僕が、フュイアルさんに、尻の穴で奉仕してるって?
 フュイアルさんが、僕を奴隷にして飼ってるって言うのか? 

 なんでフュイアルさんがそんなことするんだ。だってこの人はずっと、僕のそばにいたのに。

 それなのに、フュイアルさんが僕を性奴隷にしてるって言うのか? ずっと、僕のために我慢してくれたのに? 僕の体を癒してくれたのに? 僕のことを守ってくれたのに?

 なんだそれ……

 立ち止まっていたら、天井から軋むような音がして、そこに大きな亀裂が入る。同時に、何かの鳴き声のようなものも聞こえた。

 それを聞いて、牢の中の面々が歓声を上げている。どうやら、そいつらの助けになるものが来たらしい。

 僕を怒鳴りつけた男は、笑っていた。

「は、はは……馬鹿がっ……! お前たち全員終わりだっ……!! 俺たちが何も考えずに男娼相手に話をしてやったと思うのか!? 気色悪い性奴隷が!!! 調子に乗るなっ!! 時間稼ぎに決まっているだろうっ!!」

 その怒鳴り声と共に、天井に大きなヒビが入る。それは一気に天井全体に広がって、天井の破片が落ちてきた。
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