【完結】極悪と罵られた令嬢は、今日も気高く嫌われ続けることに決めました。憎まれるのは歓迎しますが、溺愛されても気づけません

迷路を跳ぶ狐

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86.悪ふざけですか?

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 デシリー様の使い魔が現れ、すぐに動こうとしたクリエレスア様とエウィトモート様を、私は目配せで制止した。

「悪ふざけがすぎますわ……デシリー様」

 これは、まるで風船のような、殺傷能力もなければ魔力もほとんどないものだ。けれど、デシリー様がわざわざこんなふうに皆様の前で目立つだけの使い魔を使い、私を襲わせることには何か意味があるはず。

 人を集め、皆様の前で私を魔物と戦わせ、私に魔力がないことを示す気かしら?

 私は杖をしまい、魔物に飛びかかった。これだけ魔力が弱い魔物なら、杖なんていらない。魔物の魔力を見つけ出し、その絡まりを短剣で断ち切ると、魔物は大きな音を立ててあっさり破裂した。

 衝撃で吹き飛んでしまう私を、クリエレスア様が抱き止めてくれる。

「リリヴァリルフィラン様!」
「クリエレスア様……あ、ありがとうございます」

 彼女にお礼を言って、私はデシリー様の方に振り向いた。

 なんのつもりか知りませんが、あなたの思いどおりにはさせない!!

 そう思って、デシリー様に飛びつく。

 さすがにこれには驚いたのか、デシリー様は身を引いて喚いた。

「リリヴァリルフィラン!? な、何をするの!!??」

 デシリー様がこんなふうに焦るなんて、少し笑ってしまいそう。何をするって、あなたの好きにさせないことをするだけですわ!

 私は、彼女に抱きついて声を上げた。

「もー! デシリー様ったら!! 悪ふざけがすぎますわーーーー!!」
「はあ!??」

 どういうつもりか知りませんが、デシリー様が皆さんの前であからさまに私を攻撃した。それにはなんらかの意図があるはず。それなら私は、デシリー様が私を攻撃した、という事実をひっくり返すだけですわ!!

 私は、彼女の耳元で囁いた。

「残念でしたね。デシリー様。私、そう簡単にあなたにやられてなんてあげません!」
「リリヴァリルフィランっ……! だからあなたは分かっていないのよ!」
「何を? あなたの意図ですか? そんなの、関係ありませんわ! 私は私のやりたいようにするだけです!」
「……ふんっ……! これは、私からの置き土産よ。リリヴァリルフィラン。せいぜい今の自分の立場を思いしればいい。そして、意中のあの方以外に連れ去られてしまえばいいんだわ!」
「はあっっ!??」

 今のが一番腹立たしいです! 私、イールヴィルイ様以外に召し抱えられる気なんて、まるでなくってよ!!

 カッとなった私は、すぐにデシリー様に詰め寄ろうとしたけれど、それより先に、エウィトモート様がデシリー様たしなめた。

「デシリー……これ以上城の中で危険な真似をすることは許さない。今すぐやめて」
「あらあら……もちろんですわ。私はただ、リリヴァリルフィランに祝砲を聞かせてあげただけよ」

 そう言って、デシリー様は私から離れて、意地悪そうに笑って身を翻す。

「では、私はこれで。リリヴァリルフィラン」

 彼女が去って行き、エウィトモート様が私に駆け寄ってきた。

「ごめんね。リリヴァリルフィラン……怪我はない?」
「もちろんですわ! あの程度! 大した魔力もない使い魔でしたし……デシリー様らしくもない。どういうつもりかしら」
「今は俺っていう監視役もいるうえに、ああ見えて、魔力がまだ戻ってないんだよ」
「監視役? エウィトモート様が?」
「うん……アクルーニズ家は、この城での件に加えて、自分たちの屋敷で封印の魔法の杖を暴走させている。全く懲りてないって判断されて、更に処分が重くなったんだよ。結界に加えて、各地の魔物退治に協力することになったんだ。監視付きで」
「その監視役が……エウィトモート様ですか?」
「そんな顔しないでよー。アクルーニズ家に頭が上がらなかった俺じゃ、頼りないのは分かってるよ。だけど一応、アクルーニズ家の魔力を抑えるための魔法の道具は持たされてるし、な、なんとかなるかなーって……」

 そう言って、彼は杖を見せてくる。魔力を制御するためのものだ。

 すると、それを聞いたクリエレスア様が言った。

「頼りないにしては、王城で、これでアクルーニズ家を操れるー、なんて喜んでいた貴族の方を怒鳴りつけたと聞きましたわよ?」
「……怒鳴ったつもりはないよ……この城で起こったことを利用して、アクルーニズ家から魔法の道具を奪い取ることしか考えてない奴らに腹が立っただけ。ジレスフォーズにも迷惑かけちゃったし、もうここの平穏を脅かすような真似はさせないよ」

 彼は、私に振り向いて言った。

「何か困ったことがあったら言って。特に、その……これからのことについて……俺の監視が甘かったせいだし」
「監視というか……全く止めようとはなさっていなかったようですが……」
「……俺も、リリヴァリルフィランには、この城からいなくなって欲しくないから」
「……? 一体何をおっしゃっていますの?」

 訳がわからず戸惑うけれど、そんなことをしている間に、廊下には次々人が集まってくる。すぐに私はその場に集まった皆さんに囲まれてしまった。デシリー様の叫び声に加えて、先ほど私が魔物を破裂させた時の音は城中に響き渡っていたらしい。

「リリヴァリルフィラン様!! ご無事ですか!?」
「お怪我は!!??」

 口々に言う彼らは、身分の高い貴族たちだ。夜会に出席される方々かしら? ど、どうしましょう……

 知らない方が多いけれど、夜会などが開かれ城を守っていた時に見かけたことがある方もいた。
 私に一番最初に声をかけてきたのは、子爵家の御令息で、その隣の方は伯爵家で最近当主になられたばかり。貴族に仕える従者の方もいらっしゃるようだ。そんな方々を相手に、間違っても「どいてください!」などと言えるはずもなく「え、ええっと……」と戸惑った返事をするだけになってしまった。
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