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84.心配です
しおりを挟むホウィンドーグ様は、嬉しそうに私に頭を下げる。
「ありがとうございました。リリヴァリルフィラン様。夜会には出席されるのですよね?」
「え、ええ……もちろんでございます……」
「その格好はどうなさったのです? ランフォッド家からの贈り物は、受け取っていただけませんでしたか?」
「いいえ……いただきました。イールヴィルイ様から、美しいものをいくつも……」
閣下から贈られたドレスはとても多くて、夜会の日のドレスを選ぶだけで、一日が終わってしまいそうだった。クリエレスア様に付き合っていただいて、今日着るのものを選んだけれど、今は、動きやすい魔法使いのローブを着ている。今日は早朝から魔物がいないか城の見回りをしていたので、ドレスを汚してしまったら困るからだ。
ジレスフォーズ様は、魔物の見回りより夜会に出席する準備をして欲しそうだったけど、この城の安全だって大切なこと。ジレスフォーズ様には「申し訳ない」なんて言われたけれど、私は嫌ではない。何しろ、この夜会を最後に、私は城を出るつもりでいる。結局ジレスフォーズ様にはお話できなかったけれど……
「も、もちろん夜会までに、イールヴィルイ様にいただいたドレスに……」
「いいえ。そうではなく、ランフォッド家から贈らせていただいたものです」
「ランフォッド家から……? それは……どういったものでしょうか……」
「おかしいですね……ジレスフォーズ様に確認してみます」
「……」
ジレスフォーズ様……最近忙しくて、ますます疲れているようだったけれど、もしかして、誰から何が贈られて、どこにしまったか分からなくなっているんじゃ……夜会の前に、ジレスフォーズ様に会いに行ってみようかしら……少し心配だ。
そんなことを話していると、ホウィンドーグ様の背後の十字路を、見覚えのある人影が歩いていくのが見えた。
今の、まさか……デシリー様!?
彼女が戻ってくるという話は聞いたことがない。それなのに……
しかも、その背後を彼女について歩いていくのはエウィトモート様とクリエレスア様。
なぜ、クリエレスア様とエウィトモート様が、デシリー様と一緒に?
おそらく、デシリー様に呼ばれたのでしょうが……帰ってきて早々、クリエレスア様を呼び出すなんて、放ってはおけませんわ!
「あ、あのっ……ホウィンドーグ様!」
「リリヴァリルフィラン様、私のことは、どうかホウィンドーグとお呼びください」
「わ、私はもう貴族ではありませんし、ランフォッド家の執事の方に、そんなことはできませんわ! ホウィンドーグ様、わ、私、その……き、急用ができてしまいました! よろしければ、これで失礼したいのですが……」
「ええ。構いません。私も共に参ります」
「え?」
「あちらを歩いていかれたデシリー様のことでしょう?」
「……気づいておられたのですか?」
「もちろんです」
「けれど、それでしたら尚更、あなたを巻き込むわけには参りませんわ。アクルーニズ家とのこれ以上の衝突は、あなた方も望まないでしょうから……」
「私のことは、どうかご心配なく。隠れていますから。ランフォッド家の執事として、そう言った場面の対処には、慣れております」
「……分かりましたわ。では、どうかお気をつけて。何かあったら、私があなたをお守りしますわ」
「頼もしいですね。では、どうかお願い致します」
そう言ったホウィンドーグ様を連れて、私は、デシリー様が向かって行った方に走り出した。
廊下を走っていくと、大階段の前で、デシリー様とエウィトモート様、クリエレスア様が、三人で立っていた。何か話し込んでいるようですが、クリエレスア様は困っているようだ。一体クリエレスア様に何の用!?
「クリエレスア様!」
私が呼んで駆け寄ると、クリエレスア様は驚いたのか、目を丸くしていた。
「リリヴァリルフィラン様っ……!?」
「クリエレスア様……よかった。ご無事で……」
彼女は、特に何もされていないよう。けれど、突然出てきた私を、デシリー様が睨んで言った。
「あら……リリヴァリルフィラン……久しぶりね」
「……デシリー様…………」
相変わらず、彼女の威圧感は恐ろしい。こうして対峙しているだけで、息が詰まってしまいそう。
けれど、彼女の前で、腰がひけてるなんて悟られたら、何をされるか分からない。
「お久しぶりです。デシリー様。お会いできて、光栄ですわ」
私が、にっこりと笑顔を作り挨拶すると、デシリー様も笑みを浮かべて言った。
「ええ。私もよ。リリヴァリルフィラン。まさか、またあなたに再会してしまうなんて。出会い頭に魔物と間違えたふりをして頭を弾き飛ばせばよかった」
「…………絶好調ですわね、デシリー様。けれど、私の頭を飛ばすのは無理だと思います。アクルーニズ家の方は、魔力を失われたのでしょう?」
「あら。少しは回復したのよ? それに、リリヴァリルフィラン……魔力なんてなくたって、私はいつでもあなたの頭を切り落とせるわ」
「…………」
そんな冗談、普段ならまるで怖くないのだけど……デシリー様が言うと、迫力が違う。
けれど、彼女のこの恐ろしい態度にも、すでに私は慣れている。そんなことより、夜会が行われる日にこの城に来たデシリー様を放っておく方が恐ろしい。
どうせジレスフォーズ様には無理を言って押し切ったのでしょうが、閣下のいらっしゃる夜会の邪魔はさせませんわ!
「わざわざ私の首を切るためにこんなところまでいらしてくださいましたの? そんなことのためにわざわざいらっしゃったことも気持ち悪いですし、余計なお世話ですわ」
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