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74.あなたを追い出すなんて
しおりを挟むフィレスレア様は、真剣な顔をして言った。
「以前にもお話しましたが、私の一族は、リリヴァリルフィラン様をお迎えする気でいますわ。もう一度、考えてみてくださいませんか?」
「クリエレスア様……」
あの事件があって、私が全てを引き起こした元凶と罵られるようになってから、彼女は私をここから連れ出し、彼女の一族の屋敷に迎えるために動いていたらしい。デシリー様の無茶な魔物討伐の要請を引き受けたのも、それを許可していただくためだったとか。
私がトレイトライル様の婚約者として呼ばれ、その後あっさり破棄されてからも、彼女だけはこうして私を蔑むことなく接してくれていた。けれど、アクルーニズ家に面と向かって逆らえば、自分だけでなく、一族まで危険に晒してしまう。そんな中でも、私に手を差し伸べようとしてくださったことには感謝しているのですが、大貴族と揉め事を起こした私では、彼女に苦しい思いをさせることもあるはず。それに、私は……
「クリエレスア様。お気持ちには感謝いたします。けれど、私はもう貴族ではないですし、初めて魔物退治の腕を磨きたいと思えたのです。それに私、フォーフィイ家と縁を切れたこと、清々したと思っているのですよ?」
それは本当で、フォーフィイ家から縁を切ると言われた時、私は心底ホッとした。けれど、クリエレスア様の方が、何だか悔しそう。
「……リリヴァリルフィラン様を追い出すなんて…………フォーフィイ家も馬鹿な真似をしたものです……あの家をアクルーニズ家の傀儡から救ったのはリリヴァリルフィラン様なのに……」
「……クリエレスア様……大袈裟ですわ……」
「けれどっ……!」
「大丈夫です! 私、こう見えて魔物を退治できますし、何とかなりますわ!」
「…………閣下のことを待っておられるのですか?」
「へっ……!??? な、な、何をっ……ど、どど、どちらの閣下のことでしょう!」
「……イールヴィルイ様のことに決まっているではありませんか!!」
「……」
そんなの、期待するに決まっている。むしろあれだけされて、期待するなというのはあんまりです!!
不意に、閣下がこの城にいてくださった時のことを思い出してしまい、なんだか恥ずかしい……
「…………ももちろん……き、期待は……してしまっています…………けれど……私はずっと伯爵家では奴隷として扱われていて、貴族としての教養や魔法の使い方などにも疎いですし、少しくらい魔物と戦えるからと言って、私に魔力がないことは事実……それなら今よりもう少しくらい魔物と戦えるようになって、魔力がなくても魔物を追い払うことができたら………………も、もしかして、公爵家の警備にも…………」
話しているだけで、恥ずかしくなってきた……これでは、城を出て魔物退治の腕を磨きたいと言っていることにも、まるで下心があるかのようではありませんか! …………いえ。もちろん、少しはある……というか、かなりある。
すでに、伯爵家でも貴族でもない私。それでも、魔物対策の役に立てるほどの腕を身につければ、結ばれなかったとしても、閣下のお屋敷に、警備の一人として召し抱えていただけるかもしれない。そしたら、お屋敷でお顔を拝見することくらいは叶うのではないかと……
「私としたことがっ…………なんて図々しいっ……!」
「リリヴァリルフィラン様!??」
話せば話すほど、自分の下心が露呈するようで……もう私は真っ赤になった顔を両手で覆った。何を暴露しているのか……
「な、なんでもありませんわっ……ど、どうか……お忘れください…………」
「それは構いませんが…………リリヴァリルフィラン様……」
「はい……」
「……無礼を承知でお尋ねしますが…………正気ですか?」
「な、何がですの!? わ、忘れてくださるのではないのですか!?」
「……それは構いませんが……私は、閣下がその程度で済ませてくれるようなお方だとは、到底思えませんわ」
「え……?」
「閣下からご連絡はありませんの?」
「ございました……数回、使い魔や使者の方を通じて…………王城のことや、事件の後始末のことや…………」
「そんなことを? …………奥手だと言うのは、本当だったのかしら……」
「奥手? 私はとても嬉しいですわ……閣下から、そ……そんなものがいただけるなんて……」
「…………夜会のことは?」
「え!?」
「今度開かれる夜会に、イールヴィルイ様もいらっしゃるのでしょう?」
「ええ……」
それは手紙で聞いていて、とても嬉しいのだけど……
話していると、城の方から、羽ばたきの音がした。振り向けば、執事のような格好をした男が、魔法を使い飛んでくる。あまり見かけない方ですが、ジレスフォーズ様の新しい執事でしょうか。
彼は、私の前に降りると、恭しく頭を下げて言った。
「リリヴァリルフィラン様、ジレスフォーズ様がお呼びです……」
「……私を……ですか?」
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