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29.すぐに行く
しおりを挟む私は、暗い塔に戻ってきた。
小さな塔の狭い部屋は、薄暗い上に古いベッドとテーブルしかないけれど、私はここが気に入っている。ドアを閉めてしまえば、私だけの空間ですもの。
それに今は、イールヴィルイ様からいただいた、小さな使い魔が一緒だ。それは、ガラスでできた小鳥ほどの大きさの竜で、閣下の魔力で動いている。私が危ない目に遭えば、必ず迎えにきてくださると言っていた。
なぜ閣下は、私のことなど心配してくださるのか……
不思議に思えてくる。
私のことも、疑っていないとおっしゃってくださったり、傷を治してくださったり。
初めてお会いした時には皆殺し、なんて言い出す恐ろしい人だと思ったのに……あれは、陛下に対する忠誠心からくるものだったのだわ。
『リリヴァリルフィラン』
「きゃっ……!」
突然自分を呼ぶ声がして、驚いた。
声は使い魔からで、イールヴィルイ様のものだ。
振り向くと、閣下の使い魔が首を傾げていた。
『どうした? リリヴァリルフィラン。何かあったのか?』
「い、いえ……何もございません……閣下がご心配されるようなことは、何も……ございません……」
閣下のことを考えている時に、閣下に声をかけられて驚いただけです……
私の焦りが伝わってしまったらしく、閣下は心配そう。
『そうか…………使い魔を通して、あなたの様子は分かる。何かあれば、すぐに行く』
「……け、けれど、今回は懲罰のために地下に連れて行かれることが目的です。どうかそれまでは、私にお任せください……」
『……あなたに何かあったら、すぐに行く。必ずだ』
「閣下…………」
どうしよう……そんな風に言われてしまうと、こんな時だと言うのに、鼓動が速くなってしまう。今は、地下牢に向かうことを考えなくてはならないのに。
それだって、いつもならひどく恐ろしくて、震え上がっていたはず。それが今は、こんな風に違うことばかり考えているなんて。
「か、閣下!! どうか、私にお任せください! 必ず、地下への道を開いて見せますわ!」
『リリヴァリルフィラン…………それなら、あなたの護衛は俺に任せてほしい。何があっても、すぐに行く』
「…………はい」
『それと……その服だが……』
「……き、気にしないでください!」
閣下に指摘されて、私は焦った。
渡していただいたローブを着たままではトレイトライル様たちも警戒して私を地下に連れて行かないかもしれない、そうトルティールス様に忠告され、私は部屋にあった服に着替え、自分の魔法で修復している最中。
今着ているのは古いドレスで、以前、城を守っている途中で魔物に襲われて、スカートが破れてしまった。今持っている服では、これが一番マシで、破れているのも裾のあたりが少しだけだけど、閣下にこんな姿を見られるのは、少し恥ずかしい。
『少し……こっちに来てほしい』
「え!??」
『い、言っておくが、いやらしいことを考えているわけではない!! 断じて考えていないぞ!』
「わ、分かっております……その……疑っているわけではありませんわ!」
『そうか……き、着替えも見ていない! 絶対にだ!』
「閣下……もちろん、私は何も疑ってなどおりません…………」
慌てふためく小さな竜が可愛く思えてくる。
私が着替えている間、閣下の使い魔はわざわざ布を頭からかぶって、窓の外に出ていてくださった。ですから、何も疑ってはいないのですが、閣下の使い魔がこんなに慌てている様は、もう少しだけ見ていたくなる。
すると、背後から突然、トルティールス様の声がした。
「イチャつくのやめてもらえますか?」
驚いて振り返れば、部屋のドアを開けてトルティールス様が立っている。
「と、トルティールス様!?」
「……失礼しました。ノックをしても、イールヴィルイとの話し声が聞こえるだけで、お返事がなかったので」
「そ、それは失礼いたしました……」
「いいえ。本当はイールヴィルイが来るはずだったのですが、またやっぱりダメだ、なんて言い出すと面倒臭いので、僕がきました。あなたにも、武器を渡しておきます。あなたのことはイールヴィルイが守りますが、どうか、お気をつけて。特に……その面倒臭い男には」
トルティールス様はそう言って、閣下の使い魔に振り向く。
「……カッとなってやりすぎないでくださいね」
そう言われて、イールヴィルイ様の使い魔はそっぽを向いていた。
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