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88.追い出す気はない
しおりを挟むどうしましょう……相手は子爵家の御令息。無下に断ることはできない。できるだけ丁重にお断りしなければ。私はイールヴィルイ様以外の、誰にも召し抱えられる気はありません!!
「あ、あの……ディーフズ様。私は、どこへも行く気はございませんわ」
戸惑っていると、私とディーフズ様の間に、また別の方が入ってくる。おそらくは、どなたかの執事でしょう。彼は、ディーフズ様に振り向いた。
「リリヴァリルフィラン様は嫌がっていらっしゃるようですよ? 諦めた方がよろしいのではありませんか? バレヌ家のおぼっちゃま」
「な、なんだ! 貴様はっ……! リリヴァリルフィラン様には、僕が大事な用があるんだ!!」
「それは私も同じです。私は、ムイエット家の執事、ジョーゼフと申します」
「執事!? 執事風情がっ……割り込むのはやめてもらおうか! リリヴァリルフィラン様のことは、バレヌ家がお迎えする!」
それを聞いて一番驚いたのは私。お迎えするなんて、勝手にそんなこと言われても! 私は行くなんて言っていませんわ!
執事の方も、すぐに反論する。
「勝手にそんなことをおっしゃられても困ります。私はリリヴァリルフィラン様を必ず連れ帰るようにと、当主様から命じられているのです」
こっちも勝手なこと言い出した! 命じられているのですって、命じられても困ります!!
デシリー様……こうなることが分かっていて、人を集めるような真似をしたな…………一番面倒臭い仕返しをっ……!!
皆さんが口々に叫ぶ中、クリエレスア様が彼らに言った。
「お、お待ちくださいっ……皆さま!! リリヴァリルフィラン様が困っていらっしゃいますわ!」
それでも、集まった方々は次々に声を上げて私に迫ってくる。十数人はいそうな方々に囲まれて、そろそろ怖い。雑に断るわけにはいかないし、かといって丁寧に断っていたらいつまで経っても終わらなさそう。
どうしようか迷っていると、誰かが私の前に、私を庇うようにして立った。
ジレスフォーズ様だ。
彼も、あの使い魔が破裂する音を聞いて駆けつけてきたようで、私に振り向いて言った。
「リリヴァリルフィラン……こんなところにいたのか……イールヴィルイ様がいらっしゃるまで隠しておくつもりだったのだが……」
「じ、ジレスフォーズ様……? それはどういうことですか?」
戸惑う私を自らの体で隠して、ジレスフォーズ様は、集まった皆さんに振り向いた。
「み、皆様、どうか落ち着いてください……こ、こちらのリリヴァリルフィランは、まだ……我がバシス家を守る魔法使いでして……」
それを聞いて、即座にディーフズ様が言った。
「しかし、ジレスフォーズ様!! あなたは彼女を追い出すとつもりでしょう!」
「な、なんのことでしょう……この城をずっと守って来たのは、リリヴァリルフィランでして……わ、私は彼女を追い返す気など、まるでないのですが……」
私は、ジレスフォーズ様の背後で、その背中を見上げた。
まさか、ジレスフォーズ様がこんなことをおっしゃるなんて……
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