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32.何もありません!
しおりを挟む怒鳴るダイティーイ様に対して腹は立つけれど、もう少し調子に乗らせてから、言い返せないようなことでも言ってやれば、この男はすぐにトレイトライル様に泣きつくはず。その時こそ、トレイトライル様に地下への鍵を使わせるチャンス!
私が黙ってみせると、ダイティーイ様はますます調子に乗っていく。
「今、デシリー様が王城に抗議する用意をしているところだよ……全く罪のない者まで皆殺しなどと言い出す男を送られては困るとね……」
「……」
「陛下とて、あの城にいる優秀な魔法使いは、デシリー様とアクルーニズ家のお力があったからこそ集まったと分かっているはずだ。どれだけ抵抗しようとも……いずれ言いなりになるしかない」
「…………そんなことをわざわざ報告しに来てくださいましたの?」
「……リリヴァリルフィラン……そんな態度だから私を敵に回すことが分からないのか? よーーく考えてみろ。今の状況が絶望的だとは分かるはずだ……誰もが、お前のことをあの事件の元凶だと思っている。きっとすぐに、イールヴィルイ様も認めざるを得なくなる。まったく……なぜあのような」
「黙れっっ!!!」
その言葉を遮り、つい、叫んでいた。それだけは許せなかった。こんな人が、イールヴィルイ様を侮辱するなんて。
「お黙りなさいっ!! 無礼な下郎がっ……!」
「な、なんだとっ……!?」
「イールヴィルイ様は、お前のような者とは違い、真剣にあの事件のことを考えてくださっています。あなたは、弱い立場に追いやられた私がここに一人でいることを見越してなぶりものにしに来ただけでしょう! 不快だけを撒き散らす下衆がっ! 失せなさい!」
「こ、こ、このっ……このっ…………魔力のない奴隷がっ……!」
「ふん! 魔力魔力と。あなたにはそれしかないのですか? なんて狭量でくだらないのでしょう! 呆れますわ!」
「黙れっ! 私なら、お前を救ってやれると言っているのに!」
「何をおっしゃっていますの? あなたなんかにしていただくことなど、何もありません!!」
本心から思っていることを口に出すと、なぜかその男はまた、ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべる。
なんなの……? この方、今日はやけに大人しい。いつもなら、もっと怒鳴って人を馬鹿にしては嫌がらせの魔法を使うのに。
「私の言っていることが分からないのか……リリヴァリルフィラン……」
「はあ?」
「相変わらず察しの悪い…………そんな態度でいられるのも、今のうちだ。お前だって、王城に連れていかれ罰を受けるのは怖いだろう?」
「……それがなんだと言うのです?」
「……リリヴァリルフィラン…………今日はまた一段と、見窄らしい格好をしているじゃないか……」
「急に何ですか? 領主の城を守る魔法使いは、いちいち私の服装のことまで気にしてくださるのですか? なんてまあ大きなお世話なのでしょう」
「…………」
苛立ちはしているのでしょうが、ダイティーイ様は何も仰らない。それどころか、ニヤニヤ笑って私に近づいて来た。
「リリヴァリルフィラン……伯爵家の令嬢が……淫にも程がある。私に従え……そうすれば、お前を助けてやる。それともまた、地下牢で鞭を受けたいのか? ん?」
「はあ?」
ぞっとした。
…………このっ……ゲスの屑がっ……何かいつもと違うと思っていたけど……そういうつもりで来たのか……っっ!
全く、吐き気がする。こんな男に触れられるなんて、考えたくもない。
「……近寄らないでいただけます? 貴方に頼むことなど、何も…………」
話している途中で。
飛び出してきた閣下の使い魔に、ダイティーイ様の体は弾き飛ばされ、恐ろしい音を立てて壁にめり込むほどに激突。ダイティーイ様は床に倒れて動かなくなってしまう。
ダイティーイ様は泡を吹いて倒れていて、その体の上に、閣下の使い魔が乗っている。
早っっ……! 早すぎます!!
確かに、危なくなったら助けると何度も言われましたが!! 私はまだ話していただけで、地下牢に連れていかれてないのに!
すぐそばで、トルティールス様の使い魔が『なんて我慢のない……』と呟く声がする。
私は、閣下の使い魔に駆け寄った。
「閣下!? な、なぜもう出てきているのです!?」
『無事か? リリヴァリルフィラン!』
「え……と……え、ええ……も、もちろんですわ。わ、私は無事です……なんともありません。それより、こんなに早く出てこられてしまっては……わ、私、まだ地下牢へ連れて行かれていません……」
『そんなことはいい! あんな汚らしい言葉を、あなたに聞かせたくない』
「か、閣下……それでは地下牢が……」
『そんなところへ行く必要はない』
「え……えっと…………」
……困りましたわ……
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