【完結】極悪と罵られた令嬢は、今日も気高く嫌われ続けることに決めました。憎まれるのは歓迎しますが、溺愛されても気づけません

迷路を跳ぶ狐

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89.そんなことをした覚えはありません!

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 ジレスフォーズ様が、「リリヴァリルフィランを追い出すつもりはない」と宣言されて、場に動揺が広がる。

 すると、ホウィンドーグ様が、パンパンと手を叩いた。

「皆様。どうか落ち着いてください。リリヴァリルフィラン様もジレスフォーズ様も困っていらっしゃいます」

 彼は、優しくそう言って、言い争う方々の前に出る。

「それに、リリヴァリルフィラン様は、すでにランフォッド家のイールヴィルイ様とご結婚されています。勝手なことを言うのはやめていただきたい」
「な、なんだとっ……!? け、結婚!??」
「そんな話は聞いたことがないぞ!!」
「ど、どういうことです!?」

 皆さんが戸惑って口々にホウィンドーグ様にたずねている。

 けれど、一番驚いたのはやっぱり私。

 結婚!!??

 そんなことした覚えはまるでないのですが!?? なぜこんなことをおっしゃるの!?

 驚く私はホウィンドーグ様を見上げるけれど、彼は柔和な笑みを浮かべている。嘘をついているようには見えないし……きっと何か勘違いをしていらっしゃるのだわ!!

「……あの、ホウィンドーグ様……私、結婚なんて全く覚えがないのですが……何かの勘違いではないでしょうか」
「ご安心ください。奥手でゲスなイールヴィルイ様に変わり、私が全ての手続きを進めております」
「はい!?」

 手続きって、この方何をおっしゃっているの!? そんなことになっているなんて、聞いたことがない。

 それなのに、ホウィンドーグ様は平然と続ける。

「何しろ、数多の縁談を木っ端微塵に打ち砕き、ついには縁談なんてまるで来なくなってしまったイールヴィルイ様のもとに、あなたが現れたのです。すぐに結婚の準備をするようにと、一族の方々に命じられております」
「お、お待ちくださいっ……! 命じられたからと言って、そんなことをされては困りますわ! そ、それに、ランフォッド家は、私に魔力がないことをご存知ないのですか!? ランフォッド家といえば、強力な魔力を持ち、国の魔法の研究に携わる一族のはずです! それなのに……」
「もちろん、存じ上げております。しかし、魔力なんてどうでもいいのです」
「ど、どうでもっ……!?」
「はい。確かにランフォッド家は、最強の魔法使いの一族と言われていますが、その目的は、貴族として、魔物から王を、国を、民を守ることです。魔力など、あろうがなかろうが、どうでもいいのです。長く城を守り、魔物を遠ざけて来たあなたを、一族の方々はぜひ迎えたいと考えていらっしゃいます」
「ホウィンドーグ様…………」

 まさか、そんなふうに言っていただけるとは思わなかった。魔力のない私は、長く魔法を研究して来たランフォッド家からは疎ましく思われるとばかり思っていたのに……

 驚く私に、ホウィンドーグ様は優しく微笑んだ。

「リリヴァリルフィラン様。私どもも、魔力をほとんど使うことなく魔物を相手にするあなたには、非常に興味を持っております。しかし、そのことがなかったとしても、あなたにはランフォッド家に来ていただきたい。あなたがイールヴィルイ様の意中の方なら尚更……当主様には、どんな手を使ってでも連れてくるようにと命じられております」
「…………どんな手を?」

 なんだかまた不穏なことを言い出した。

 もちろん、ランフォッド家に召し抱えていただけたらいいな、とは思っていたけれど、私はわがままなのです! 意に反することには従えませんわ!

 けれど、ホウィンドーグ様は淡々と続けた。

「とりあえず、もたもたしているイールヴィルイ様に代わって、婚姻の手続きは進めております。すぐにでも、婚姻を結べます。なんなら、今すぐにでも。夜会の場を、結婚発表の場にしませんか?」
「しません」
「なぜですっっ!!??」
「なぜ驚かれるのです!? 勝手にそんなことをされては困りますわ!」

 勝手にそんな手続きを進められては困る。そもそも、そんなことを同意なく勝手に進めることなんてできないはずなのに。

 それなのに、ホウィンドーグ様はしばらく考えて的外れなことを言い出す。

「……なるほど、婚姻の準備をしていないことを心配しておられるのですね」
「いいえ。そんなことより、別のことを心配しています」
「ご安心ください。既成事実と初夜の準備は整っております」
「そんなこと心配してません!!」
「さらには婚姻の式典のためのドレスも用意しております。こちらは一族からの贈り物で、選りすぐりの惚れ薬、媚薬をご用意致しました」

 そう言って、ホウィンドーグ様は、魔法で彼の身長ほどもある箱をいくつも出現させては、次々に積み上げていく。あっという間に廊下には箱の山ができてしまった。

 驚く一同の前で、ホウィンドーグ様は箱の中から一本の瓶を取り出し、「こちらは当主様おすすめの媚薬です」などと言い出した。

 もう怖い。縁談が来なくなったのは、閣下のせいだけではないのではないでしょうか……

「さらには、夜を盛り上げるための各種玩具なども用意してございます。そしてこちらは、結婚の際の肖像画になります」

 彼は魔法で、天井まで届きそうな肖像画を取り出して見せてくる。美しい額縁に飾られたそれには、私と閣下が、ランフォッド家の紋章が描かれている美しい衣装に身を包み、仲睦まじく並んでいる。しかし、そんなもの描かれた覚えはないし、そもそも結婚の際って、そんなことしてない!!

「ドレスや媚薬などは、ジレスフォーズ様を通してあなたにお渡ししたはずなのですが……」

 そう言いながら、ホウィンドーグ様はジレスフォーズ様に振り向く。

 すると、ジレスフォーズ様は顔をそむけて言った。

「い、いやー……ホウィンドーグ様……あ、あのようなものはさすがに……リリヴァリルフィランは、その……魔力がほとんどないため、魔法から身を守ることが苦手です。ですからー……そのぉー……あ、ああいったものを贈られてしまうと、その……箱を開いた途端、魔法にかかってしまう可能性もございまして…………そ、そういったものを贈るのはどうかなーと……いえ! も、もちろん、私は素晴らしい贈り物だと思うのですがっ!!!! し、しかし、い、イールヴィルイ様のご意向もおうかがいしておかないとと思いまして!! ですからー、そのー、夜会の日でもいいかなーーと…………」

 ホウィンドーグ様に睨まれて、ジレスフォーズ様は迷いながらも弁解を繰り返す。

 そんなものを送られていたら、あっさり魔法にかかった私は、久しぶりにイールヴィルイ様と再会できたとしても、何をしていたかわからない。

 私は、ジレスフォーズ様に心底感謝した。
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