【完結】極悪と罵られた令嬢は、今日も気高く嫌われ続けることに決めました。憎まれるのは歓迎しますが、溺愛されても気づけません

迷路を跳ぶ狐

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72.それから少し経って

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 それから私は、トルティールス様とエウィトモート様が来てくださるまで、閣下に離してもらえなかった。もう苦しいくらいに鼓動が高鳴って涙が滲むくらいだった。

 殺戮の使い魔なんて忍ばせていた閣下は、トルティールス様に「しないと約束したではありませんか!!」と怒鳴られていたが、閣下の方は「それがいたから伯爵とトレイトライルを逃さずに済んだ」と、逃亡を図った二人を拘束できたことに胸を張っていた。

 封印の魔法の杖の回収は滞りなく行われ、城は元の状態を取り戻した。
 城で起こったことと明らかになったことを陛下に報告するために、閣下と使者の方々は、城中の魔力を回復させると、デシリー様と伯爵様を連れて、すぐに王城に帰って行った。

 それから、一ヶ月ほどが経った。
 またこれまでと変わらない日々が帰ってくるのかと思ったけれど、デシリー様がいなくなり、伯爵家からの干渉もなくなり、トレイトライル様はすっかり怯えてしまって、私に奴隷同然の生活が強いられることはなくなった。
 相変わらず、城を魔物から守る仕事をする毎日だけど、私は俄然やる気が出ていた。魔力もないくせに、役立たず、ずっとそんなふうに言われていたのに、閣下に初めてあのように言ってもらえて、嬉しかったからかもしれない。

 今日も早朝から、城の周りに魔物がいないか見回り。
 近々城では夜会が行われることになっている。お客様がいらっしゃるその日まで、魔物への対策はさらに念入りにしておかなくてはならない。

 まずは庭からと思い、私は、愛用の細い杖と、朝食のサンドイッチを入れたバスケットを持って、噴水のそばを歩いていた。

 バスケットからいい匂いがする。これまで食事らしいものなんて、厨房で余っていたパンくらいしかもらえなかったのに。

 今日は朝から晴れて、涼風が心地いい。見上げれば、薄い雲が流れていった。

 けれど、そんな心地よさを邪魔するかのように、空に影が見える。小さな、煙のようなものを纏うそれは、虫らしき形をした魔物だ。

 降るように飛んでくる魔物に、輝く杖で応戦する。
 通常は、自らの魔力で魔物の魔力を散らして魔物を破壊するけれど、それには多くの魔力が必要。私にはそんなものはないので、魔物の魔力が集まって絡まっているあたりに、微かな魔力を刺せばいい。魔力の弱い魔物ほど、それは見つけやすいので、今回はあっさり魔物は倒れた。あとは、簡単な魔力を制御するための魔法がかかった短剣があれば、魔物は消えていく。

 普段から魔物はまめに追い払っている。それなのに、まだ入ってくるなんて。

 せっかく括っていた髪が落ちてきたので、リボンを解いてもう一度結び直していると、城の方から、一人の女性が私に向かって走ってくるのが見えた。

「リリヴァリルフィラン様!」

 振り向けば、金色の長い髪を一つに括り、戦闘用に動きやすいローブに身を包んだクリエレスア様が駆け寄ってくる。こんなに早い時間から、彼女にお会いするなんて思わなかった。

「おはようございます。クリエレスア様……どうなさったのです? こんな朝早くから……」

 私がたずねると、彼女は笑顔で「見回りに向かったと聞いて、追いかけて来たんです」と言った。

「リリヴァリルフィラン様が見回りに行くなら、私も行きます」
「あら。これくらい、私一人でも平気ですわ」
「いいえ。強力な魔物だって、いるかもしれません。どうか、私も連れていってください!」
「けれど、クリエレスア様は、今日も東の谷へ魔物の討伐に向かわれるのではないのですか?」
「まだ随分時間がありますから!」

 そう言ってクリエレスア様は歩き出した。彼女もこう言っていることだし、お言葉に甘えることにしましょう。

「お待ちください! クリエレスア様!! 私も参りますわ!」
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