悪女と蔑まれ処刑される令嬢は執着してくる元宰相閣下にだけは捕まりたくない。あなたにだけは嫌われたくないので溺愛しないで! 追ってもこないで!

迷路を跳ぶ狐

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32.全力で妨害します

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 ディーフェヴィルトが少し黙っていると、ロネリトラドはため息をつく。諦めたらしい。

「分かった……ディーフェヴィルト……協力に感謝する……」
「……」
「それと、もう貴族たちを脅すなよ!! 夜会の時に何を言った!?? ひどく怯えている奴もいたそうじゃないか!」
「俺は何もしてない。グラティローナに対する不満を彼女で晴らすのはやめろと言ったくらいだ。みんな、グラティローナたちにはうんざりしていたようだし、分かってくれたよ?」
「……それだけとは思えないぞ…………夜会のあの使い魔はなんだ? 言うことを聞かなければ、攻撃してきそうだったぞ!」
「言いがかり。ただの魔物を遠ざける使い魔だよ」

 答えると、ロネリトラドはまたため息をついていた。

 彼には恩があるし、国を守る対策には協力するが、城に戻る気はない。

 ディーフェヴィルトは、誰に伝えるわけでもなく、勝手に漏れた言葉をそのまま吐き出した。

「…………こう見えて……落ち込んでた」
「……? 今か?」

 不思議そうに尋ねるロネリトラドに、ディーフェヴィルトは違うと答えた。

 もっと前だ。

 追放が決まった時、別にここに未練があったわけじゃない。それでも、多少は辛かったように思う。

 あの谷の屋敷に移ってからは、のんびりと暮らせていた。それでも、どこか満たされなかった。

 そんな時に、彼女が屋敷にやってきた。

 それから、彼女と二人で時間を過ごすようになった。

 また、あの屋敷に戻りたい。あの屋敷で過ごした時間に戻りたい。そこにすっかり溺れていることに気づいた時には、もう、抜け出せそうになかった。

 戻りたい、そう口に出そうとして、かぶりを振る。

「俺は、彼女を連れて行く……それが、交換条件。飲めないのなら、俺がこの国を潰す」

 きっぱりと言った言葉に、そこにいた面々が顔色を変えた。別段、そんな顔をさせたいわけでもなければ、滅亡を望むわけでもない。

「冗談」

 すぐに訂正して、立ち上がる。

「ただの、決意表明です」

 彼女と夜会に出る夢は叶わなかったが、別に夜会に出たかったわけじゃない。ただ、彼女が喜ぶところを見たかっただけだ。

 やっと見つけた、安住の地だ。

(邪魔する者は、許さない………………)

 いつかのように、それまで自分が居を構えた場所を汚されるような気がしてならない。

 レイディルクライトルは、今でもどこか不安そうで、苦しそうな顔をする。
 ディーフェヴィルトはさっさと城を出たが、彼女はそれからもずっと、ここにいた。晒され続けた悪意が、その体に食いついているようで、そんな様子を見ると、息が苦しくなりそうだった。

 ディーフェヴィルトは、腹立たしいものを断ち切るように、その部屋を後にした。

「相談があれば、力になるよ……ノスティルフィリー様にも、彼女の力になってもらったって言う大きな恩がある。代わりに、もう追ってこないでね」

 微笑んで言ったディーフェヴィルトの言葉に、誰もが無言で頷いた。

 部屋の扉を閉めたディーフェヴィルトを、執事とメイドが迎えてくれる。

 執事の方が、ディーフェヴィルトに頭を下げて言った。

「引っ越しの準備が完了しました」
「そう……」

 答えながら、ディーフェヴィルトは歩き出した。

 メイドがたずねてくる。

「あの屋敷を出るんですか? 気に入っていたようでしたのに」
「谷の街から遠いから……レイディルクライトルは、冒険者として生きることが気に入っているみたいだし、俺にとっても、少し不便になってきた。あの谷、領地としてくれるみたいだし…………」
「単に、王家の手に負えないから押し付けられただけではありませんか?」
「彼らにとっては手に負えない魔物だらけの場所でも、俺にとっては、素材の宝庫だ。そこで相談なんだけど、レイディルクライトルは、どうやったら領主夫人になってくれるかな……?」
「……求婚したいということですか?」
「うん……」

 はにかみながらディーフェヴィルトが答えると、メイドは執事と顔を合わせ、二人揃って同じことを言った。

「全力で、妨害させていただきます」
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