【完結】極悪と罵られた令嬢は、今日も気高く嫌われ続けることに決めました。憎まれるのは歓迎しますが、溺愛されても気づけません

迷路を跳ぶ狐

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61.余裕です

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 今度はデシリー様が、不気味なくらいに笑った。

「よろしいではありませんか、伯爵様。リリヴァリルフィランは以前からそうです。礼儀などまるで知らずに、自分勝手なのです。けれど、私たちは違います」

 そう言って、デシリー様はイールヴィルイ様に振り向いた。

「私たちは、確かに国王陛下のやり方には反対です。ですが、反対だという意見を全て握りつぶしてしまったら、それは独裁と変わりませんわ」
「ああ。確かにそうだ。だが……竜を使って国王を狙うことが、安寧を願うものの姿とは思えない」
「私もその意見には賛成ですわ」

 微笑むデシリー様は余裕の表情。やはり、彼女を切り崩していくことは、並大抵の力ではなし得ないことのようだ。

 彼女が座るソファの前のテーブルに、閣下は、小さな宝石のような物を置いた。

「……これは、竜を捕獲するために使われたものだ。すでに竜の捕獲に関わった者も拘束してある」
「あらあら……いつの間に、そんなことを?」
「キディックが貴様らに拘束されたことが分かった時から、あれを結界の森から連れ出した犯人は探していた。なんでも捨て駒にするのはやめた方がいい。陛下の派遣した部隊が、貴様らが雇った連中を拘束した時、彼らは自分達から助けを求めて来たらしい。用済みになった自分達は、アクルーニズ家に殺されると言ってな」
「知りませんわ、そんなこと。どうせ、どこの馬の骨ともしれない方々でしょう? 何かに襲われ、恐怖のあまり、あなた方に言われたとおりのことを証言したのでは?」
「俺たちが無理に証言を迫ったというのか? ありえないな」
「どうしてそのようなことが言えるのです?」
「彼らは、アクルーニズ家の刺客に襲われた際に、刺客が持っていた武器を奪って逃げている。俺が今ここに置いたこれは、彼らから預かった物だ。これを用意したダイティーイも、証言している。すべては、アクルーニズ家に言われたしたことだと」

 閣下に言われて、デシリー様は楽しそうに笑い出した。

「それで私を……アクルーニズ家を追い詰めたつもりでしょうか?」

 その平然とした姿を見ていると、彼女には勝てないような気がしてくる。けれど、こちらだって、負ける気は毛頭ない。

 笑う彼女に、私は追い打ちをかけた。

「デシリー様。もう諦めたほうが宜しいのではありませんか? トレイトライル様も、アクルーニズ家に指示されたと、先ほど話してくださったばかりですわ。ダイティーイ様も、あなたが封印の魔法の杖に関わったことを証言しています」
「そう……まったく、どの方も嘘つきばかりで。困りますわ……」

 どれだけ証拠を並べても、デシリー様の様子は変わらない。余裕綽々といった様子の彼女は、どこか楽しそうにすら見える笑みを浮かべている。絶対的な自信があるのでしょう。どれだけ証拠が並んでも、会議の場になれば、誰も彼女には逆らわないのだから。

 彼女は微笑んで、恐ろしいくらい穏やかに言う。

「ご安心ください、閣下。王城に出向けと言われるなら、私自ら向かいますわ。会議では、きっと皆様、私の意見を聞いてくださいますもの。けれど……閣下。王城の皆様の前で、私に無礼を働いたことを後悔なさるくらいなら、今謝罪なさった方が得策ですわよ?」
「やれるものならやってみろ。貴様のことは、王城に連れて行く」
「ええ……けれど、閣下」
「どうした?」
「それはあなたが……生きていたら、の話ではありませんか?」
「………………俺が死ぬと言いたいのか?」
「あらあら。陛下をお守りした偉大な魔法使いに、死ぬ……だなんて。そんなことを、私が申し上げるはずがないではありませんか。ただ、そうでなくても、例えば何かの弾みであなたが魔力を失ってしまえば、私をここから王城に連れて行くこともできなくなってしまうのではないかと危惧しているだけですわ」

 デシリー様が笑う。

 ……まさかとは思っていたけれど……そういう手でくるの?

 使者の方々が城を歩き回ることを黙認し、私のことも口封じに殺すことは諦めたのかと思っていたのに……どうやら、甘かったようだ。

 いくつ証拠を並べ立てても、裁きの場に行けば、デシリー様は潔白と言い張る自信があるのでしょう。
 けれど、それでは確実ではない。
 邪魔なものは潰しにかかる。それはいつもの彼女の手だけれど、本気でそうくるなんて……

 閣下に手を上げるなんて、絶対にさせない。

 私は彼女を睨みつけた。

「デシリー様……悪あがきはやめたほうが宜しくてよ。すでに、アクルーニズ家が舞踏会の日の封印の魔法の杖の暴走に関与したことは明白。悪あがきはやめたほうが身のためです」
「……リリヴァリルフィラン……」

 彼女が立ち上がり、私に近づいてくる。

 こうしてそばに立たれると、その威圧感だけで、息ができなくなりそうだ。

「リリヴァリルフィラン……あなたが連れているその竜は、あなた達が見つけてきたのかしら?」
「ええ……地下に閉じ込められていました。あまり……驚かないのですね」
「残念ですけど、私がそんなことにすら気づかないと思いまして?」
「……うまくやったつもりでしたから。あら? もしかして、本当に気づかれていたのでしょうか?」
「……なぜ私に気づかれていないなんて、そんなことが言えるのかしら。あれだけ派手に動いておきながら」
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