【完結】極悪と罵られた令嬢は、今日も気高く嫌われ続けることに決めました。憎まれるのは歓迎しますが、溺愛されても気づけません

迷路を跳ぶ狐

文字の大きさ
73 / 96

73.縁を切る

しおりを挟む

 クリエレスア様がいてくれたおかげで、周辺の見回りは思っていたより早く終わった。バスケットにたくさんサンドイッチを詰めてもらったのだけど、朝食の時間にも間に合いそうなくらいだ。

 城壁の周りを見て回り、周辺の警備をしていた魔法使いの方に挨拶をして、私たちは城に戻って来た。

「朝から随分魔物が出るのですね……リリヴァリルフィラン様、毎日こんなことをなさっているのですか?」
「ここに出る魔物は小さなものばかりですし、普段はもっと人数がいて、私がしているのはその手助けくらいです。そうですわ! クリエレスア様!! よければ朝食をご一緒しませんか? 私、お弁当を持っていますの!!」

 私がバスケットを見せて言うと、クリエレスア様は「実は狙っていました」と言って笑う。

 早速二人で木陰に座って、バスケットを開く。そこには、肉や野菜、魚がたくさん挟まれたサンドイッチと、みずみずしい果物が、とても一人分とは思えないほど詰まっていた。

「すごい量ですね……」

 驚くクリエレスア様。私も少し驚いた。
 そう言えば、今日は厨房に新しいシェフが入ったらしいし、料理長が張り切っていた。

「魔物を追い払っているとお腹が空くので、ちょうどいいですわ!」
「…………リリヴァリルフィラン様……」
「……? どうされたのです?」

 彼女は、少し間を置いて、ひどく真剣な顔をして聞いた。

「……本当に、城を出るおつもりなのですか?」

 私は一言、キッパリと答えた。

「ええ」

 あの後、伯爵様が私の前に姿を表すことはなかった。ただ、フォーフィイ家からは、お前とは縁を切る、というような主旨のお手紙が一通きただけ。
 私はもう、フォーフィイ家を追い出され、この城に対するアクルーニズ家の圧力もなくなった。つまり、ジレスフォーズ様は私をここに置いておく理由がなくなったのだ。きっとすぐにでも出ていってほしいはずだ。私にも、ここに留まる理由はない。

 街に出て、魔物の討伐……とはいかないまでも、魔物から人の住む場所を守る仕事をしていくつもり。そのために、すでに何度か街に出ている。最初は元貴族が歩いていると変な顔をされたが、街でも魔物に対する対策は急務で、なんとかやっていけそう。

 以前は考えられもしなかったことだ。散々、役立たず、魔力のない家畜、なんて罵られてきたのに、閣下に初めて魔物から城を守ってきたことを褒められて、もしかしたら私にもできるかもしれないと、そんな気がしてきたのだ。

 以前にも、城から出ると、ジレスフォーズ様に話したことがある。その時は、フォーフィイ家とアクルーニズ家が激怒するからやめてくれと言われて、叶わなかった。けれど、もう私を引き止める理由は消えてしまった。

「ジレスフォーズ様も、厄介払いができるはずです。こんな時でなければ……すぐに申し出たのですが……」

 今申し上げたら、魔物と戦う人手が一つ減る。人手が足りないのに魔物対策と、あの事件の後始末に追われているジレスフォーズ様にそれを申し上げることが、かなり酷なことであることくらい、私にも分かる。

「折を見て、お話ししてみますわ……」
「……厄介払い、ですか……ジレスフォーズ様は随分リリヴァリルフィラン様を頼りにしているようですよ?」
「まさか……魔法の名手であるクリエレスア様に言われても、嫌味に聞こえてしまいますわ」
「そんなことはありません。街でも貴族の間でも、魔力がなくても魔物を追い払える令嬢がいると、噂になっていますのに……」
「そうなんですか……?」

 魔物から城を守れることのお役に立てることは嬉しいけれど、魔力がないことと、伯爵家からつまみ出された令嬢が魔物を短剣で切り付けていることが知れ渡るのはよくない……魔力がないことと、はしたないことを知られてしまいますもの。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

前世で私を嫌っていた番の彼が何故か迫って来ます!

ハルン
恋愛
私には前世の記憶がある。 前世では犬の獣人だった私。 私の番は幼馴染の人間だった。自身の番が愛おしくて仕方なかった。しかし、人間の彼には獣人の番への感情が理解出来ず嫌われていた。それでも諦めずに彼に好きだと告げる日々。 そんな時、とある出来事で命を落とした私。 彼に会えなくなるのは悲しいがこれでもう彼に迷惑をかけなくて済む…。そう思いながら私の人生は幕を閉じた……筈だった。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる

葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。 アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。 アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。 市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。

私は既にフラれましたので。

椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…? ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

お妃候補を辞退したら、初恋の相手に溺愛されました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のフランソアは、王太子殿下でもあるジェーンの為、お妃候補に名乗りを上げ、5年もの間、親元を離れ王宮で生活してきた。同じくお妃候補の令嬢からは嫌味を言われ、厳しい王妃教育にも耐えてきた。他のお妃候補と楽しく過ごすジェーンを見て、胸を痛める事も日常茶飯事だ。 それでもフランソアは “僕が愛しているのはフランソアただ1人だ。だからどうか今は耐えてくれ” というジェーンの言葉を糧に、必死に日々を過ごしていた。婚約者が正式に決まれば、ジェーン様は私だけを愛してくれる!そう信じて。 そんな中、急遽一夫多妻制にするとの発表があったのだ。 聞けばジェーンの強い希望で実現されたらしい。自分だけを愛してくれていると信じていたフランソアは、その言葉に絶望し、お妃候補を辞退する事を決意。 父親に連れられ、5年ぶりに戻った懐かしい我が家。そこで待っていたのは、初恋の相手でもある侯爵令息のデイズだった。 聞けば1年ほど前に、フランソアの家の養子になったとの事。戸惑うフランソアに対し、デイズは…

【完結】転生したら悪役継母でした

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。 その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。 しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。 絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。 記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。 夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。 ◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆ *旧題:転生したら悪妻でした

処理中です...