【完結】極悪と罵られた令嬢は、今日も気高く嫌われ続けることに決めました。憎まれるのは歓迎しますが、溺愛されても気づけません

迷路を跳ぶ狐

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76.誰よりも思って

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 私が何を言っても、ジレスフォーズ様は引き下がる気がない様子。けれど、私はすでに召使いの身だ。

「……ジレスフォーズ様……ご存じのとおり、わ、私は今は、ジレスフォーズ様に召し抱えていただいている魔法使いという身分ですし……貴族の方々が集まる夜会になんて出席できませんわ」
「全く問題ない。伯爵家があなたを追い出した話は誰もが知っている。それでも、あなたに会いたいという貴族は多い。魔法の名家と言われる一族から、あなたをお茶会や晩餐会に誘いたいという手紙が届き、防御の魔法がかかったドレスや、魔法の装飾品、魔法の武器などを贈りたいという話がきているくらいだ。中には、あなたを屋敷に迎えたいというものまである」
「な、なぜそのような方々が私を……」
「私にも分からん。だが、それくらいあなたのことは貴族の間でも話題になっているのだ。魔力がなくても魔物を相手にして、公爵家に気に入られた魔法使いがいると……」
「そんな……まさか…………」
「まさかじゃない。私が王城に出向いた時から、そうだった」
「否定してくださったのですよね!?」
「何をだ? 噂をか? いいや。全く。高貴な方々のおっしゃることを、なぜ私が否定しなくてはならないんだ?」
「してください!! 私はそんなものではございません! 大袈裟ですわ!」
「いいや、そんなことはない。あなたを追い出した伯爵家は、あなたを屋敷に監禁したばかりか、あなたのことを貴族から隠していたと言われ、火消しに必死らしい……」
「……」

 それは、隠していたのではなく、知らなかったのではないでしょうか。
 何しろ、私に魔物と戦う十分な魔力がないと知られてからは、八つ当たりのように鞭で打たれ、雑務と魔法の道具の整備を言い付けられる日々でしたもの。

 ジレスフォーズ様は真剣な顔で言った。

「だから、頼む。夜会に出てくれ」
「……」

 私だって、本音では出たい……そこで美しく着飾って、イールヴィルイ様にご挨拶できたら……
 そうやって想像する私は、清楚で身のこなしも美しい令嬢の私。けれど、実際の私はこれ……イールヴィルイ様に引かれるのも嫌われるのも嫌っっ……!

 けれど、ジレスフォーズ様にここまで言われては、断るわけにもいかない。あれから、封印の魔法の杖についての調査と報告に追われていたのだから、だいぶ疲れが溜まっているはずだ。
 ジレスフォーズ様には感謝している。伯爵家が私と縁を切った時、すぐに私を追い出すこともできたはず。それなのに彼は私をつまみ出すことも、酷い扱いをすることもなかった。おかげで、街に出る準備だって整えることができたのだ。

「あの……ちなみに、ジレスフォーズ様が今、夜会に出ろと繰り返されるのは……」
「夜会に出席される貴族の多くから、あなたに会いたいと言われている。誰もが、あなたに興味を持っているんだ。あの事件が示すように、魔力というのはいつ何時失われるか分からない。そんな中、あなたの話が出たんだ。あなたが出席しないと、私は死罪だ」
「それくらいで死罪にはならないはずです」
「心労で死ぬんだ。だから、夜会に出るんだ」
「……」

 やっぱりジレスフォーズ様、かなり追い詰められている……

 彼を悩ませるわけにはいかない。

「あのっ……! ジレスフォーズ様……」
「リリヴァリルフィラン、夜会なんか出たら何をしでかすかわからないもんねー。失敗して夜会を台無しにしたら……閣下に嫌われるーー!」
「やめてください!!」

 怒鳴りつけて振り向けば、そこには見知った竜の姿。小さな羽を広げて、驚く私から離れて大笑いしている。

「き、キディック!!??」
「久しぶりだねー!! リリヴァリルフィラン!!」

 先ほど、夜会で失敗したら、なんて言ってからかったのは、彼だったようだ。

 彼は、閣下たちとともに王城へ向かったはず。それなのに、なぜここに?

 私は、あたりを見渡した。

 けれどキディックはそんな私を見て、楽しそうに笑う。

「あの男なら来てないよ」
「え…………?」
「イールヴィルイを探しているんじゃないの?」
「…………」

 探していた。もしかしたら、閣下も来ているんじゃないかと思ってしまった。そして、いないと知ってひどく落胆している。

 ……やっぱり私は、閣下にお会いしたい。嫌われるのは怖いけれど、会えないのはもっと苦しい。

「……キディック、あなたはなぜ、ここにいらっしゃるのです?」
「僕に対する興味が遅くない? 別にいいけどー。王城にいたけど、連れてこられちゃったんだよ!! リリヴァリルフィラン、夜会に出ないの?」
「な、なぜあなたがそんなことを……」

 たずねても、キディックは笑うばかり。

 すると、クリエレスア様がぱんっと手を叩いて、嬉しそうに言った。

「リリヴァリルフィラン様!! でしたら、リリヴァリルフィラン様が夜会に出る際の用意は、どうか私と私の侍女たちにお任せください!! その会場のどなたよりリリヴァリルフィラン様を美しくして見せますわ!」
「クリエレスア様……」

 戸惑う私に、クリエレスア様は声をひそめて言う。

「リリヴァリルフィラン様!! よくお考えになってください!! リリヴァリルフィラン様が夜会で閣下にお会いできることを楽しみになさることの倍、閣下はリリヴァリルフィラン様にお会いしたいと思っているはずですわ!!」
「……クリエレスア様……………………」
「……リリヴァリルフィラン様?」
「そんなの、違いますわ……私だって……閣下にお会いしたいのです!!」

 私は、顔を上げてジレスフォーズ様に振り向いた。

「ジレスフォーズ様っ……! 私っ……!」
「あ、そうだ。イールヴィルイ様からも、贈り物が届いているぞ」
「い、イールヴィルイ様からっ……!? それを早くおっしゃってください!!」
「すまんすまん。他にもいくつかあって……あなたの塔にはしまいきれないほどだ。他に必要なものがあれば言ってくれ。準備は私がする」
「……ジレスフォーズ様…………あ、ありがとうございます!! ……ぜひ、夜会に出席させてください!」
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