92 / 106
92.最初から
しおりを挟む魔物対策用に強化されたはずの天井を突き破り、巨大な魔物が顔を出す。頭が蜘蛛のようになった、蝙蝠の羽を持つ魔物だ。牙を剥き出しにして、よだれのような黒い液体を垂らしている。それは床に落ちるなり、じゅっと、焼けるような音を立て、その場にあるものを砂のようなものに変えてしまう。魔物で汚染された魔力を含んでいるんだろう。普通にいるものとは違う。強化された魔物だ。牢の中の奴らの口ぶりから言って、奴らの援軍だろう。僕らを相手に話していたのも、やけに天井を気にしていたのも、これを待っていたからだ。
周りでは、僕らと一緒にいたウィウントや討伐隊が魔法を放っているが、魔物にはまるで効いていない。魔物の魔力の方が優っているんだ。
誰かが竜王と魔族の王に避難するように言って、彼らを守る護衛たちが、王を連れて行こうとしている。
だけど、あの魔物は魔物対策のために強化された城の天井を易々と突き破っている。逃げたところで、あの魔物を倒さなくては、どこにいても危険だろう。
彼らもまさか、魔物対策の拠点とされていた城が、こうも簡単に壊されるとは思っていなかったらしい。突然の強化された魔物の襲来に、誰もがパニックに陥ってる。
そうでないのは、僕を見下ろして、いつもみたいににっこり微笑むフュイアルさんだけ。
僕は、牢の中で魔物に殺せと指示を出す奴らを睨みつけた。
魔物は彼らの言うことを聞いて、僕らに向かってくる。
僕は、全身の魔力を呼び起こした。
散々フュイアルさんにイタズラみたいに魔力を押し込まれていたからだろうか。焼け付くような魔力はすぐに集まり、烈火となって、魔物を焼いた。
一度ついた火は一気に燃え上がり、そこにいた魔物は、天井もその上にあった城の上の階も巻き込んで突き抜けていく。
魔物はあっさり焼き尽くされ、灰になって夜空に飛んでいった。
魔物を従えて胸を張っていた男たちは、切り札が燃えてしまい、顔色を変えていた。中には涙を流して腰を抜かす奴までいた。
僕……なんで怯えていたんだ。最初から、こうすればよかったんだ。
「…………僕の好きな人を侮辱して……ただで済むと思うなよ……」
感情だけで、魔力が焼ける。まだ消えない炎は、僕に従って僕の周りで燃え上がっていた。
すでに、魔物は燃え尽きた。だけどまだ、僕の大事な人を貶した男たちはそのままそこにいる。
そいつらに向かって歩き出した僕を、数人が止めてきた。ウィウントと、王を守る護衛たちだ。
ウィウントは、僕を羽交締めにしながら叫んだ。
「と、トラシュっ……! やめろっ……! 落ち着いてくれ!! これ以上やったら、城が壊れる!!」
彼はそう言うけど、こんなの、我慢できない。僕の大事な人は、僕のために我慢してくれたのに、それを侮辱するなんて。
僕は、ウィウントを振り払おうとするけど、彼は今度は、フュイアルさんの方に向かって叫んだ。
「フュイアル!! おい!! トラシュをなんとかしろ!!」
怒鳴られても、フュイアルさんは、その場で固まったまま。ウィウントや、他の誰かが声をかけても、微動だにしない。
どうしたんだ?
フュイアルさんの顔を見たら、少し冷静になれて、僕は立ち止まった。
だけどすぐに、大事なことに気づいた。
さっき僕、好きな人って言ってしまったんだ。
ど、どうしよう……フュイアルさん、聞こえてたのかな!?
ウィウントがフュイアルさんを大声で呼んで肩を揺さぶると、フュイアルさんは、やっと目を覚ましたかのように、ウィウントに振り向いた。
「あ…………ああ……ウィウント……何?」
「なに!? なに? だと!? 正気かおいっ!! しっかりしろ!! 城が溶けかけているんだぞ!!」
「城……? ああ……うん…………そうだね……」
「そうだね!???」
「あ、後で直すよ……うちの所員がごめん……」
「ごめん!??」
「……なんでごめんで驚くの?」
「今のが一番驚いた……お前が謝るなんて……大丈夫か? 頭を打ったか? それとも立ったまま寝ぼけているのか?」
「……どれでもない。とにかく、城なら後で直すよ」
「今直せ」
「……あぁ……うん……そうだね……」
言って、フュイアルさんが魔法をかけると、その場に転がっていた瓦礫が浮き上がり、天井から上の階を貫いて星空まで届いた大穴から吹き飛んでいった瓦礫が戻ってくる。貫かれた穴を埋めるようにそれらが重なり、城を修復していく。あっという間に穴は塞がり、何事もなかったかのように、城は元に戻った。
誰もが驚きながらも、ほっとしたような表情を浮かべ、牢の中の奴らだけが、腰を抜かして震えていた。
フュイアルさんは、僕に近づいてくる。そして、僕の頭を撫でて「トラシュ、やりすぎ」って言って、僕から顔を背けた。そして代わりにウィウントたちに振り向く。
「じゃあ、ここの処分は後で俺がするから」
「ああ……そ、そうだな……お前、本当に大丈夫か?」
「うん……」
答えながらも、フュイアルさんはどこか上の空。僕の肩を抱いて、扉の方に向かう。
ウィウントと王とその護衛たちもついてきて、牢の中の連中を残し、僕らは外に出た。
牢の外に出たら、思い出した。僕の名前を呼んだの、僕を売った家族だ。きっと、一緒にいたのは、僕を買った奴らだったんだろう。
牢の扉が閉まると、微かに背後から音がする。何があったのか振り向こうとしても、フュイアルさんが、僕の肩を強く抱いて、振り向くことすら許さずに連れて行ってしまう。
初めて彼らにほんの少し同情した。だって、「好きにしていい」なんて条件で、フュイアルさんに引き渡されたんだから。
60
あなたにおすすめの小説
【完結】弟を幸せにする唯一のルートを探すため、兄は何度も『やり直す』
バナナ男さん
BL
優秀な騎士の家系である伯爵家の【クレパス家】に生まれた<グレイ>は、容姿、実力、共に恵まれず、常に平均以上が取れない事から両親に冷たく扱われて育った。 そんなある日、父が気まぐれに手を出した娼婦が生んだ子供、腹違いの弟<ルーカス>が家にやってくる。 その生まれから弟は自分以上に両親にも使用人達にも冷たく扱われ、グレイは初めて『褒められる』という行為を知る。 それに恐怖を感じつつ、グレイはルーカスに接触を試みるも「金に困った事がないお坊ちゃんが!」と手酷く拒絶されてしまい……。 最初ツンツン、のちヤンデレ執着に変化する美形の弟✕平凡な兄です。兄弟、ヤンデレなので、地雷の方はご注意下さいm(__)m
平凡な俺が完璧なお兄様に執着されてます
クズねこ
BL
いつもは目も合わせてくれないのにある時だけ異様に甘えてくるお兄様と義理の弟の話。
『次期公爵家当主』『皇太子様の右腕』そんなふうに言われているのは俺の義理のお兄様である。
何をするにも完璧で、なんでも片手間にやってしまうそんなお兄様に執着されるお話。
BLでヤンデレものです。
第13回BL大賞に応募中です。ぜひ、応援よろしくお願いします!
週一 更新予定
ときどきプラスで更新します!
ヤリチン伯爵令息は年下わんこに囚われ首輪をつけられる
桃瀬さら
BL
「僕のモノになってください」
首輪を持った少年はレオンに首輪をつけた。
レオンは人に誇れるような人生を送ってはこなかった。だからといって、誰かに狙われるようないわれもない。
ストーカーに悩まされていたレある日、ローブを着た不審な人物に出会う。
逃げるローブの人物を追いかけていると、レオンは気絶させられ誘拐されてしまう。
マルセルと名乗った少年はレオンを閉じ込め、痛めつけるでもなくただ日々を過ごすだけ。
そんな毎日にいつしかレオンは安らぎを覚え、純粋なマルセルに毒されていく。
近づいては離れる猫のようなマルセル×囚われるレオン
普通の男の子がヤンデレや変態に愛されるだけの短編集、はじめました。
山田ハメ太郎
BL
タイトル通りです。
お話ごとに章分けしており、ひとつの章が大体1万文字以下のショート詰め合わせです。
サクッと読めますので、お好きなお話からどうぞ。
【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった
cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。
一途なシオンと、皇帝のお話。
※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。
人気俳優に拾われてペットにされた件
米山のら
BL
地味で平凡な社畜、オレ――三池豆太郎。
そんなオレを拾ったのは、超絶人気俳優・白瀬洸だった。
「ミケ」って呼ばれて、なぜか猫扱いされて、執着されて。
「ミケにはそろそろ“躾”が必要かな」――洸の優しい笑顔の裏には、底なしの狂気が潜んでいた。
これは、オレが洸の変態的な愛情と執着に、容赦なく絡め取られて、逃げ道を失っていく話。
月弥総合病院
御月様(旧名 僕君☽☽︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる