【完結】極悪と罵られた令嬢は、今日も気高く嫌われ続けることに決めました。憎まれるのは歓迎しますが、溺愛されても気づけません

迷路を跳ぶ狐

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31.よかったああ!

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 部屋に入ってきたダイティーイ様は、ニヤニヤと笑いながら言った。

「リリヴァリルフィラン…………ここにいたのか……お前のような奴隷が、自由に城の中を歩き回るだなんて……全く、ジレスフォーズ様は何を考えていらっしゃるのか……」

 ……入ってきて早速、思いっきり人を馬鹿にしては蔑む発言。
 殺意は湧くけど、この方はいつもこう。

 ダイティーイ様は、自分より強い者にはそれはそれは丁寧に接するのに、自分より相手が弱いと知れば、態度を急変させる。
 ですから決して、この方にだけは怯えを悟られてはならない。

 よりにもよって、まっっっったく、というより、できれば一生お会いしたくなかった方が来るなんて……
 こんなことなら、トレイトライル様かフィレスレア様の方が、さっさと私に対する懲罰を決めてくれて便利なのに!

 けれど、悪い方に考えていたら、余計に恐ろしくて何もできなくなってしまう。

 ……これは好機! きっと好機です!

 私の目的は、ここで問題を起こし、懲罰のために地下に連れて行かれる事。でしたら、いかにも問題だらけの彼は、おあつらえむきのカード!

 この方はいつも、見窄らしい姿で城を守る私の前に現れては、「魔力のない奴隷同然の令嬢」と嫌味を言っていた。

 これまでの仕返しです! この方を目的のために利用してやる!

「これはこれは。ダイティーイ様。わざわざこんなところまでいらっしゃるなんて、お暇なのですか?」

 探し出してまで嫌味を言いに来るなんて、どれだけ暇なの……という本音を、ほんの少しだけ丁寧に言うと、彼は、すぐに顔を真っ赤にしてしまう。

「私は暇だから来ているのではない!! お前に自分の立場を思い知らせた方がいいと思って、わざわざ!! こんなところまで来てやったのだ!!」
「あら。わざわざこんなところにそんな品のないことのためにお越しいただき、誠に気持ち悪いですわ。すぐにお帰りいただけると嬉しいのですが……」

 これも本音。早く出て行け。心底そう思う。

 こういうことを言うと、この男はすぐに怒鳴る。ついでに魔法を放ってくることもある。

 カッとなって魔法を撃たれることは、今でも怖い……

 私は、お腹に力を入れて怯えを隠し、魔法からいつでも逃げられるように構えた。

 魔法の火でも矢でもその両方でも、どれでも来い! 私、逃げることは得意ですわ!

 しかし意外なことに、彼は私を睨んで「黙れ!」と言うだけだった。

「相変わらず、無礼な女だ」
「あらあら…………それをご存じなら、わざわざ会いに来てくださらなくても結構ですわよ?」

 嫌味を返しながらも、内心では胸を撫で下ろす。

 よかったあああああ…………火も矢も両方も来なかった!!

 虚勢はあくまで虚勢。本来はそこにはないものですから、それだけでは本物の脅威から身を守ることはできない。
 だからこそ、この壁が偽物だと悟られてはならない。

 今のところ、うまくいっている様子。やはりこの方は扱いやすい。

 それにしても、魔法を撃ってこないなんて。使者の方々がいらっしゃるからかしら……そんなことをすれば、普段私に理不尽な暴力を振るっていることまでバレてしまいますもの。

 そして、そんな私の単純な挑発にあっさり乗ってくださるところも、とてもありがたい。
 ダイティーイ様は、私を指差して言った。

「全ての元凶のお前を放っておくことはできないと思って、私は来てやったのだ。お前のような恥晒しに、自分の立場を分からせてやるためにな」
「元凶? なんのことでしょう」
「お前の横暴には、城の誰もが迷惑していた。あの封印の魔法の杖も、お前さえいなければ、暴走することはなかった。それは明白な事実だろう!!」
「あら……ダイティーイ様。明白な事実と言えば……そもそもあの杖は、あなたがご用意されたものですが……それはお忘れになられたのかしら?」
「黙れ! 魔力のない女め!」
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