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33.分かった
しおりを挟む今は、何よりも地下に向かうことを考えなくてはならない。
「……閣下……まだ私は罰を受ける事が決まっていません。どうか、もうしばらくお待ちください……」
私がそう言っても、閣下の使い魔は頷いてくれない。
トルティールス様の使い魔に「なにを目的にしているか分かっているか」と聞かれても、やはり難色を示してしまう。
『そのためにあなたが苦しむことはない』
「閣下……私は、大丈夫です。閣下が…………守ってくださいましたから…………」
『……』
閣下は黙ってしまう。
けれど、だいぶ経ってから、一言呟いた。
『…………分かった……』
「閣下……」
閣下の使い魔はじーーっと私を見上げている。わ、分かって……くださったのですよね……?? な、なんだか怖いですわ……
静かになった部屋で、背後からトルティールス様の使い魔が私たちを呼んだ。
『リリヴァリルフィラン。イールヴィルイ。とにかく、まずはこの男を起こしてください』
「え……ええ……」
私は、恐る恐る彼に近づく。
ダイティーイ様はまだ気絶したまま。泡を吹いてぐったりしている様子を見ると、ちょっといい気味……
けれど、今はこの方に、地下牢へ向かう足掛かりを作っていただかなくてはならない。そのために、なんとかして起こさなくては。心底嫌ですが……
「……ダイティーイ様…………」
その名前を呟いて、彼に近づこうとすると、閣下の使い魔が私の前に飛んできた。
『下がっていてくれ。リリヴァリルフィラン……俺が起こす』
「閣下……ご、ご冗談を……魔力のない私にも分かります。それは、炎の魔法ですよね?」
閣下の使い魔は、すでに燃える炎を纏っている。そんなものを受けたら、彼の体は焼き尽くされてしまいますわ!!
「か、閣下……! さ、先ほど分かったとおっしゃってくださったではありませんか!!!! 閣下!」
私が閣下を止めていると、誰かが走ってくる足音がした。
まずい。誰かくる。
先ほどダイティーイ様が壁にぶつかった音を聞きつけたのでしょう。城中に響き渡るくらいひどい音でしたもの。
「何事だ!!!!」
そう叫んで、トレイトライル様が飛び込んでくる。一緒に、フィレスレア様もいた。
焦った私は、使い魔を背後に隠した。お二人がここにいらっしゃることがバレてしまえば、私が地下牢へ連れて行かれることはなくなる。
今の私は、この塔に戻ってきてダイティーイ様に手をあげた極悪令嬢。そうでなくてはならない。
トレイトライル様なら、地下へ向かう鍵を開くことができる。都合よく、鍵を管理するフィレスレア様もいる。
私がダイティーイ様に手をあげたと言えば、トレイトライル様は、きっと嬉々として私を地下牢に連れて行くはず!!
振り向いて、トレイトライル様たちと対峙する。
多少、計算外のことはありましたが、極悪な私が問題を起こす、というところまで、うまくいっている。あとは地下に連れて行かれるだけですわ!
フィレスレア様は、ガタガタと震えながら、トレイトライル様の後ろに隠れていた。どうやら、部屋に入ってきてすぐに、倒れているダイティーイ様に気付いたよう。
そして彼女は、甲高い声を上げた。
「まあ! まあ! まあああああーーーー! な、なんて恐ろしいことを……リリヴァリルフィラン様……これはどういうことですの!? ダイティーイ様が倒れているではありませんか!! まさか……ダイティーイ様に暴力を……なんて恐ろしい! トレイトライル様!!」
そう叫んで、彼女はトレイトライル様に抱きついていた。
……あまり恐ろしいと思っているようには見えませんが……これならすぐに地下牢に行けそう。
トレイトライル様は、倒れて動かないダイティーイ様を指差した。
「リリヴァリルフィラン……これは、どういうことだ? なぜ、ダイティーイが倒れている?」
「あら。私に先に手を出そうとしたのは、その方ですわ。あなたこそ、勝手に部屋に入らないでいただけます?」
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