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26.できません!
しおりを挟む私が頑なに断ったせいか、閣下は黙り込んでしまう。
どうしよう……無礼だったかしら……けれど、私の塔まで共に行くわけにはいかない。
だって私、着替えなんてほとんど持っていない。
いえ。正確に言えばあるけれど、着れる状態ではない。魔物を追い払った時や、それが城に寄り付かないように魔法をかけている最中に傷んでしまっているから。
魔法で修理するにしても、私の魔力ではかなり時間がかかってしまう。
閣下にそんなところを見られるわけにはいかない。あの塔は、私の虚勢を作るための場所なんだから。
「そ、そういうわけですから……私、すぐに着替えて参りますので……」
「着替えには行かなくていい。これから、俺たちと共に竜を探すのだろう? 陛下に仕える魔法使いとして、このローブを身につけるといい」
閣下は私に、美しいローブを差し出した。それは王家に認められた魔法使いが身につけるもので、身を守り、魔力を高めるため、幾人もの精霊族や竜族が織り上げた、特別なものだ。
「なりません!!」
大きな声を上げて後ずさる私を見て、閣下は首を傾げてしまう。
「リリヴァリルフィラン?」
「そ、それは、王家に仕える魔法使いの証ではありませんか!! そのようなものを、魔力もろくにない私が受け取るわけには参りません!!」
「……そんなに重要なものじゃない。陛下は、気に入った奴になら割と簡単に渡す。公の場では畏まっているが、一歩その場を離れれば、陛下はそんな風だ。王家のローブを身につけずに初対面の者に会うと、誰も国王とは気づかないくらいだ」
「だ、誰も!??」
「ああ。それに、これをリリヴァリルフィランに渡すことには、陛下も納得しておられる」
「そんなまさかっ……!」
「あの竜を探すのなら、危険に備えた方がいい。多少のことがあっても、身を守れるように」
「……竜を探すことが、そんなに危険なことなのですか?」
「ああ……」
「…………ですが……」
「竜を探すために俺たちと行動を共にするのだろう?」
「……は、はい……」
「それなら、装備を整えるべきだ。俺が護衛に着く」
「へっっ!?? ご、護衛!??」
「……嫌か?」
「い……いやって……」
「俺が護衛につくのは。そんなに……嫌か?」
「と、とと、とんでもございません!! 閣下に、そんなことをしていただくわけには参りません!!」
「俺がしたいだけだ」
「でも……」
悩む私に、閣下はさらに近づいてくる。
私は思わず、一歩後ずさった。
「俺の言うことには従うのではなかったのか?」
「それはっ……」
「……やはり、俺が護衛につくのは嫌か?」
「違いますっ……!」
……って、何を否定しているの! 私は。
陛下の使者としていらした方に、そんなことをしていただくわけにはいかないのに。
けれど、私の前の閣下は、眉を垂れて俯きがち。そんな風に哀願するような目で見られると……
嫌だとは言えない。
「で、では、閣下…………お願いいたします……」
「よかった……では、これにもすぐに着替えるといい。上の部屋へ戻ろう」
「へ!!?? そ、それは……ちょっと……」
「……だめか?」
「ダメではありません!」
けれど、そう言われましても……それは、閣下が使っているお部屋で着替えてくれとおっしゃっているのですか!?? まさか、閣下の前で!? それはさすがに恥ずかしい……
昨日のことで分かっている。閣下は私などにまったく興味がない。それは分かっていますが、それでも無理!
けれど、ダメではないと言ってしまった私に、閣下はそれならとローブを差し出してくる。
今は急いで竜を探しに行かなくてはならない。それは分かっていますが……
「か、閣下……」
「……どうした?」
「…………」
なんだか視線が痛い。背の高い彼にずっと見下ろされていると、ますます鼓動が早くなってくる。
閣下は私との約束を守ってくれた。私も一緒に竜を探していいと言ってくれた。だったら私も約束を守らなくては。
分かっているけど、その目で見つめられると、手が震えてしまう。
「ど、どうか、お許しください…………は、恥ずかしいです……」
「……? 何が…………っっ!! ち、違うぞっ!!」
「え?」
顔を上げると、閣下は真っ赤。そして慌てふためいている。
「お、俺は何も、俺の前で着替えろと言ったわけではない!!」
「へっ…………!?」
「もちろん俺は外に出ている!!」
「そ、そのようなこと、できませんっ……! 使者の方を締め出すような真似……」
「い、いいからそうしてくれっ……! 頼む……」
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