【完結】極悪と罵られた令嬢は、今日も気高く嫌われ続けることに決めました。憎まれるのは歓迎しますが、溺愛されても気づけません

62.約束どおり

　私は気を取り直し、デシリー様と対峙した。

「けれど、デシリー様。私達が竜を見つけたことは事実ですわ」
「そう……」
「……キディックが見つかっても、なんとも思いませんの？」
「もちろん思いませんわ。だって私は何も知りませんもの」

　にっこり笑うその表情が恐ろしい。本当に、全く動揺しない方だ。

「リリヴァリルフィラン……行動を起こすなら、万が一にも失敗せず、確実に利益を取れるようにいくつもの策を用意する、それは当然ではなくて？」

　彼女は余裕の表情を浮かべ、閣下に向き直った。

「例えば私が、国王陛下の魔力を本当に狙うとして、あなたのような面倒臭い護衛がいる時は狙いませんわ。それよりも、この城にその面倒な男を呼び、先に始末する。その方が確実ではありませんか」
「……狙いは、最初から俺だと言いたいのか？」
「私はそのようなことを申し上げたのではありませんわ。その言い方だと、まるで私が閣下の魔力を狙っているようではありませんか」
「……」
「閣下。あなたが恐れる気持ちはわかります。ですがどうか、落ち着いてください。私は、あくまで例えの話をしているのです。例えば、国王陛下の魔力が失われたとしても、その周りに強力な護衛がいては、陛下が魔力を回復される時まで、護衛が陛下を支えるだけです。それよりも、時間をかけて邪魔な盾を砕く。それから中心をへし折った方が、よほど確実ではなくて？」
「そんなことのために、あの場を台無しにして、陛下のそばで杖を暴走させたのか……」
「ですから、まるで私が全てを企んだかのようにおっしゃるのは、どうかおやめください。公爵家といえども、無礼がすぎます」
「あくまで、自分は関係ないと言い張るのか？」
「もちろんです。例えば、今ここで封印の魔法が使われたとしたら、それは使った者の罪です。しかし、たまたま、誰かが仕掛けた封印の魔法の杖が運悪く暴走してしまったら、それは誰のせいでもありません。不運な事故なのです」
「……いけしゃあしゃあと、よく言えたものだ……そうやって、あの祝勝会の日も、不運な事故とやらを起こしたのだろう？」
「なんのことでしょうか」
「だが、封印の魔法の杖はもう存在しない。それでどうやって、俺の魔力を奪うつもりだ？」
「そんなこと、あなたが心配なさらなくてもいいのですよ」

　そう言った彼女は、勝利を掴んだかのように笑う。

　そして、その目線がキディックの方に向かった。

　それから彼女は口を噤む。

　私も、閣下も。

　誰も何も話さず、誰も動かない。そんな時間が過ぎた。

　間が持てなくなったのか、それとも待つのが嫌になったのか、イールヴィルイ様が口を開いた。

「どうした？　何かするのではなかったのか？」
「………………」

　デシリー様は、無言でイールヴィルイ様を睨む。

「……白々しい。さては、気づいていましたね…………」
「なんのことだ？」

　閣下は首を傾げてしまう。だって閣下には何も話していませんもの。

　私は、そばを飛んでいるキディックを捕まえて、抱き上げた。

「……デシリー様……キディックに仕掛けられていた、封印の魔法の杖なら、私とキディックが見つけました」
「……リリヴァリルフィランっ…………？　まさかっ…………あなたが？」

　彼女は、じっと私を睨んでいる。よほど腹を立てているのだろう。それ以上に、驚いているのかもしれない。私が、キディックに仕掛けられた封印の魔法の杖を見つけたことに。

　それは、エウィトモート様が見つけてくれた。キディックが妨害の魔法を使うのをやめたので、探知の魔法で探し出すことができたらしい。それは、見えないくらいに細く短い糸になって、キディックの尻尾に巻き付いていた。
　フィレスレア様に言われなければ、こんな手を使うことができるだなんて、気づけなかっただろう。

「…………リリヴァリルフィラン……あなたなんかにそんなことができるとは思えませんわ……魔力もないくせに。使者の方に、優秀な方がいらしたのかしら？」
「あら。魔力のない私にも、この程度のものなら探し出せる。それだけの話ですわ」

　エウィトモート様、約束どおり、手柄はいただきますわ……

　それと同時に、恐ろしいでは済まないくらいの怒りも買っているようですが……
　だって、デシリー様が、恐ろしく冷たい目をしている。

「…………そう……」

　あまり挑発するようなことは言わない方が良さそう……そうでないと、恐怖で対峙することすらできなくなりそうだ。

　けれど、怯えているところなんて見せたら、彼女に首を落とされてしまう。

「……デシリー様……一度はキディックを追い出そうとしたそうではありませんか。本当は、キディックがここに残っていることにも、気づいておられたのでしょう？　キディックが少し隠れた程度で、あなたを誤魔化せるはずがありませんもの」
「なんのことかしら？　私は何も知らないわ」
「……それならそれで、今は構いませんわ。けれど、キディックに仕掛けられた封印の魔法の杖は既に回収しました。あれは目に見えないほど小さくすることができると、先ほど教えていただきましたから」
「あらあらぁー……そーんな余計なことをあなたのような悪辣な女に教えてしまう馬鹿は……どこの誰かしら？」
「忘れましたわ」

　にっこり笑って答える。

　フィレスレア様……便利なことを教えてくださったことにはお礼を言います。これで、貸し借りなしですわ……