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71.一体なぜ
しおりを挟む魔力が欲しいわけじゃない。もちろん、あればよかったし、昔は、それさえあれば……なんて考えたりしたけれど、今ではもう、このままの魔力でいいと思っている。
私は、そんなつもりで言ったんじゃない。ただ私は、閣下のそばにいるわけにはいかないと申し上げただけです!
けれど「違います」と、そんな短い言葉すら、出て来なかった。
もたもたしているうちに、強い腕に引き寄せられて、体が擦れあって、胸が潰れそうで、かすかに私は呻いた。
いつもなら私を気遣って、一歩引いて、そっと手を差し出してくれたのに。今はもう、まるで私を拘束しにきたかのようだ。
「……わ、私は……魔力が欲しいわけではありませんっっ……閣下は公爵家の一族でしょう! …………わ、私なんて、伯爵家の令嬢ですらなくなるのですよ!?」
「それの何が問題なのか分からないが……爵位が必要だと言うなら、俺はあなたがそれを得るために、全力で協力する」
「はいっ……!?? で、ですから、そう言うことではなく……」
「違うのか? あなたが魔物から城を守ってきたことは知っている。その腕があれば、すぐにその実力に見合う地位が与えられると思うのだが……」
「そ、そんなまさかっ…………!」
「魔力がほとんどなくても魔物を遠ざけることは、誰にでもできることではない。あなたには、その自覚がないのか?」
「な、何をおっしゃっているのです?」
「他には? 何が問題だ?」
「ですから!! わ、私が申し上げているのは、そういうことではございません…………っ!!」
せっかく、ほんの少しの余裕ができたと思ったのに、彼はまた激しく抱き寄せてくる。ほんの少しでも逃げられるような気になってしまった自分が憎いくらい。
それどころか、どんどん力が強くなっていく。
けれど、私より彼の方がひどく苦しそうに言った。
「……俺はっ……本当に、ずっとあなたに会いたかった。あなたに会えて嬉しかった…………こうして思いを伝えることができて、嬉しく思う。それなのに…………」
「……か、閣下…………」
「伯爵は、いいと言ったぞ」
「えっ……!? い、言いましたか?」
「それなのに、何を伝えても、まだ冗談で、気の迷い……なぜ、そう聞こえてしまうんだ?」
ますます彼の力が強くなる。だんだん過ぎた力が加わっていくようで、苦しい。
私の言葉は、閣下の言葉を疑うように聞こえていたんだ。
それを今になって、思い知る。
「違うっ……ち、違いますわっ……!」
「リリヴァリルフィラン?」
「わ、私はただ…………私がそばにいては、閣下のご迷惑になると思っただけで………………」
「迷惑だと? あり得ない。俺が、そんなことを思うと思ったのか……?」
苦しくて、怒りを押し殺すような声だった。私の方が、息が詰まってしまいそう。そんな風に、私は彼の伝えてくれたことを侮辱していたのかと思うと、酷い自己嫌悪に襲われた。
「私は…………その……も、もしも…………閣下のおそばにいられるのなら…………そ、それはっ……ほ、本当に……よ、喜ばしいと……思っております…………」
本当の思いを伝えることが、こんなに苦しいとは思わなかった。
息が詰まりそうになりながらなんとか伝えると、彼が抱きしめる力が、緩んだ。
さっきはあれだけ恐ろしいと思ったのに、いつのまにか、そんな思いは消えて、それよりも、閣下に今この手を離されてしまうことの方が、怖くなる。
今度は私の方から、彼の腕を掴んでいた。勢いで見上げた彼は、真っ赤だった。
「…………それは、本当か?」
「え……?」
「……本当に……俺のそばにいたいと、そう思ってくれるのか?」
「…………はい…………」
伝える気は、なかったのだけど……閣下の伝えてくれたことを、蔑ろにしたままではいられない。
すると、閣下はさっきの倍力を入れて、私を抱きしめる。
「リリヴァリルフィランっ……!」
「か、閣下……あ、あのっ…………っっ!!」
苦しいので離してくださいって、そう言うつもりだったのに、いつのまにか言えなくなっていて、私はずっと、彼に抱きしめられていた。
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