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73.縁を切る
しおりを挟むクリエレスア様がいてくれたおかげで、周辺の見回りは思っていたより早く終わった。バスケットにたくさんサンドイッチを詰めてもらったのだけど、朝食の時間にも間に合いそうなくらいだ。
城壁の周りを見て回り、周辺の警備をしていた魔法使いの方に挨拶をして、私たちは城に戻って来た。
「朝から随分魔物が出るのですね……リリヴァリルフィラン様、毎日こんなことをなさっているのですか?」
「ここに出る魔物は小さなものばかりですし、普段はもっと人数がいて、私がしているのはその手助けくらいです。そうですわ! クリエレスア様!! よければ朝食をご一緒しませんか? 私、お弁当を持っていますの!!」
私がバスケットを見せて言うと、クリエレスア様は「実は狙っていました」と言って笑う。
早速二人で木陰に座って、バスケットを開く。そこには、肉や野菜、魚がたくさん挟まれたサンドイッチと、みずみずしい果物が、とても一人分とは思えないほど詰まっていた。
「すごい量ですね……」
驚くクリエレスア様。私も少し驚いた。
そう言えば、今日は厨房に新しいシェフが入ったらしいし、料理長が張り切っていた。
「魔物を追い払っているとお腹が空くので、ちょうどいいですわ!」
「…………リリヴァリルフィラン様……」
「……? どうされたのです?」
彼女は、少し間を置いて、ひどく真剣な顔をして聞いた。
「……本当に、城を出るおつもりなのですか?」
私は一言、キッパリと答えた。
「ええ」
あの後、伯爵様が私の前に姿を表すことはなかった。ただ、フォーフィイ家からは、お前とは縁を切る、というような主旨のお手紙が一通きただけ。
私はもう、フォーフィイ家を追い出され、この城に対するアクルーニズ家の圧力もなくなった。つまり、ジレスフォーズ様は私をここに置いておく理由がなくなったのだ。きっとすぐにでも出ていってほしいはずだ。私にも、ここに留まる理由はない。
街に出て、魔物の討伐……とはいかないまでも、魔物から人の住む場所を守る仕事をしていくつもり。そのために、すでに何度か街に出ている。最初は元貴族が歩いていると変な顔をされたが、街でも魔物に対する対策は急務で、なんとかやっていけそう。
以前は考えられもしなかったことだ。散々、役立たず、魔力のない家畜、なんて罵られてきたのに、閣下に初めて魔物から城を守ってきたことを褒められて、もしかしたら私にもできるかもしれないと、そんな気がしてきたのだ。
以前にも、城から出ると、ジレスフォーズ様に話したことがある。その時は、フォーフィイ家とアクルーニズ家が激怒するからやめてくれと言われて、叶わなかった。けれど、もう私を引き止める理由は消えてしまった。
「ジレスフォーズ様も、厄介払いができるはずです。こんな時でなければ……すぐに申し出たのですが……」
今申し上げたら、魔物と戦う人手が一つ減る。人手が足りないのに魔物対策と、あの事件の後始末に追われているジレスフォーズ様にそれを申し上げることが、かなり酷なことであることくらい、私にも分かる。
「折を見て、お話ししてみますわ……」
「……厄介払い、ですか……ジレスフォーズ様は随分リリヴァリルフィラン様を頼りにしているようですよ?」
「まさか……魔法の名手であるクリエレスア様に言われても、嫌味に聞こえてしまいますわ」
「そんなことはありません。街でも貴族の間でも、魔力がなくても魔物を追い払える令嬢がいると、噂になっていますのに……」
「そうなんですか……?」
魔物から城を守れることのお役に立てることは嬉しいけれど、魔力がないことと、伯爵家からつまみ出された令嬢が魔物を短剣で切り付けていることが知れ渡るのはよくない……魔力がないことと、はしたないことを知られてしまいますもの。
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