婚約破棄された男が飛びついてきたので遊び半分で求婚して拷問するために連れ帰ったらすぐに惚れてしまい何とか好かれたい嫌われ者の俺の話

迷路を跳ぶ狐

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2.それは私の犬です

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 訳のわからないその男は、俺を見上げて言った。

「僕、リュジレグって言います!」
「…………リュジレグ?」
「あっ……それで、そのっ……!」

 その男が言いかけたところで、男の背後から、誰か歩いてくる。

 くそ…………面倒な連中が来た。

 今日の会議のために貴族を集めた勇者の一行だ。

「ドレギウォラル殿!!!! 来ていたのか!」

 うるさいな……

 俺は今、リュジレグと話しているのに。

 そう言えば、この城で俺を呼び止める図々しい奴が、ここにもいたな……何人もの従者を引き連れ、護衛に囲まれて歩く男は、勇者と呼ばれる男、ダズトガヴェロズだ。

 楽しそうにしているが、こちらはうんざりしている。

 この男は、かつて巨大な魔物を倒した一族の一人で、有力貴族の中で最も魔力を持つと言われている。数年前にも、巨大な魔物を討伐した。他にも多くの貴族が討伐に関わったが、特に名誉を得たのは、彼と彼に近い貴族だった。

 討伐は成功したが、人的被害も出たし、街の被害も深刻。そこから湧く不満や怒りは、小さな魔物討伐を割り当てられた貴族に向けられた。俺の一族もそのうちの一つ。

 俺はもともと王家が嫌いだし、勇者なんて称号は、この男にくれてやるが、貧乏くじだけを押し付けられるのはごめんだ。

 しかし、そんなこちらの感情など気にしていないようで、勇者は俺に笑顔を向ける。そして、微かに指で、周囲にいる従者たちに合図を出した。

 すると、俺のそばにいたリュジレグを、勇者の従者たちが取り押さえる。

 うつ伏せのまま数人の男に床に押さえつけられたリュジレグは、ひどく苦しそうにしていた。

 そんな彼を、勇者ダズトガヴェロズはひどく冷たい目で見下ろしている。

「全く……今度は何をしようとしていたんだ?」
「…………」

 答えないリュジレグは、ひどい苦痛に顔を歪ませ、その場で苦しそうに喘ぐ。押さえつけられた彼の腕から、嫌な音がした。

 ……あのまま押さえつけていたら、骨が折れるか体が潰れるかするんじゃないか?

 複数人に取り押さえられ、動けないリュジレグの頭を、さらに従者が床に押し付ける。

「あっ…………ぅっ…………!」

 ……寄ってたかって一人を嬲るとは……胸糞悪い連中め!

 呻くリュジレグを押さえつける連中を、俺は魔法の風で弾き飛ばした。

「ぐっ…………!」

 壁に叩きつけられて、動かなくなる従者。

 ふん……俺の前でふざけた真似をするからだ! 風の魔法を用意しておいて、よかった。

 従者を傷つけられた勇者は俺を睨みつけ、強い口調で言った。

「…………ドレギウォラル……何をするんだ? 彼らは、リュジレグがあなたを襲おうとしたから取り押さえただけだ。それを…………暴力を振るうなんて、どういうつもりだ? 抗議する!」
「抗議? 抗議だと……? 抗議…………抗議ねぇ…………それで? なんだ? 俺が……襲われそうだったって? このチビにか? …………ははは………………」

 俺は、哄笑をあげた。

「はっ…………はははははっっ…………! 貴様っ……どうかしているんじゃないかっっ!!!? それとも、勇者というものは、バカなのかっっ!?」
「なんだと……侮辱は許さないぞっ……!! 謝罪しろ!! 確かに彼らはあなたを守ろうとした!! それをあなたは魔法で攻撃したんだっ!! こんな理不尽なことがあってたまるかっ!! これだから、ヴァトドレル家は!」
「はははっ…………お、お前の方こそ……どうかしているんじゃないか? 一部始終を見ていなかったのか? それとも、見ていても傍観していたのか? 国の貴族が襲われいるのに、それだけ従者を引き連れた勇者のお前は見物かっっ!! これは笑いものだ!! ははははは!!」
「私はそんなことはしていない!! リュジレグがあなたに攻撃を仕掛けようとしていたから、あなたは彼を打ち倒したのだろう? 私の従者たちは、あなたの加勢をしようとしただけだ。それなのに……」
「何を言っているのか分からないなあっ…………! 俺はただ、リュジレグが駆け寄ってきたから縛っただけだ」
「…………駆け寄ってきたから?」
「ああ。そうだ」
「駆け寄っただけだと言うのか? リュジレグがしたことは」
「ああ、そう言っているだろう?」
「……それならあなたは、ただ駆け寄って来ただけの無抵抗な彼を、魔法で攻撃して縛り上げたと言うことか?」
「ああ! そうだ!!」

 胸を張って言うと、勇者は呆気に取られたのか、ポカンとしていた。

「リュジレグは、俺に許可なく近づいた。そんな無礼を犯したのなら、俺に拘束の魔法をかけられ、無様に鎖で縛り付けられて拘束されるくらい、当然の報いだろう?」

 嘲笑しながらキッパリと答えてやる。すると、勇者はついに黙り込む。

 ついに反論できなくなったか?

 いい気味だな!

 けれどすぐに我に返ったのか、ひどく驚いて悲鳴にも近い声を上げた。

「なんてっ……なんて傲慢なっ…………!! なんてことだっ!! あなたはそんな理由で彼を縛り上げたというのかっっ!!?? 城で禁じられている拘束の魔法まで使って!!?? そんなことまでして、ただ駆け寄って来ただけの男を惨めに縛り上げ、床に倒したと言うのかっっ!!!! あなたは、ルールというものを知らないのか!! いや、それよりも、こんな残虐な仕打ちを……ただ駆け寄って来ただけの彼に!! なんてことをするのだ!! 悪徳の当主めっっ!!」

 勇者ダズトガヴェロズがそう言うと、周りにいた従者や貴族たちから、冷たい目を向けられる。そして「何もしていない者になんてことを」、「なんて乱暴な!」と囁き出した。

「乱暴だと? それの何が悪い? それに俺は、この男のもがき苦しむ姿が気に入った」

 俺は、リュジレグの腕を引っ張って立たせた。

「……うっ…………」

 ……ずいぶん可愛い声を出すじゃないか…………

 しかし、一人で立つのは辛そうだ。

 どれだけ強く押さえつけられていたんだ? 放っておいてもいいが…………最初にこいつを魔法の鎖で拘束したのは俺だからな……

 少しくらい、抱き寄せて立たせてやるか。

 だが、抱き寄せた体は、ひどく弱々しいものに感じた。腕は骨のようで、肋のあたりにも、骨の感触がする。

 ……こんな体で、よく俺に駆け寄ってきたな…………
 触れた彼の頬は冷たい。唇はひどく乾いている。抵抗するような力も感じられない。体にはろくに力が入らないようだ。

 くそ……これでは気晴らしに辱めることもできないじゃないか……

「………………おい……貴様、リュジレグと言ったな……?」
「うっ…………は、はい…………あ、あのっ……あんまり強く抱き寄せたら痛いですっ…………どうか……離してください…………」
「……これは、俺を満足させた褒美だ…………」

 耳元で囁いて、俺は、彼に回復の魔法をかけた。

「うっ…………え?」

 驚いたのか、彼は自らの体を見下ろしている。極悪と言われた俺が、回復の魔法をかけるなどとは思っていなかったのかもしれない。

 だが、こう見えて俺は回復の魔法は得意なんだ。一族の馬鹿共が、よく怪我をするからな。

 回復はしたが、また余計なことをされては困る。俺はそいつを見下ろして言った。

「俺は、ドレギウォラルだ。これに懲りたら、二度と俺に近づくな」

 言ってから、彼の体を離して、解放してやる。

 リュジレグは、驚いた顔で俺を見上げていた。

 俺の名を聞いて、さぞかし怯えているだろう。

 ……ずっとそうして、怯えていればいい。

 怯えた目で見上げられるのは好きだ。畏怖されているような気になる。

 けれど、その男は怯えているようには見えなくて、むしろ……キョトンとしている…………のか?

 ……もう少し怖がるかと思ったのに。こいつ、大丈夫か? 状況が理解できないんじゃないか??

「おい……俺の話を聞いていたか?」
「え? は、はい!」
「…………」
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