【完結】極悪と罵られた令嬢は、今日も気高く嫌われ続けることに決めました。憎まれるのは歓迎しますが、溺愛されても気づけません

迷路を跳ぶ狐

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51.急がなくてはならないような

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 部屋から飛び出したフィレスレア様を、私はすぐに捕まえようとしたけれど、彼女は魔法を使って廊下を飛んでいって、あっという間に見えなくなってしまう。

 なんて素早い……こうしてはいられない。早く彼女を追わなくては。

 私も彼女を追って走り出すと、後ろからキディックまでついて来てしまう。

「き、キディック!? なぜあなたまでついてくるのです!?」
「だって、リリヴァリルフィランが行っちゃうから。僕も暇だし、一緒に行くよ」
「暇だからと言って、ついてこられては困ります! あなたは貴族のお屋敷で魔力を奪ったのですよね?」
「そんなの、言いがかりだよ。僕はどうしても魔力が欲しくなって、ちょっともらっただけ。僕らにとって、魔力を奪うことは食事と似ているんだ。しないとお腹がすごーーく空いちゃうからー……だから、仕方なく!」
「あなたは魔力がないと生きられないのですか?」
「そんなことないよ!! 僕は竜だもん!! 他に食べられるものはあるし、むしろしばらく食べなくても全然平気!!」
「だったら奪わなくてもよかったのでは……」
「だって魔力って最高なんだよ!? あったらすごく満たされるんだよ!? ない人には分からないと思うけど……」
「……」
「そんな顔しないで。僕だって反省してるよ? だけど、先に僕に手を出そうとしたのはあの貴族の方! それに僕、リリヴァリルフィランのことは気に入ってるんだ!! リリヴァリルフィランがそばにいてくれれば、悪いことはしないよ!」
「それは単に、私には魔力がないから、そばにいてもその食欲のようなものが湧かないだけでは……」
「それに僕、ずーっと地下にいたんだから、城の中を飛んでみたいなー!!」
「昨日の晩、飛び回っていたのではないのですか?」
「うん…………あいつが付き合って欲しそうだったから!」
「あいつと言うのは、イールヴィルイ様のことでしょうか……」
「うん!! もちろん!! 二人でいーーっぱい飛んできたよ!」

 そう言って、彼は急に私の前に飛んでくる。突然すぎて、驚いた私は尻餅をついてしまいそうだった。

 そんな私の動揺などお構いなしに、彼は私の顔をじーーっと見てくる。

「……リリヴァリルフィランはさーー、あの怖い男と、どういう関係?」
「は!!??」
「あれ? どうしたの? そんなに慌てるようなこと、聞いたかな」
「あっ……慌ててなどいません! それに、今はそんな話をしている場合ではありません!!」

 私は、彼の横をすり抜けて走り出した。

「キディックさんはお部屋に戻っていてください!」
「やーだーー。あの使者たちが何をするのか見たかったし、地下にいる間ずっと、上には何があるのかなーって思ってたんだ! 見てみたかったんだよ。城の中!」
「…………」

 少し悩みましたが、立ち止まっていたら、フィレスレア様に追いつけない。

 それに、彼の言うことも、少し分かる。
 私だって、伯爵家にいた頃は、狭い部屋に押し込められ、毎日奴隷のように働く中、優秀な魔法使いたちが楽しそうに屋敷の中を歩き回るのを、ずっと指を咥えて見ていましたもの。

「リリヴァリルフィラン? 早く行かないと、さっきの人、見失うよ?」

 キディックに言われて、フィレスレア様が飛んでいった方に向き直る。早く彼女を止めなければ。

 私はキディックに「では、私から離れないでください」と告げて、走り出した。

 フィレスレア様……どちらにいかれたのでしょう。

 デシリー様を手にかけるなんて、絶対にやめた方がいい。デシリー様の魔力と魔法は強力。それに、デシリー様の後ろには何人も強力な魔法使いを輩出して来たアクルーニズ家がいるのですから。

 走って階段を降りる。デシリー様は今は閣下たちとお話し中のようだし、それならきっと、応接室だ。フィレスレア様もそこに向かうはず。

 走っていると、廊下の角を曲がったところで、誰かにぶつかってしまった。

「うわっ……り、リリヴァリルフィラン!?」

 驚くその人は、領主、ジレスフォーズ様だった。
 私はすぐに頭を下げた。

「ジレスフォーズ様……申し訳ございません……」
「廊下を走っては危ない……朝からそんなに急いでどうした? 何か走らなくてはならないような理由があったのか?」
「え……ええ」

 領主のジレスフォーズ様は、普段はトレイトライル様やデシリー様に端に追いやられているが、お人好しで、私のことを蔑んで虐げたりはしない方。使者の方々がこの城に来た時には、トレイトライル様とデシリー様と使者の方々に挟まれてオロオロしていましたが、今も心労のせいか、少しお疲れのようだ。

「また何かあったのか? 今朝も少し城が騒がしかったようだが……」
「ええ。トレイトライル様かフィレスレア様をお見かけしませんでしたか?」
「……トレイトライル? フィレスレア? いや……知らないが……何かあったのか? あの二人は……また喧嘩か?」
「似たようなものですわ。けれど今回は、カッとなったフィレスレア様が、デシリー様にまで刃を向ける気でいるようで……」
「デシリーに!? な、何を考えているんだっ……!! よ、よりにもよってアクルーニズ家に手を上げようなどと……ま、またフィレスレアとトレイトライルかっ……! ……困ったな……す、すぐに探そう!」
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