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30.不安なので
トルティールス様は私に振り向いた。
「そう言えば、クリエレスアがあなたのことを心配していました。僕たちが城に到着した時に、あの事件のことを話せなくて申し訳ないと」
「クリエレスア様が……そうですか…………」
領主ジレスフォーズ様が懇意にしている精霊族の子爵様のご令嬢、クリエレスア様。この城では魔法を学びながら魔法の道具を管理している方で、私を蔑んだりはせずに、人として接してくれる。けれど、表立ってデシリー様や、アグルーニズ家と対立することはできないし、領主ジレスフォーズ様の息子のトレイトライル様や、その婚約者のフィレスレア様とも対峙できない。
それは分かっている。私だって、彼女が思い悩むことは望まない。
「トルティールス様、どうかクリエレスア様に、私は無事だとお伝えください」
「………………分かりました。それと、僕の使い魔も置いて行きます」
そう言って彼は、イールヴィルイ様のものよりだいぶ小さい、私の人差し指ほどの大きさの宝石のようなものでできた竜をテーブルに置いた。
「イールヴィルイだけでは不安なので。いろいろと」
『貴様……どういうつもりだ? リリヴァリルフィランのそばに使い魔を置くなど』
そう言って閣下の使い魔はトルティールス様を睨みつけてしまう。
険悪な様子の閣下を前にしても、トルティールス様は全く動じない。むしろ、恐ろしく冷たい目をしていた。
「そういうところが不安だと言っているのです。僕は、こんな心底くだらないことからはさっさと解放されて、王城に戻りたいのです。どうかそれを忘れないでください」
鋭く刺すかのような口調に、私はすくみあがってしまう。
そしてトルティールス様は、今度は私に振り向いた。
「リリヴァリルフィラン」
「はっ……はい!!」
「僕たちの都合で、あなたに無理を敷いてしまい、申し訳ございません」
「そっ……そんなっ…………わ、私から言い出したことですわ!」
「怯えなくても大丈夫です。何があってもイールヴィルイは、あなたを守りますから」
そう言って、トルティールス様は部屋を出て行く。
かと思えば、すぐに戻ってきてドアを開けて一言。
「そこの男が迷惑をかけるような真似をしたら、僕に報告してください」
「……え……?」
「失礼します」
パタンとドアが閉まると、急に静かになる。
トルティールス様……閣下とは違う意味で、読めない方……けれど、閣下のことも私のことも心底心配してくださっていることだけは分かる。
トルティールス様が出て行き、部屋がしんとなると、少し寂しいような気がした。この部屋に、私とあのように人と人として会話をしてくださる方が来ることなんて、まずなかったから。
けれど、今は閣下がいる。
『リリヴァリルフィラン……』
「閣下、私にお任せください。必ずや、地下への道を開いて見せますわ!」
『…………恐ろしいことをさせていることは分かっている。あなたの身に危険が迫ったら、必ず助けに行く』
そう言って閣下の使い魔が羽を振ると、風と共に光が飛んで、私のドレスを修復してくれた。
さすがは閣下の魔法……すっかりドレスは元通りだ。
それを見たら、できるような気がしてきた。
私はリリヴァリルフィラン・フォーフィイ。常に美しく、気高く。そんな風に生きてきた。そうして精一杯張った虚勢だけが、私の武器。今こそ、それが役に立つ時がきた。何しろ懲罰のために連れて行かれることは得意ですもの! ……あまり胸を張って言うことではないような気もしますが……
決意して部屋を出ようとすると、コンコンとドアを叩く音がした。
あら……誰か来たのかしら……
これは好機。ここで少し問題を起こして、地下へ連れて行ってもらいましょう…………本当は怖いのけれど……私、負けませんわ!
「鍵はかかっていません。ご存じでしょう? どうぞお入りください」
私がそう言うと、ドアを開けて部屋に入ってきたのは、とても面倒な方。
「あら……まあ…………ダイティーイ様……」
……最悪な人がきた……今すぐに外に突き出して、ドアを閉めてしまいたい。
てっきりトレイトライル様の使いの方あたりが来るかと思っていたのに、随分な小者が来たものだ。
ダイティーイ様は、城に仕える魔法使いで、彼の魔法は強力だけれど、ことあるごとにこの城を守っているのは自分だと言っては人を嘲るような方。
閣下がいらした時も、彼が私を嘲笑っていることには気づいていましたもの。
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